第九話 第一回・初代勇者の防衛戦①
どうも、お久しぶりのクラリオンです。
ハーメルン版ばかり更新し続けて、全然手を出せていませんでした。プロットとしてはあるものの、書いていないと忘れてしまいそうで……と、言い訳はさせてください。
ガルデアを出発してから二日。俺達はエメラニア南部の街、ケスタに来ていた。ここにも数日滞在し、群れの討伐系依頼を消費してからさらに南へ行くことになった。
「――えっと、受ける依頼は《東の森のオーガ討伐》で良いですね?」
「はい」
「それでは――こちらが控えになります。お気をつけて」
「今日はオーガか。何体いるかな?」
「話によれば50居ないくらいらしいわ」
「ああ、それなら楽か。遠くから手榴弾ポイポイするだけで終わるんじゃね?」
「あの……拳銃とかいう道具で殺った方が早そうですけど」
「セレスも随分な発想をするようになったわね……」
「だって最近私取りこぼししか倒せてない……」
「じゃあ今日は初撃手榴弾2つ放り込んであと結界張って突っ込む?」
「そうね。私が張るからセレスも暴れてきたら?」
「やった!ありがとう!」
確かに最近討伐系全部手榴弾ポイポイで終わらせてたからなあ……でもさくらさんや、その年齢の女子が「暴れてくる」という表現はいかがなものかと思うんだが……
東の森は、東門を抜けてから一時間程の場所にある森。ここの中でオーガの目撃情報があったらしい。調査隊によれば、50以下程度の群れを確認したとのこと。
オーガ自体はCランク程度なのだが、群れであるため、なかなか受ける人がいなかったというこの依頼。俺達にとっては非常に美味しい依頼である。
本来集団で襲い掛かってくるオーガは脅威であるが、手榴弾の的である。単体で襲い掛かってきてもセレスの相手にならないし、遠ければ拳銃と矢で蜂の巣である。哀れオーガ。
結果として、今回もまた現代兵器の尽力により、戦闘というか討伐はあっという間に完了した。爆発から幸運にも逃れた者は、セレスの剣と魔法の餌食になった。<迎撃>の使いどころがない。
そして<防衛装備召喚>がレベルアップ、機関銃やバズーカ、ドローン程度の大きさの物を3つ出せるようになった。なんて大盤振る舞い。これで討伐がもっとはかどるね!
何てそんな事を思いながら、組合へ帰還する。
「ええ?!もう討伐してきたんですか?!」
「ええ、運よく、固まって現れたので」
「ああ、なるほど、そういえばセレスさんは範囲攻撃魔法が使えるのでしたね」
「ああ。おかげで早く片が付いた。今んところ、群れの討伐系依頼はないだろ?」
「ええ、《ヴァルキュリオン》の皆さんのおかげで、だいぶ片付きました」
「それは良かった。よし、帰ろうか」
「そろそろまた移動すべきか?」
「そうね、目ぼしい依頼はほとんど片付けたし。あとはこの街の冒険者だけでどうにかなる依頼しか残ってないわ」
「明後日辺りに出発する?」
「そうだな……明日自由で、明後日朝出発で良いんじゃないか?」
「休む暇があると?」
「いや、俺は単独でレベル上げに行くよ。とっとと車かバイクを出せるようになりたいからな」
「私たちは付いて行かなくて良いの?」
「単独で討伐依頼が出ているものをいくつか引き受けるだけだからな。危なくなったら<勇者>で一掃するから大丈夫だろう」
あ、<勇者>で思い出した。そういえば宰相執務室に<警戒地点設置>置いてきたの忘れてた。宿の夕食まで時間あるし見ていくか。
「なあ、いま思いついたんだが、王国と<勇者>の動き見ないか?」
「え?」
「……そう言えば宰相執務室にも置いてきたんだっけ?便利よねそれ。見ましょう」
「<防音結界><記録再生>……まず俺だけ見て、余計な部分カットして良いか?」
「ええ、任せるわ」
「んじゃあちょっと待ってろ」
宰相というのは実は重臣の中でもそこそこ忙しい職務なので、執務室に居る時間は割と少ない。一方で、前回の<記録再生>から、<勇者>関連の内、黒い出来事はすべて宰相の独断であると判断できる。
つまり宰相が執務室で受けている報告があるならば、その中に恐らく<勇者>関連などで俺達が欲しい情報がある可能性が高い。国王に聞かせても問題ない内容なら、謁見室とかで聞けば済む話だからな。
さてさて、良い情報があるか、俺達が死んだという報告が上がったであろうよりあとの時刻からを早送りで見ていく。具体的には翌日の朝から。<勇者>という単語を目印に早送りで再生。
『――……うしゃが……』
ここか。巻き戻し、通常再生。
『……計画通り、<勇者>に山賊を討伐させることになりました。決行は明日、ラスビスア山の予定です』
……不味い。コレいつのだ……俺達が死んだ翌日か。ディセルドからガルデアに移動した日。決行は明日つまり翌日……俺達がガルデアにまだ滞在していた時。結果はどうだったんだ?
