6話【クールなガール】
「ソラ様、少しそこで待っていてください。すぐ戻ります」
「ソーニャ、何を?」
それだけ言い残すとソーニャは素早い動きでどこかへと行ってしまった。
ソーニャは先ほど行った奥の部屋まで辿り着き、石のスイッチを押した。そして扉が開いたがそこにはあるべきはずのものが無かった。
「な、ない!? 何故……?」
今、アジトから出る1つの影があった。その者はフードと体全体を覆うようなコートを羽織っていた。
「……返してもらったぞ」
その者は1人、どこへともなく歩き、去っていった。
「ただいま戻りました」
「……ソーニャ、何をしてたんですか?」
「いえ、忘れ物を取りにいったんですが、なくなっていました。お待たせしました、行きましょう。」
「……忘れもの、ですか。」
ビーを牢獄に入れるためにソーニャは手持ちの機器を使い連絡を取った。少しすると、その役人がビーを引き取りに来て、感謝を伝えられたあと迅速にビーを連れて行った。
そして、ソラはシオンを担ぎ、ソーニャと共にテッコイの街へと向かった。アジトからテッコイまでは近く、ソラは宿屋へと行くとシオンを寝かせた。そして数時間経った後、シオンは目を覚ました。
「……ん、んん……」
目を開けると天井があった。周りを見るとソラとソーニャがいる。これは……いったい……。
「シオン。目を覚ましましたか。どこか痛いところはありませんか?」
痛いところ……? なんか身体がピリピリするな……これは筋肉痛……?
「なんか、全身が痛いな。筋肉痛な感じだ」
「そうですか、それだけなら良かった」
つーか大事な事を忘れてるような……
「……そうだ、ビーは!? あいつはどうなった?」
「覚えて無いんですね……。ビーはシオンが倒したんですよ。そして私たちの毒を治したのも貴方です」
「なっ!?」
俺が? 全く覚えてないぞ。つーか俺死にかけてなかったっけ……?
「それでビーはどうなったんだ?」
俺がそう問いかけると、ソーニャが俺の方を見ながら答える。
「ビーはアミリア政府管轄の牢獄へと連れて行かれました」
「ソーニャ……」
ソーニャは申し訳なさそうな顔をしていた。俺は気になっていた事を聞いてみた。
「ソーニャ、お前はあのアジトで何をしようとしてたんだ?」
「…………それは、言えません」
「あなた! シオンが助けなければ今頃どうなっていたと思って――」
「わかっています! シオン様とソラ様には感謝しても仕切れません! ……ですが、そうであるからこそ……言えません」
ソーニャは苦しそうだった。話したいけれど話せない、そんな表情だ。おそらく彼女には何か重大な使命があるんだろう。
「……そうか、わかった」
「良いんですか? シオン」
「まぁ目的を知るために助けたってわけじゃないしな」
「……!! ありがとうございます! シオン様……!」
そういうとソーニャはガバッと俺に抱きついた。豊かな胸が俺を包み込む。
お、おうふ……こ、これはいかんですよ……まずいですよこれは……!
俺は自分の中で込み上がってくる欲望と戦い始めた。というのも、すぐ近くにいるソラからの強烈な殺気を感じたからだ。
「……ふふ……もう……シオンは、仕方ないですねぇ……?」
ソラが最終警告のようにそう言ってきた。まずいまずい、やめないと……!
「ソ、ソーニャ……! もう離れて!」
「え……? あ、はい! はしたなかったですね! 私!」
ソーニャが照れながらそう言う……いかんいかん、ここで惑わせられるとまたソラからの殺気が飛んでくる。
「おほん……! とりあえず報酬は貰うぞ?」
「?」
「五万ゴールドだよ」
「もちろんです!」
俺はソーニャから受け取っていた袋を返し、五万ゴールドを受け取った。そして俺たちは宿の外へと出た。
「本当にお世話になりました。この恩はいつか必ず返します!」
「良いって良いって」
「今は、気持ちだけでも受け取ってください」
「えっ?」
というと、俺の頬に何か柔らかいものが触れた。よくよく見てみると、それはソーニャの唇だった。
ソラがアワアワと慌てふためく。
「な、ななな何してるんですかっ!?」
俺は事態が読み込めずにポーッとしていた。
「おっとっと、すみません。ソラ様はまだでしたか? ご馳走様でした♪」
ソーニャはくるくる回りながら顔を赤く染めこちらを見ていた。正直、俺は何が起きたかよくわかっていない。
「それが今の私の気持ちです、シオン様! またいずれ会いましょう!」
「お、おう……」
「それでは!」
そういうとソーニャはタタッと走ってどこかへと去っていった。
「…………」
「もうっ! いつまでもデレデレしてるんですかっ!」
「いてっ!」
「……そんなにキスが良いなら私だって……」
ソラが何やらブツブツ言っているが今の俺はそれどころではなかった。
だめだ落ち着かん、話を変えよう。
「そもそも、俺たちってここ何しに来たんだっけ?」
「……話を変えましたね。えーと、確か知識人のマルロって人に私たちの手がかりがないか聞きに来たんです」
「ああそうだったそうだった。とりあえずマルロさんを探すか。」
俺たちは街の人に聞いてみることにした。
「あのーマルロさんって知ってますか?」
「マルロさん? もちろん知ってるよ、この街の名物さ」
「マルロさんにはどうやったら会えますか?」
「変人マルロさんならこの先をまっすぐいったところに古い屋敷があるから、そこにいるよ」
「変人? 古い屋敷か。なるほどありがとうございます。」
聞いていた通りに進んでいくと大きいが寂れた屋敷があった。
「ごめんくださーい! マルロさんはいらっしゃいますかー?」
ドアを叩いて少し待つと、ドアが開き中から白衣を着て、長く黒い髪を伸ばした少女が出てきた。
「えーと、マルロさんはいますか?」
「……私」
「ん?」
「……マルロは……私」
「ええっ!? マルロっておじいちゃんじゃないのかよ!?」
「私も知識人と聞いたので、経験豊富な老人かと……」
「……何の、用……?」
「あ、えーとですね、俺はシオンと言ってこっちはソラと言うんですが俺たちの顔に見覚えはないですか?」
「……? よくわからないけど、とりあえず上がって……」
マルロさんに案内されたまま家の中に入っていくと本が山積みになっていたり、謎の液体がフラスコに入っていたりしていた。ソファーに座るとビーカーにコーヒーを入れて出された。
「……それで?」
いまいち理解してもらえてないようなので、最初から事細かく説明した。説明している最中にマルロさんはコクコクと頷き、興味深そうな顔をしていた。
「……ということなんです。マルロさんは知識人と聞きましたので、何か俺たちの事を知っているかもしれないと思いまして」
「……なるほど……記憶喪失、興味深い……けど、あなた達の事は知らない……」
「そう、ですか……」
うーん、知識人でも駄目か……。どうすればいいんだろう?
