第十一話 第一回・初代勇者の防衛戦③
お久しぶりです。知人がなろうで連載を始め、その過程で自分の作品も読んでいただけることになり、ちょっとモチベが回復したのでハーメルン版に追い付けるように更新を再開します。
といっても加筆訂正したい部分がかなりある上に自分の本業もかなり忙しいので連日とかは無理ですが。
というわけでなろう版最新話です、どうぞ。
どうも変な思考に凝り固まってる今代<勇者>パーティーの面子。では<勇者>本人はと言うと。
「俺は<勇者>なんだ……間違ってはいけない、間違ってはならない……間違っていない……間違っているわけがない……俺は正しい……そうだ、俺が正しいんだ!」
あ、だめだこりゃ……パニックになってるというか現実を受け止めきれてないみたいな。
「騎士団長、全軍を下げて迎撃準備を。この<勇者>みたいなナニカは俺が引き受ける」
「わかりました!」
さて、早くも間違った方向に進みつつある<勇者>。外的要因のせいとはいえ、その中心たる篠原がパニックになったのはある意味俺のせいでもある。<勇者>の先輩としても止めるべきだろう。
「は?どう考えてもお前が正しいわけねえだろう、馬鹿か?」
「な……偽物の分際で!」
「だから本物だと言っているだろ!」
とりあえずまだ説得目指しつつ適度に挑発を混ぜてるけど。もう嫌だこれ。
「良いか今代<勇者>。我々<勇者>の役割は、<魔王>を擁する魔族に対する人族の楯であり、剣だ。決して人族同士の内戦に参加してはならない。これをしっかり覚えておけ。そして今すぐ帰れ」
文武両道の篠原君ならそれくらいわかるだろ、とっとと帰ってくれ。
と、思ってしまったのがフラグだったのかもしれない。
「……俺は、<勇者>だ。この程度の、妨害に……屈してはいけない」
あ、駄目だこりゃ(二回目)。パニックが変な方向で収束してやがる。こうなったら力ずくでやるしかないんだよなあ……春馬さん千年前はお世話になりました。
「頭じゃ理解できなくなったか。ちっ、期待して損したぞ」
まだだ、俺から手を出してはいけない。
「勇人の様子がおかしいぞ!」
「きっとあいつに何かされたんだ!」
少なくともお前らが考えてるような事はしてないぞ俺は。
「偽物に?そういえば魔族だったか?」
ちょっと後ろに控えてた<勇者>パーティーがうるさい。おい、誰もそんなこと……言ってたな。川島直樹が。
「<勇者>を、勇人を助けるぞ!」
そう言って、妨害系を含む数多くの魔法が降り注いだので、
「<防衛業務委託・絶対障壁>」
<勇者>として防ぐ。これは千年前、春馬さんから付与された物。<防衛者>にしか使えない<付与魔法>の一つ、<防衛業務委託>。<防衛者>から任意の人物に対し、自分のスキルを一部付与し、業務を肩代わりさせる。無論付与したスキルは<防衛者>自身も利用可能。さらにそいつが裏切ったとしても、<防衛者>の意向だけでいつでも剥がせる付与だ。
「な……それは<防衛者>の……」
「そうだ。俺が譲り受けた力だよ」
先代からな。てか良く覚えてんな。
「まさか<防衛者>と<支援者>を殺したのは……」
おいおいちょっと待て<防衛魔法>は<防衛者>倒したら手に入るとかそんな便利な物じゃねえぞ。どう考えたらそうなる。ゲームか、ゲームなのか。倒したら倒した相手の技が使えるとか何それ。
「は?ちょっと待て、<防衛者>が殺された?!」
演技忘れるところだった。今の俺は何も知らない<先代勇者>国崎啓。
「とぼけるな!お前らが殺したんだろう!魔族どもめ!内山さんの仇!」