翌日の報告を早送りで聞き流す。
『――……うしゃに……を』
コレだ。巻き戻し、再生。
『――<勇者>が山賊の討伐に成功しました。負傷者は数名。<勇者><聖女><治癒術師><剣聖>です。最初は人を斬ることに躊躇していたようですが<聖女>及び<治癒術師>が斬りつけられた後は、躊躇いなく殺していました。流石は<勇者>の振るう<聖剣>ですね。素晴らしい切れ味でした。他の者も流石<召喚者>、素晴らしい戦闘能力でした。兵士として戦うには申し分ないかと』
――遅かった、か。
『ふむ、精神状態はどうだ?』
『恐ろしいほど平然としています。何人か、気分が悪そうではありますが、食欲にも変わりはなく、新兵よりはマシな状態です。いつでも前線に出せます』
『なら後は頃合いを見計らって……』
『宣戦布告、ですか』
『ああ、軍に準備をしろと伝えろ。まずは――エメラニアだ』
「ケイ?」
恐らく俺の顔は珍しく真面目な顔をしているのだろう。セレスやさくらが気になるほどに。
「さくら、もう遅かった。<勇者>は……あいつらは人を殺している。トラウマ的なものもない。いつでも兵士として使える状態だと思う」
「嘘でしょ?!こんなに早く?!」
「俺達が死んだ翌々日には既に山賊を討伐している。途中まで躊躇っていたらしいが、後方支援職が何人か負傷した後は躊躇わなくなったらしいぞ、仲間思いだな」
そう言って笑ってみた。
「こうしている場合じゃないわね、急いでこの国を出ましょう。<システム>が停止する前に。竜種の全面参戦だけはどうにかして防がないと」
「OK、急ごう!」
一番最悪なパターンは、竜種に加え、<魔王>が魔力タンクとして参戦する場合である。<システム>管理の職務があるとはいえ、一時的にであれば管理者がいなくても大丈夫だったはずだ。
とはいえ<魔王>なら俺達がこの世界にいると分かっているはずなので、運が良ければ竜種も抑えてくれるかもしれない。希望的観測は避けるべきではあるが、竜種の全面参戦は何としても避けたい事象。
(頼むぞ<魔王>……!)
既にまとめていた荷物を手に、南門へひた走る。まだ早い時間帯なので城門は開いていた。
「今から出発ですか?身分証を」
「コレです」
「……!冒険者ですか?」
「はい」
「ランクはどのくらいでしょう?」
「三人ともCです」
「少々お待ちください」
冒険者証渡してランクを伝えると、なぜか待機するよう言われた。
「なんだ?」
「――お待たせしました。先ほど、城門内全ての冒険者に強制依頼が出されました。申し訳ありませんが組合までご確認お願いします」
「強制依頼?」
「はい」
「わかりました、ありがとうございます」
強制依頼、ねえ……スタンピードだろうか?