「……でも、あなた達のスキルは手がかりになるかもしれないわ……」
「!! どういうことですか?」
「……ソラ、の持つ【永遠の忠誠】というスキル……これはかつて栄えたこの大陸のアルキード王国の一部の者だけが使えたスキル……」
「アルキード王国……。それはどこあるんですか?」
アルキード王国……手がかりらしきものがようやく見えてきたな!
だが次にマルロさんから出てきた言葉は俺たちの予想を超えていた。
「アルキードは……滅びた」
「!?」
「……少し前に謎の壊滅をして騒ぎになったの……真相は未だに解明されてない……」
「そんな……」
ソラはショックを受けているようだった。まぁ手がかりを得たと思ったらこれだもんな。
「なぁ。俺のスキルはどうです?」
「……あなたのスキル、確か……【支配】……」
「ゴクリ」
「……聞いたことない……」
ないのかよっ! 俺も何かそういう手がかり欲しかったよ!
「……私が聞いたことが無いなんて、なかなか珍しい……」
「えっなにっ?」
マルロさんは急に俺の身体をペタペタと触り始め、匂いを嗅いだり、瞳を覗いたりしてきた。終いには――
ペロリ
「うひゃっ!」
な、なぜ舐めた……?
「シ、シオン! マルロさん! あ、あなた何を?」
「……対象物の観察」
な、何だか知らんが興味を持たれてしまったみたいだ。
「ま、マルロさん! よくわかんないですけどやめて下さい! 俺の事観察したって何も出ないですよ!」
「……少し、調べさせてほしい。貴方のスキルを」
「俺のスキルを?」
「……それが貴方のルーツを知る事にもなる、はず」
俺のルーツか……
「なるほど、そういうことなら、こちらこそよろしくお願いします! それで、俺は何を?」
「私と一緒にモンスターを狩りに行ってほしい。直で貴方の動きを見て判断する……」
「わかりました! じゃあ早速行きましょう!」
「……あと敬語はいらない」
「わかった! よろしくマルロ!」
「……じゃあ私とシオンの、2人で行くから、ソラは待っていて……」
そういうとソラは即座に反応して、立ち上がり反論し始めた。
「わ、私も行きますよっ!」
「なぜ……? 今はソラのスキルを見る必要はない……」
ソラは俺とマルロを交互に見たあと、何かを不安に思ったようで声を荒げて言い放った。
「うー……絶対!! 私もついていきますっ!!」
「……ソラ、頑なだな」
「うぅぅ……行きます行きます行きますーーっ!」
「お、おう。まぁいいだろ? マルロ」
「……仕方ない。許可する。」
こうして俺の手がかりを得るためにマルロと共にモンスターを狩りに行くことになった。
暗い部屋の中で、長い楕円状のテーブルにいくつかのろうそくだけが灯っている。そこにいる座っている者たちは新聞の号外を見ていた。
「ビーがやられるとはな……」
筋肉質な体を持つ男はそう呟く。その身に纏う覇気はとてつもないものであった。
「彼の毒はかなり強力だったはずだけど……誰がヤッたのかしら、ねぇ……?」
露出の多い服で女は悩ましげな声を発する。
「でも私あいつ嫌いだったからちょっと嬉しいなー♪ あいつ野蛮なんだもんっ」
先ほどの女とは違い、フリフリの可愛らしい服を着た少女は楽しそうに新聞を見ていた。
「まぁ、何にせよ問題は彼を倒した者でしょう。……是非私もヤリたいわぁ……」
露出の高い女は興奮したように頬を赤らめそう呟いた。
「…………」
1人フードを被った者は、何か考えるように新聞を見つめていた。
そのものに対し、凛とした声で青年が質問する。
「貸してたアレを回収しに行ったのはキミだろ? どんな奴だったかわからなかったのか?」
「……さぁ? 私は回収する事に必死だったからな……」
「へぇ…………?」
「まぁいい、お前らもこいつの二の舞にならないようにする事だ。この倒した男については各自調査を。では、今回はこれで解散だ。」
男がそういうと、ろうそくの灯りはすべて消え、そこから人の気配は消えた。