俺は入ってねえのかよ。さらに撃ち込まれる魔法を無力化しつつ尋ねる。
「おいおい冗談だろ……<防衛者>が殺された……だって?」
「そうだ、だから俺は仇を取るために<勇者>として魔族を滅ぼさなくては……」
「今回の<防衛者>と<支援者>は外れだったか、使えないな」
<先代勇者>として、客観的な事実を述べる。自分で自分を使えないって言うのはちょっとどうかと思うが、まあ実際設定から考えればこうなるしな。
「外れだったって……!」
「<防衛者>と<支援者>は、理論上……というか立場上は、二人だけで<勇者>パーティーと拮抗状態に持ち込める力がある。召喚された直後からな。たとえそのレベルが低くとも、魔族一人としか相討ちしてないのなら、力を使いこなせていなかったという事だ。つまり、外れだ」
厳しい評価だとは思わない。役割上それを出来る力はあると、俺は知っているのだから。
……あ、待て俺今ヤバイ事を口走った気がする。
「殺しておいて挙句その言い草か!」
ああ、気づかれてないのか? なら良いか。
<剣聖>が斬りかかってくるのを受けとめもしない。鎧にあっさり跳ね返され、傷一つとして付いていない。理由は簡単。純粋に武器としての格が違い過ぎる。<聖鎧>を貫けるのは<聖剣>くらいなものだ。
「そもそも俺は魔族ではないと何度言ったらわかるんだ……俺は初代<勇者>だ。<聖剣>も見せただろう、なぜ信じない?俺はわざわざお前たちに忠告するためにここに来たというのに」
正直もう力ずくでやるしかないような気もする。が、まだ一応言葉による説得をあきらめない体で話を続ける。
「忠告だって?」
「さっきからいっているはずだ、<勇者>は人族同士の戦いに手を出してはならない、と」
「……もう、これ以上、友達を喪う訳にはいかないんだよ……だから、安易に信じるわけにはいかない」
「<勇者>パーティーが全員退けばいい。そうすれば俺も退こう。元々我々異世界人はこの世界においてはチートクラスの能力の持ち主だ。たった一人とはいえ、戦争に介入されれば結果が変わってしまう。人族同士での争いは当事者同士でやらせればいい。我々には関係のない話なのだから」
俺がここにいる以上、<勇者>がこの戦争に介入する理由はなくなった。
「だとしても、そう言ってお前がこの後この戦いに参加しない保証は?」
お、これは理性と思考が戻って来たか?
「ないな。それはそれこそ信じてもらうしかないが、まあ……そいつらの様子じゃあ無理そうだな」
ただ本人の理性が戻ってこようと、他がすでに疑いで凝り固まっているのでどうしようもないが。
「騙されるなよ勇人!こいつは魔族に決まってる!」
ほらな。そして篠原の性格上、ここで退くことはできないだろう。彼は仲間内での争いを嫌うのだから。
「はぁ……それじゃあ仕方ないな。しばらく前線から後退してもらうぞ。それが先代たる俺の仕事だ」
今のこいつらじゃあ多分言葉じゃ通じない。俺が鎧を解いたところで、信じるか偽物呼ばわりされるかの二択。しかもかなり分が悪い賭けとなる。
可能な限り、真実を伝えぬように、なおかつコレを傷つけずに前線から撤退させる。
目的は変わらないが、手段はもう残り一つ。
心をバッキバキに折ってしばらく前線に立てないレベルに追い込むこと!
……俺も大概だな。
「大人しく退いておけばよかったものを……全員戦闘不能に追い込むからな……覚悟しろよ今代」
さあ<聖剣>と心を折りに行こう!え?さっきよりテンション高いって?気のせい気のせい。
別に久々に全力出せるから喜んでるわけじゃないぞ!
