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防衛者  作者: クラリオン
短編・設定
1/21

特別短編 異世界でのクリスマス

一か月以上ぶりとなります。


クリスマス短編です。本編も出来る限り加筆訂正を早めに終わらせていきます。




真夜中。暗闇の中、人の身長より背の高い草原の中、エンジンをアイドリング状態にしてある歩兵戦闘車の上に寝転んで、星空を眺める。一応近くにテントがあるのだが、俺はどうせ一人なので構わんだろ、と外にいる。





「何やってんのそんなとこで」


「うおう?!……何だ、さくらか。脅かすなよ」


「……気配察知で気づいてるかと」


「戦闘中じゃないし無理無理。普段は<魔力探知>に<周辺警戒(レーダーマップ)>だけだっての」


「ふうん……お湯まだある?」


「さっきココア飲んだし多分」


「じゃあ私もココア貰おうかな」




<周辺警戒>も<魔力探知>も対象範囲を最大にしているので、近場のしかも味方の動きなんてほとんど見えない。今も装甲車の中に入っていったが、さくらを示す青い点は、ほとんど動いていないように見える。



「あ」



と、そこである事に気づいた。




「どうかした?」









「いや、そういえば今日はクリスマス・イブだなと思って」



そう、今日はこの世界、というか元の世界でもだが、クリスマスに当たる日だ。地理的な要因もあって、今は日本では冬である事をすっかり忘れていた。



「今日って言うか……もうそろそろ日付変わるけど」


「あらま……今からでも七面鳥狩りに行くか?」


「真夜中にいるわけないでしょうが……」


「何の話?あ、ココアだ、私の分ある?」


「ちょっと待ってて」


「やった、あ、ケイ、そこ上がっていい?」


「落ちるなよ」




理沙(りさ)も起きてきたか。




「今日がクリスマスだねって話」


「へ?マジ?……マジだ。うわあ完全に忘れてた」


「……まあ、こっちは夏真っ盛りだもんな」





今いるのは、王国からはるばる赤道を越え、南半球である。九月ごろに召喚され、おおよそ三か月。もうそろそろ最南端国家、セラシル帝国の南半分に差し掛かろうというところである。つまるところこちらでは季節的に夏なのだ。クリスマスだと気づけと言う方が無茶だ。




特に召喚されてからというもの、<勇者>じゃない称号と職業(ただしチート性能)を貰い、首チョンパで殺され(ただし復活)、冒険者になって今代勇者と戦い、戦争に巻き込まれ、殺されそうな少女(転生者)を救い……うん、めっちゃ濃い。





「そういえばさ」


「うん?」


「ケイとかさくらが前召喚された時とかって、クリスマスとかやったの?」


「おう、二年目以降からな」


「一年目は?」


「戦闘訓練と実戦でそれどころじゃなかった。前回も八月召喚、初の実戦投入は十月、初の対魔族戦闘が十二月だったからな……」


「大分ハードスケジュールね……」


「二年目から色々してたけどな」


「色々?」


「ご馳走作ったりとかな」



理沙にそう答えながら、俺は主観で六年前のクリスマス頃の事を思い出していた。








「そっち行ったぞ!」


「了解!<連続発動(オートリピート)光弾(ライトバレット)>!」


「<誘導付与エンチャント・ホーミング>」


両手から放たれる光の弾が軌道を変え、逃げようとする鳥に吸い込まれていった。


「命中!」


しばらくして、茂みの中から、春馬さんがその鳥――ジャイアントターキー、名前通り巨大な七面鳥っぽい鳥だ――をつかんで出てきた。



「魔法って便利だよな」


「さくら、これで材料は全部か?」


「ええ、あとは料理するだけよ」


「んじゃとっとと帰ろうぜ、寒くてしょうがない」


「そうですね、戻りましょう」




今は冬、下六の月、第三旬四の日。日本風に言うなら十二月二十四日。つまりクリスマス・イブである。



ここ、異世界フィンランディアに存在する人族国家ヴァルキリア皇国では、()()()元の世界(地球)の太陽暦とほぼ同じ暦が採用されていた。つまり一年は三百六十五日、一日は二十四時間。無論呼び方は異なるが。



そして、元の世界でのイベントも、この世界に沿った形に変わった上で存在していた。例えばハロウィンは元の意味、つまり豊穣を祝い、悪霊を追い払う祭として開催されている。



