駆け脱け
「やはり、精神耐性がとても高い方々ですね。名を出せるほど、まだしっかりしたものをお持ちだなんて」
柔らかい声音でさらりと女は言った。
「お前ぇ!」
燭台を手に取り、ロウソクを引き抜くや尖った先を浮かぶ女につきつけ、一度引いたあと、投げつけた。
狙い過たず女の胸を穿つが、まるで幻影であるかのように女のあいた胸は即座に閉じた。
「怖や怖や。老いたりとは言え、さすがは姫将軍と言われる方。でも」
投げつけたとたん、苦しげにうめき、膝をつく。
「貴方にも拘束の魔法はかけられています。敵対行動すればそうなることはご存知でありましょうに」
苦しげにしている婦人を見つつ、微笑を浮かべる。
・・・・・
こちらは半ば無視ですか。そうですか。
まぁ、おそらくはかけられている魔法か何かで監視しているのだろうが、どうやら視界というよりも魔力に反応するという形のようじゃな。
儂は現状、魔法を使ってはいるものの、このブラックナインは影を操る魔法。
ここに満ちている魔法から目をくらませて見えぬように加工させてもらっておるからそれが功をそうしているのじゃろうな。
であれば・・・・
「拘束魔法をかけられておるなら、これはきくじゃろ。『ディスベルマジック』」
儂が唱えるとっておきの解呪。
あー、まぁ効果範囲はかなり広いから最悪、ダッタの魔法が今切れた可能性があるが、ここは使わねばの。
唱え効果が及ぶや、苦しげにしていたところが一転楽になる。
「これは」
「キュアサークル」
ついでとばかりに、前王も癒す。
まぁ、魔法を使ったからには相手には感づかれよう。
「何?!この魔力は!」
案の定、気づかれた。
まぁ、見開かれていない目を見て、そう思った次第であったがどうやら当ては当たったようじゃな。
とすれば、
「カースドフレイム!」
一度ついてしまえば消えることのない呪いの炎。
魔力を軸にした炎はそれに干渉して対象に向かって放たれる。
目標、いけすかんあの女。
放たれた魔法に避けようとするが残念。ホーミング仕様じゃ!
「ぎゃぁぁ!!!」
断末魔とともに燃え上がる女。
なんとか炎を消そうと周りの細かな粒子を呼び集めておるようじゃが、無駄じゃ。
「アトモスフィア」
窓枠までかけ、身を乗り出して唱える。
大気への干渉。
粒子を吹き散らし、炎の勢いをさらに燃え上がらせる。
「ああああぁぁぁぁ・・・・・」
断末魔は遠く、小さく、ついには炎も消えて、そこには何もなくなってしまっていた。
「ふぅ、こんなもんか」
「あ、あなた、一体」
「前王陛下!何事でしょうか!?」
相変わらず叩いている向こうさん。
うーぬ、まぁ、脱出するには今開かれている窓から飛び出すのが無難じゃな。
もう、目立つのも構わんし、飛翔を使ってしまおうかの。
ま、とりあえず、
「ぬん!」
ブラックナインをとき、開け放たれる扉、
そこに無数の守備兵がいたが、関係ナッシング。
「ダイヤモンドダスト!スノークウェイク!!」
氷と雪の二段がさね。
一気に凍える世界へと辺りを変える。
「さ、閣下、公太后どの。とりあえず、失礼しますよ」
そうふたりを抱え、
「ヘンリーは儂に捕まれ」
「ほいきた、兄貴!」
機嫌よく抱きついてくる。
よし、しっかり捕まっておれよ。
「ぬん!」
背に半透明の羽を広げる。
あまり飛行時間はないが、第二壁あたりまではいけるじゃろう。
「では、失礼!!」
そういって、一気に駆け出して窓枠に脚をかけ、飛び出した。
心の中で「飛翔起動!」とか思い、羽をばたつかせる。
高度ががくんと下がるも墜落することはなく、そのままひゅーと滑空して、空を駆け下りていった。