さて、言語による説得を早々に諦め、改めて肉体言語を以てOHANASHIする事にした。
相手の想定最大戦力は27名。内戦闘系と支援系が何人ずつ居るのか、遠距離系と近距離系の比率は。
分からないことが多すぎるが、まあ、普通はこういうものだろう。ゲームじゃあ普通だが、相手についてすべてわかってるとかどんなヌルゲーだ。
まあそれはさておき。今回の作戦達成目標は、<勇者>パーティー全員の戦闘不能もしくは戦闘継続意志の喪失、並びに<聖剣・正義>の破損。
とりあえず前衛を火力に任せて圧し潰し、後衛をサクッとやっちゃった後に、見せつけるように<正義>を折る。この時に殺してはいけない。出来れば意識も落としたくない。<正義>折るの見せないといけないからね。
思ったより制限が多いな……まあどうにか出来るでしょう。今代のレベルは、高めに考えても20くらい。俺は300、これだけ差があれば、手加減も恐らく楽だ。
それに、あっちと違ってこっちでは魔法があるから、骨折あるいは四肢のいくつかを失っても、対処さえすれば死ぬことは無い。絵面はかなりグロだが、まあ自分でこの世界に残ると決めた以上、それは<勇者>として戦うと宣言したも同然。本来の相手は不在とは言え、戦う以上、特に不死身である<勇者>は、自分も時にやられる側になり得る事を知ってもらわなくてはならない。
と言うわけで早速行っちゃいましょう!
まず、一番近い位置にいる<剣聖>から。予備動作なしに<縮地>で距離を詰め、相手の右側に付ける。そのまま前に構えていた剣の真横から<聖剣>を叩きつけて折る。
「なにっ?!」
そのまま今度は相手から見て右側に移動して、利き腕、つまり右腕を肘から切り落とした。そして仕上げに両足の腱を切る。
「――まず一人目」
「――へ? あ? 俺、のう、で? ……アアアアアアアァッ?!」
崩れ落ち痛みに耐えきれず叫ぶ<剣聖>の後ろに立ち、そう呟く。
「孝弘?!」
「安心しろ、止血さえすれば死ぬことは無い。<再生魔法>を使えばまた動けるようにはなるさ。戦えるかどうかは別だが」
一瞬の出来事に驚き、<剣聖>の名を呼ぶ……槍持ってるから<槍術師>かな?に告げる。この世界では一部を除き、身体の欠損は治る。向こうでは致命傷クラスでも<回復魔法>を併用すれば治る。
それよりも。
「――隙あり」
「なっ?!」
槍を跳ね上げて彼の周りを一周しながら手足の腱を斬る。直後に最初の位置に戻る。
「二人目。戦闘中に意識を相手から外すとはいい度胸だ」
これは少々難しくはあるだろうが、戦いの基本だろう。傷ついた味方は後衛に任せて、それこそその後退時間を稼ぐために戦うべきだろう。そんなこともわからないのか……ってそういえばこいつら数か月前まで一般人だったぜ忘れてたよ。
前衛は残り……7人か?うち<勇者>は除外するとして、希薄な気配が2人……これは<暗殺者>か。それと鎧甲冑ってことは<騎士>か?が2人、1人は武器無しだから<拳闘士>か。軽装なのが1人……いや、2人増えた、1人は女子か、ふむ。短剣と……投げナイフかあれは。だとすると<狩人>と<探索者>かな?増えた方が恐らく<狩人>だろう。
「とっとと回復してやれよ<回復術師>、何人いるか知らんがな。ああ、<治癒術師>と<聖女>、お前らは駄目だ」
<回復術師>の行使する<回復魔法>は、HPのみを回復する。身体の欠損や、病気の治療は不可能。よって、致命傷を喰らったときには、時間稼ぎ程度にしかならない。
一方で<聖女>及び<治癒術師>の行使する<治癒魔法>及び、聖女のみが使える<再生魔法>は、病気やケガを、<再生魔法>ならば部位欠損までも、治療できる。ただしHPは回復できない。全く、良く出来ているものだ。
さて、残された前衛で一番面倒なのは……<騎士>だな。