ではクリスマスは?というと、世界の誕生を祝う日として認識されており、イブはその前夜祭の日。まあご馳走食べてはしゃごうぜ、といった感じなので、それは現代日本と大して変わらないはずだ。



クリスマスのご馳走と言えば何か?と問えば、七面鳥の丸焼きがまず思い浮かぶだろう。



と言うわけでその材料となる七面鳥(の代わりになる物)を探していたわけだが、先ほど魔法で仕留めた。<聖女>なのになぜか魔攻値が高いさくらの攻撃魔法に、<支援者>陽菜乃ひなのさんの<付与魔法>。魔法の無駄遣い感が半端ないが……まあ良いだろ。




大抵の事は出来てしまうさくらと自炊スキルというか調理スキルの高い陽菜乃さんが料理をしている間、俺と春馬さんの男勢は特に何かするわけでもなく、だべっていた。この異世界に召喚されて一年と四か月ほど。夏真っ盛りに召喚され、二度目の冬を迎える頃になって、ようやくこんなふうに何とはなしにだべったりする余裕が出来たわけだ。


召喚されて最初の冬は、クリスマス、正月そんなの知らんと言わんばかりに訓練と実戦に明け暮れていた。人類の命運がかかっているのに、そんな悠長な事をしている暇なんて無かった。まるでゲームの中のような異世界。しかしゲームのような動きをするには体が追い付いていなかった。


当然だ、俺も他の皆も、平和な現代日本の一般的学生。戦争なんて、夏にある平和学習だとか歴史教科くらいでしか知らない。そんな一般人達が<勇者>だとかになるために、ひたすら戦闘と訓練を重ねた。人生で一番きつい期間だったのではなかろうか。


「あと何年この世界でクリスマスを過ごすんでしょうか」


「さあ……もしかしたら十年とかかもね」


「……とっとと魔王倒して帰りましょう」


「冗談だって、さすがにそこまでかからんだろ」


「出来たよ」


「おお、さすが!」


「ほとんど出来てたからね」



春馬さんが笑えなさそうな冗談を言ったところで、陽菜乃さんが出来上がった料理を持ってきた。うむ、七面鳥ことジャイアントターキーの丸焼きを始めとした、いわゆるクリスマスのご馳走が並ぶ。





……ところでこの世界には俺の知る限りマヨネーズは無かったはずなのだがこのポテサラに入っているのは何なのだろうか。まさか自作したのか。というかこの世界ではなじみのない調味料だったり調理法だったり器具だったりがあるはずなのだがどうやってこれらの料理を作ったのか。やはり自作か。



「ケーキもあるからね」




……とりあえず食べるか。








「……その陽菜乃さんて何者なの……?」


「俺らと同じ代の<支援者>。残っちゃいないが記録上初代<支援者>で、実質は二代目<支援者>」


「……もしかして召喚者って基本天才とか何か優れてる人しかいないの?」


「待て俺は凡人だろう」



少々人付き合いが面倒であるが故に、人との距離をそこそこ大きめにとってしまうが、まあそれは誤差の範囲内で、一般人だろう。うむ、何か俺の代までだと俺だけ逆に浮いてる……いや能力的に沈んでる?



「ケイは<勇者>じゃん」


「そりゃ後付けだろ、それがなきゃ凡人だ」


「アンタは精神的にタフすぎるのよ。あの時だって春馬さんと同等以上に冷静だったじゃない」



あえてどの時と言わない辺り、こいつも成長したなと思う、空気を読む能力が。いや、あるいは思い当たることが多すぎて具体的に示せないだけか?



「……今度は何年かしら」


「俺達の時より早く進んでるから五年もかからないとは思うけど」




なんとも言えない。仮に<魔王>を倒したとしても、その続きがあるかもしれない。俺達の時もそうだったが、今回もイレギュラーが多すぎる。<システム>が外部からの干渉でおかしくなったのだとしたら、俺達はそれを排除するために戦わなきゃいけない。


世界の全ての絡繰りを知った時、今代がどう動くか、それが俺達にどんな影響を及ぼすか。面倒事の予感しかしない。


まあ、なるようになるか。まだ先の話だ、深く考える必要もあるまい。











そう思い、一応<周辺警戒>に警報を連動させ、寝ることにした。せめて夢くらいはいい夢が見れると良いが。


どうせ明後日からは向こうに戻って今代の護衛をしなきゃいけないのだ。とりあえず今は大戦を終わらせることだけを考えよう。



以上です。陽菜乃さんは、転生すれば料理知識チートだった可能性。



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