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VIII話【奴隷であること】



「や、やっと着いた……」


 船に揺られる事数時間、俺たちはやっと目的地であるドロール大陸に到着した。港町を出て、馬車で移動する。馬車の中は退屈だったので、俺は父さんにある質問をする事にした。


「ねぇ父さん。父さんは今日何しにここまで来たの?」


 そう聞くと父さんは俺の目を見つめたあと、何かを考える素振りをした。


「……宝探しのようなものかな」

「宝っ!? ここに宝あんの!?」

「はは……ロキの思うようなキラキラの宝じゃないぞ?」

「なーんだ」


 宝だとか言うから金とか宝石だと思ったけど違うようだ。でも、だとしたら宝ってなんなんだろう? そんな事を一瞬考えたが、今の俺にとってはどうでも良い事だからすぐに考えるのをやめた。


「じゃあ今向かってるのはなんてとこ?」

「サーミルという街さ」

「ふーん」


 まぁ聞いたところで俺にはどこだか全然わからないんだけどね。そして馬車は止まり、目的地へ着いたみたいだ。

 馬車を降りて、街の景色を見ると思っていたよりも汚らしい様子だった。街の人の服は汚れているし、よく見ると髪もボサボサだ。


「ほら坊っちゃま。ボーッとしてると置いていきますよ」

「あっ、待ってよ」


 ダマルティが注意してきたので俺は走ってみんなに追いつく。

 しばらく歩くと、演説を行うような円状の台が並べてある広い空間がある場所へと出た。そこにはさっきと違いきれいな服を着た者と鎖で自由を奪われた者が立っていた。


「あれが奴隷って奴か……」


 一目見てわかった。ロルフが教えてくれた話の中に奴隷という者があったからだ。でも話には聞いていたけど実際見てみるとなんとも言えないな。


「さてロキ。父さんは今からここで奴隷を買う。お前も何か見つけたら1人なら買って良いぞ」

「え……」


『買って良いぞ』というその言葉は間違っていない。けれど人って買って良いものなのか? お金で人を買うっていうのは正しい事なのか?


「ダマルティ、奴隷ってなんで奴隷になったの?」

「ふむ……そうですね。これは大昔の事ですが、ギルガメッシュという者がいました」

「ギルガメッシュ?」


 俺もいろいろと歴史の本を読んできたけど聞いた事のない名前だ。


「ええそうです。彼は今から数百年前の人物です。アミリア大陸にいたと言われています」

「それでそれで?」

「彼はとてつもない力を持っていたそうです。そんな彼は大罪を犯しました」

「大罪?」


 そう聞き返すと、ダマルティはこくりと頷いた。大罪って大きな罪、つまり悪いことをしたって事だよな。何したんだろ? 

 ダマルティは歩きながら話を続ける。


「当時アミリア大陸の人々が神と崇めていた生物がいました。ギルガメッシュはそれを殺そうとしたのです」

「神様を殺そうとしたの!? それはダメだろ〜」

「ええ。ですがその考えに賛同する者たちがいました。ドロール大陸の人々です」

「えっ」


 神様を殺すなんていう罰あたりに賛同するなんて……やっぱりヤバイ奴らだなドロールの人たちは。


「もうわかりましたか? この大陸で奴隷となっている者はその時ギルガメッシュに賛同していた者たちの子孫です。そして、逆に奴隷商人となっているのはその時賛同しなかった者、という事です」

「へぇ……知らなかった」

「教科書じゃ教えてくれない真実というやつですね」

「なんで教科書に載ってないんだ?」

「それは……何か不都合な事があったのでしょう」


 ダマルティは目を俺から逸らしそう言った。この感じ、父さんが俺にしたくない話や嘘を言う時と同じだ。ダマルティが何を俺に隠そうとしてるのかはわからないけど。


「教科書に載ってないのになんでダマルティはしってんの?」

「……王族の者はだいたいいつかは聞かされるものです」

「ふーん……じゃあ神は? 神様ってのはどこ行ったんだ?」

「さぁそれは私にもわかりません。そもそも本当に神なんていたのかすら怪しいですからね」

「へぇ……」


 世の中には俺の知らないことがいっぱいあるんだな、と再確認した。周りをきょろきょろと眺めてみるとソラがこっそり聞いていたようだ。


「今の話ソラは知ってた?」

「いえ、初耳です」

「だよな」


 その後奴隷を物色してる父さんに付いて俺も見て回った。最初はいろいろと興味津々に見ていたけど時間が経ち飽きてしまった。父さんに飽きたことを伝えると、想定内だったらしく近くの休憩所で休んでいるように言われた。

 という事で言われた通り俺はベンチと水飲み場がある休憩所で座って一息つくことにした。


「……奴隷かぁ……ん?」


 ふと水飲み場に目をやると、服は小汚いが綺麗な顔をした俺と同い年くらいの女の子が水を飲んでいた。よく見ると手足に枷が付いている。奴隷のようだ。

 俺とあんまり変わらない年齢の子でも奴隷っているんだな、とそう思い興味を持ったので話しかけることにした。


「やぁこんにちは。俺はロキ、8歳! 君はなんていうの?」


 話しかけると、彼女は俺の存在に気づいてびくっと体が反応していた。そのままこっちに振り返り、少し怖がった目をしながらも答える。


「に、24番……」

「え?」

「ど、奴隷だから名前が無いんです。でも24番って呼ばれてます……」

「お母さんとかから名前は貰わなかったの?」

「……お母さんとかお父さんは最初からいませんでした」


 最初からいなかった、というのはこの子が生まれてすぐに死んじゃったって事なのだろうか。だとしたらあまりにも可哀想だ。俺は暗い雰囲気を変えるために話題を変える事にした。