<縮地>を発動。側面からまず左腕を斬る。んでそのまま首……じゃなかった、剣を持った右腕を切り落とし、断面に<火球>を発生させて止血。あ、最初からすれば良かったかな?今更ながら<剣聖>にも同様の措置を行う。
「ガッ……ッ!」
間髪入れずもう一人の<騎士>を目指し<縮地>。先ほどと同様にやろうとしたら、楯を向けてきた。ふむ、中々筋が良い。
が、甘い。
斬りこんだ<聖剣>は楯ごと相手の左腕を斬った。
「なっ……ッグ!」
「動きは良かったんだがね……四人目、次は誰だ?」
ふむ、女子をやるのは少々後味悪そうだから、ここは嫌いなものは先にの論理で、<狩人>をやりましょう。
<狩人>と<探索者>は軽装だから下手な事は出来ないよなあ……面倒だし魔法でやるか、魔法ならまだ威力の調節はしやすいからな。
「<光槍>」
とりあえず最小限度まで威力を落とし、第二級光属性攻撃魔法を放つ。
「<光槍>!」
消えた?!……いや、違うな。先ほどまで沈黙していた<勇者>の方を見やる。
「……これ以上、やらせはしないぞ!」
「おうおうそう来なくっちゃね。でも少し再起動が遅かったんじゃないのか?」
「ここから先はやらせない!優菜、木下さん、<治癒魔法>を!荒山さんと鹿本さんは<回復魔法>を!」
「……ここから先は、ねぇ……さっきのは単発だったから打ち消せたけど、連続だったらどうかな?」
「なに?」
「<連続発動・光槍>、薙ぎ払え」
俺の背後に展開した複数の魔方陣から、<狩人>2人に向けて、次々と<光槍>が射出されていく。<光槍>は、聖属性の下位互換、光属性の第二級魔法。さらに流す魔力もかなり抑えてあるので、一撃で消し飛ぶことは無い。
まあそれでもレベル差があり過ぎて、至近弾でさえ負傷しているが。
一方で<勇者>も頑張って打ち消そうとはしているものの、一々詠唱しなきゃいけない<勇者>と違って、俺のは連射式なので、早さが違い過ぎて追いついていない。<回復魔法><治癒魔法>も同様だ。
魔方陣への魔力供給を止め、着弾の際の土煙も収まった時、<狩人>の2人と、<探索者>の1人は、傷だらけで地面に倒れていた。全員腕か脚を骨折しているはずだ。一応女子は顔面避けたが、男子はお構いなく連射したので……うん、まあ、仕方ないよね?教育的指導。
「……これ以上やらせない、か。まだまだだな。あと残っているのは……ッ!」
キンッ!
「おっとっと、危ない危ない」
右側のは受け止めたけど左側が無理だったね、首の隙間からやられたかな?
「流石は<暗殺者>」
首の左側の傷を抑えながらつぶやく。いやあ久々の流血ですねはい。
「<治癒>」
HPはまだ八割以上あるし、<回復>はしなくて大丈夫だろ。
あっさりふさがっていく傷口に、驚きを隠せないらしい<勇者>達。
「――<雷電>」
「ぎッ?!」
「ぐあッ?!」
気配が駄々洩れだった……というよりまあ常人ならさっきので致命傷だから油断したのかな?まあ居場所分かれば見えなくても、空間ごと攻撃すればいいだけ。
「相手が致命傷じゃなかったらすぐ気配消して次の機会を待たなきゃ。少々出来るけど、まだまだだねえ――さて、順当にいけば次は、今代<勇者>、君だ」
「くっ……来るなら来い!」
「が、俺には少々君たちに見せたいものがあってね、邪魔が入るといけない。あと先ほどのお礼も兼ねて」
――次は後衛から潰しに行くよ?
自分でもわかるくらいに声が低くなっているのを感じながら言った。
ああ、やっべくそ楽しい。
以上です。
ハーメルン版から読み返して説明が足りなさそうな所や変えたいところに手を加えました。
主人公が最後 嬲るの楽しいとか言ってますが気にしないであげてください。
彼が口走ったというマズイ事、わかりましたか?
感想評価批評などお待ちしております。
今後とも本作をよろしくお願いいたします。