「あ、お待ちしてました」
組合に戻ると、いつも受付をしている女性が立ち上がり、手招きをしてきた。見ると、この街のランクC以上の冒険者がほとんど集まっているようだ。
とりあえず気になるので聞いてみる。
「強制依頼って何なんです?」
「今から説明します。……全員揃いました!」
「よし、えー、ケスタ組合長のボルディ・ケロアだ。今日集まってもらったのは、他でもない、公国政府からエメラニア全組合に向けて発せられた強制依頼についてだ。昨日、エメラニア公国に対し、シルファイド王国から宣戦が布告された。北部の街では既に住民の避難が始まりつつある」
つまり考え得る限り、最悪のタイミングで事が起こりつつある。
「王国は、異世界より召喚した<勇者>を旗印に、王国を基礎に人族の国家を全て統合しようとしている。公国も傘下に入るよう命令を受けた。それを断ったゆえの宣戦布告だそうだ。ちなみに言っておくが、魔族との戦闘に軍勢は派遣するという申し出付きで断ったが、駄目だったらしい」
それ国大きくするの目的ですって言ってるようなもんだな。
「国力を考えれば、到底勝ち目はない。そこで、国民が避難する時間を稼ぎたい。騎士団は国境付近に陣を敷き、最後まで粘るそうだ。冒険者に対する強制依頼の内容は、『住民の避難の支援』だ。基本は後方任務だが、場合によっては王国軍もしくは<勇者>と鉢合わせることになる。その場合、勝てないと思ったら投降しろ、命を無駄にするな。私からの連絡は以上だ」
……ふむ。また面倒なことが始まったな。俺としては別にこの戦争がどっちが勝とうが、どれだけ死人が出ようが構わない。
だが、それに<勇者>が絡んでくるならば話は違う。<聖剣>は、可能な限り人に振るうものではない。
やや騒々しくなった組合の中、さくらの方を見る。
「足止めするの?」
こいつはやはりエスパーだろ。
「……聖剣折れば退いてくれそうじゃないか?」
「初代<勇者>と名乗って交戦すれば良いじゃない?時間は大分稼げそうだけれど」
「……そうするか、お前は?」
「どちらでも?ああ、セレスが心配だからそっちに付くわ。依頼達成したら合流しましょう」
「OK」
<聖剣>は何があっても折れない剣。<勇者>が見る説明にはそう書いてある。
でも何事にも例外があるものだ。
俺達と、もう二人だけが知っている。俺ともう一人しか出来ない<聖剣>の折り方がある。
「先輩として、教えに行くか」
「来たか」
エメラニア公国北部に広がる平原。ここでは中央にエメラニア公国騎士団が陣を張っていた。その数は万居るか居ないか、といったところだろう。その左右に小さいながら展開されている陣は、わざわざ志願してやってきた冒険者たちの物。
それらの前に現れたのは万を超す軍勢。言うまでもない、シルファイド王国の軍勢だ。
「本当に<勇者>様があの中に?」
「ば、馬鹿言え、<勇者>様は人族全体の味方だ、人族同士で相討つのをよしとされるわけがあるまい……」
そう言いながらも男の声は少々震えていた。かつて魔王すら打倒したという聖なる剣。それが自分たちへ向けられることを恐れているのだろう。
無理もないか。<聖剣>は決して折れない剣。あの剣に限り、武器破壊によって戦闘不能に陥れるという手段は使えない。ゆえに<勇者>他そのパーティーが前線に出てくれば戦力がじりじり削られるだけになってしまう。
つまり数も問題だが、<勇者>が出てきた時点で、こちら側の敗北が決定してしまう。
まあ、こちら側は負けは前提、説得が希望薄、時間稼ぎが主目的。元々勝つ事なんて考えていないのだから。
「なあ、そういえば何で王国の支配を嫌がるんだ?」
「なんだ、お前そんなことも知らないでここに来たのか?」
「あー、俺は旅してるもんなんだが、この国の人に結構世話になってよ、その恩返すのに丁度良いなと思ってきた」
「珍しいな、ここに居る奴は皆生粋のエメラニア人だと思っていたんだが……ああ、理由か。元々エメラニアはあの国から逃げてきた人間が多いんだよ。南部は貴族の圧政が強くてな。あの国に併合されれば元の木阿弥ってわけだ」
