いろんな意味で
「おはようさん、愛夢。」
「おはよう、宗太。」
こいつは葉村宗太。
私の幼なじみというべき存在である。
小さい頃から少しバカというかなんというか
まぁバカである。
でも見た目は一般的にみればイケメンという部類に入るらしい。
クラスの女子からも人気がある。
「愛夢知ってるか?バッティングセンターという拷問部屋を。」
また始まった、おバカ発言が。
バッティングセンターを拷問部屋と結びつけるのはこいつくらいのものだろう。
「知ってるけど、なんで拷問部屋?」
そう私が言うと途端にシャツをあげ腹を見せた。
クラスの女子は何も言わず凝視である。
どこかのクラブでボクシングをやっているこいつは腹筋が割れているのだが、その腹筋に殴られたようなあとがあった。
なんとなく察しはついた。
「あれは拷問部屋だ、いくら俺でも150キロの
速球を直前までみて避けるのは難しかったよ。
みんなどうやって避けてるのかね?」
避けるわけがない、彼の言い方だと真ん中に立ってボールを見極めて避けていたみたいである
「バッティングセンターってバットおいてなかった?たぶん20本以上はおいてあると思うけど。」
「そういえば置いてあったなー、あんなにたくさん何に使うんだろうって思ってたよ。
まぁあれは、たぶん最終手段なんだろうと思って俺は使わなかったけど。」
最終手段?彼はどういう想像をしているのだろう。
彼の脳内はどうなっているのだろう。
「宗太みたいにみんなやってたの?」
「みんな?俺一人しかいなかったよ
だんだん人が入ってきたんだけどなぜか俺の後ろで拍手してるんだよな。」
止めなかった店員も店員である。
「宗太、バッティングセンターってボクシングの練習で避けたりするものじゃなくて一般的にバットでボールを打ってストレス発散するところだよ。
だから変わったことしてる宗太をみて他の人がすごいと思って後ろで拍手してたんだよ。」
なぜここまで言うか、なぜここまで言わないといけないのか
それは彼がここまで言わないと分からないからである。
「そうだったのか、俺めちゃくちゃ恥ずかしいことしてたのか、おそるべし拷問部屋!」
彼の中で拷問部屋という概念は変わらないらしい
「ならさ、次の休みバッティングセンターって
具体的にどうやってやるのか一緒に行って教えてくれよ。」
「えっ、バットでボール打つだけじゃん。」
「いいから、行こう!」
強引である、拷問である。
「・・・・わかった。」
早く話を終わらせたかった。
なぜならクラスの女子達はその話をずっと聞いてこっちを見ていたから。
バッティングセンターよりもこの教室のほうが拷問部屋だ。
「デートだねー、愛夢。」
ほらこうなるから、彼がいなくなるとすぐこれである。
「ハハハ、そうだね。」
愛想笑い。
まぁ大体こうなることは分かっていたのだけれど。
まぁいろんな意味で。