「そうなんだ。俺はね、ガラム大陸ってとこから来たんだぜ」

「ガラム大陸?」

「そうそう。えーっとね」


 俺は適当な木の棒を持って地面に大陸の図を描き始めた。それを彼女はじーっと眺めている。


「今俺と君がいるのがここ! ドロール大陸。そんでもってこっちが俺の家があるガラム大陸!」

「こんなに離れてるのにどうやってきたんですか?」

「それはね、船さ! 船を使って海を渡ってここまで来るんだよ!」

「船……良いなぁ。乗ってみたいです。船は楽しそうですね」

「えっ! あ、あぁ……うん! 超楽しかったよ!!」


 本当はずーっと気持ち悪かったけど……。まぁそれくらいは嘘ついてもばれないだろう。


「ロキは物知りなんですね」

「えっ、そうかな? へへっ、俺算術なら得意だよ」

「算術?」

「教えてあげるよ! まずこれが――」


 俺はその後しばらく基本的な四則演算と読み書きを教えた。いつもは嫌で嫌でしょうがない勉強も今日はなぜか楽しかった。彼女も興味津々で聞いてくれていっそう話したくなってしまうのだ。


 そして俺が好きな本の話も教えてあげた。その内容は割と変わっている。世界が大魔王の出現でピンチになる。そこに凄い強い1人の男が、旅をしながら一緒に戦ってくれる仲間を探すのだが全然集まらない。みんな圧倒的な大魔王にビビっているのだ。

 男はそれでも世界中を旅して遂に仲間を2人見つける。その2人は両方とも美しい女で男は2人の力を借り大魔王と戦うが敗れて死んでしまう。しかし大魔王も大きな傷を抱え、眠りに入る。こうして世界は平和になったのだ。しかし人々は彼が世界を救った事は知らない。タイトルは『忘れられた英雄』



「――ってお話」

「へぇ〜。面白いお話ですね。でも……悲しいお話でもありますね」

「え? そう?」

「だって2人の女の方は絶対寂しいですよ。一緒に旅した仲間が死んでしまったんですから……。もしかしたら好きだったかもしれないのに」

「……考えた事もなかったよ。凄い想像力だ!」

「そ、そうですか? えへへ」


 そうか〜今までずっと男が大魔王をやっつけた事だけを考えてたけど、そういう見方もあるんだなぁ。


「他にもいっぱい面白い話はあるよ! いつか俺ん家に来てよ! 見せてあげる!」

「……それは無理ですよ」


 さっきまで笑っていた彼女が急に目を伏せて下を向いてしまった。


「無理って……なんで?」

「……奴隷ですから。奴隷は飼い主の家から基本的に出られません。一生をその家で過ごすんです」


 俺は頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。一生を知らない人の家で終わる……? そんなの許されて良いのか?


「そんな! な、なんとかして奴隷ってやめられないの!?」

「まぁたまにいる奴隷解放を目指してる人に買われればもしかしたら奴隷じゃなくなるかもしれませんね。けど普通はありえません」

「……そ、そっか。じゃあ本だけでも買って貰いなよ。それくらいなら大丈夫だろ?」


 俺がそう言うと彼女は俺をじっと見つめてきた。その眼は俺と同い年には見えないくらい俺を見透かしていた。


「奴隷には人権がありません。娯楽なんて買って貰えませんよ。食事も必要最低限。まともな人間のような扱いはされません」

「そんな事って……!」

「あり得るんですよ。思ったよりも人間は汚い生き物です」

「そんなの……そんなのっておかしいよ!!」


 俺は思わず大きな声を出してしまった。周りにいた人たちがちらりとこちらを見る。俺が頭を下げるとその人たちは元の方向に戻った。

 そして彼女は俺が怒ってる事にびっくりしたようで少し嬉しそうな顔をした後、俺をなだめるように話し始める。


「確かにおかしいかもしれません。けれど、これが現実なんです。綺麗事だけじゃ世の中は回らないんです」

「……くく……はは……ははは……!」

「どうしたんです……?」

「いや、俺はなんて馬鹿なんだって思ったらなんだか笑えてきて」


 何が算術だ。偉そうに教えておいて、そんなもの彼女のなんの役にもたたないじゃないか。俺は……俺は何も知らなかった……!!

 俺が何を言おうと結局のところ俺は買う側の人間で彼女からしたら憎むべき存在だ。なのに彼女はそんな俺にも楽しく話を聞いてくれた。出来ないことがわかってる話をされる。いったいそれは彼女にとってどれほど辛いことなのだろう。


「馬鹿なんかじゃないですよ?」

「いいや馬鹿さ。女の子1人も救えない」

「それは……仕方ない事です。神様がいるわけでもないですし」


 その時唐突に父さんの言っていた事を思い出した。そうだ。1人までなら奴隷を買ってもいいとそう言っていた!


「……ねぇ、俺が君を買うよ」

「え……?」

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