「なるほど、それは頑張らなきゃいけないな」
「ていうか声若いな、お前その年で旅人か」
「ああ、まあ事情もあって。ああ、ところで騎士団のトップの天幕がどのあたりかわかるか?」
「多分中央部だ。<勇者>様とまみえる可能性が高いと言ってな」
「ありがとう」
さて、じゃあ騎士団長様にお話を通しに行きますか。
「何者だ!」
「あー、エメラニア公国騎士団長の天幕がここだと聞いた。本当か?」
「何者かと聞いている!」
まあ黒のフード付きコート着てる奴はどう見ても不審者だよな。
「えっと……ああ、コレでいいかな?」
そういって俺が取り出したのは冒険者証。今使っているCランクではなく、千年前のSSSランクのもの。
「なんだこれ……は……SSSランク?!馬鹿な、そのランクの冒険者は存在しないはず……」
「今は、な。それ騎士団長か、歴史に詳しい人に見せてみろ。それは紛れもなく本物の冒険者証」
流石にいつの物かまで言うと、信ぴょう性に欠ける。ただ、ヴァルキリア崩壊後も、長い間使われていたらしいことは分かっているので大丈夫だとは思うが……
「この冒険者証は君のだと聞いた、本当かね?」
しばらく待っていると、そこそこ威厳のあるおっさんが出てきた。
「そうだ。それは間違いなく俺のだ」
「私が騎士団長のアルベルトだ。ところで、こういう物に詳しい知り合いに見せたところ千年ほど前に使われていたものだと聞いたのだが?」
「その通り、何の不思議でもないだろう?それは魔道具だ。たかだか千年、朽ちずに保たれることに何の不思議がある?」
「私が不思議なのはそこではない。君は声的に若いのだろう、なぜこれを持っている」
「俺のだからだ」
「そういうことを聞いているのではない!これに書かれていることが本当なら、コレは初代<勇者>ケイト・カンザキの物なのだぞ!」
「知っている」
「知っているだと?ではまさか君は……いや、貴方様は……!」
「その通り」
そういって俺はコートを脱ぎ捨てると同時に<聖鎧>を展開。兜も忘れずに、腰には一本の黒い剣を提げる。楽しいよね、こんな感じで正体を明かすのって。
「俺が<初代勇者>、神崎啓斗だ」
「初代勇者だと……?」
「そんな馬鹿な……?」
「あの方は元の世界へ帰還なさったのではなかったのか?」
ざわめく騎士団員の中で、団長だけが落ち着いているように見える。
「証拠は?」
「この鎧と聖剣が証拠だ。あの冒険者証を本物だと見切った者がいるのならその者に見せてみろ。聖剣くらいなら貸してやる」
「ベルモンド」
「は」
「調べろ」
「了解いたしました――――こ、これは」
「<鑑定>結果を読み上げよ」
「は――<聖剣・サクリファイス>、所有者ケイト・カンザキ、状態・所有権者所有……本物です。そちらの方も勇者ケイト様で間違いないかと」
当然。
「で、では<勇者>様はなぜここに?もう一人<勇者>様は王国に付いているというお話ですが」
「ああ。それは確定事項で、俺も知っている。俺が来たのはそれのためだからな」
「一体何をなさるおつもりですか?」
「何、<勇者>の<聖剣>は、可能な限り人に対して振るうものではないと教えにな。安心しろ、<勇者>は俺が引き受ける」
「ですが……」
「ああ、俺はこちら側に付いたわけではない。だが<勇者>及びその他<召喚者>は、俺から直々に教えを加えようと思ってな。だから他の王国軍は相手が出来ない。そっちは自分たちで何とかしてくれ」
「いえ、<勇者>様を抑えていただけるだけで十分時間は稼げます、ありがとうございます!」
「初代として後継者を叱り飛ばしに来ただけだ、気にするな」
いや実際そうでしかないのだ。馬鹿だろうあいつらは。仮にも<魔王>を打倒する人種の希望たる<勇者>パーティーだぞ?!<魔王>居ないけど。
人族同士で争ってどうするんだとか思わんのか?!
……思わんから来てるってね、知ってた。
ハーメルン版サブタイ回収。
と言うわけで、しばらくの間初代が苦労するお話です。