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VI話【最強の兄】

 


「……!」


 お、お兄ちゃん……? あの大剣、間違いない。なんでここがわかったんだろう。

 そんな事を考えようとしていたら、お兄ちゃんがモンスターの隙を狙ってこっちに向かって走ってきた。


 僕の前で立ち止まると、凄い勢いで僕の肩を掴み、僕が目を少し開けている事に気付いて、ホッとしていた。


「お、お兄ちゃん……」

「ロキ……! 意識はあるのか。身体は? 動かないみたいだな……」

「ぼ、僕よりも……ソラを、ソラを」

「……わかった」


 お兄ちゃんは心配そうに僕の身体を見つめる。だがそんな事をしている暇はなかった。モンスターはすぐにお兄ちゃんへと襲いかかる。


「グォ!!」


 するとお兄ちゃんは僕の頭に手を乗せると笑顔を見せた。


「待ってろ。お兄ちゃんがすぐにやっつけてやるから」


 そうしてゆらりと立ち上がり、大剣を構えた。


「さて……僕の弟に手を出した罪は……重いよ?」

「ガァッ!」

「獣が。発動、重力支配グラビティ


 お兄ちゃんの声と共にモンスターは空気に弾かれて木に叩きつけられる。


「発動。部分支配チャージ


 お兄ちゃんの右腕が光る。


「ほら、餌だよ」


 そして叩きつけられたモンスターが木からずり落ちる前に大剣をぶん投げて、モンスターの口へと突き刺した。それによりモンスターは木にはりつけにされる。



「終わりだ。発動。火炎支配フレア


 そしてお兄ちゃんはモンスターの前まで辿り着くと手に宿らせた巨大な炎を動けないモンスターへ向かって放り投げた。


「動物って奴は本能的に火が怖いらしいね。さて、君はモンスターなわけだけど……どうかな。怖かったらごめんね。それが君の最後の景色さ」


 モンスターは聞いた事もないような鳴き声をあげながらやがて燃え尽き、後には奴の固い牙だけが残った。


 お兄ちゃんは終わると僕の言う通りソラの元へと走って駆け寄って、何かスキルを唱えた。


 その後、僕の元へもやってくると、同じようにスキルを唱えた。


「発動。状態支配イレギュラー


 すると、身体の痛みがたちまち引いていった。


「これで回復したはずだよ。さて……話は後で聞くとして、帰ろうか」

「……ねぇお兄ちゃんはなんで僕の居場所がわかったの?」


 僕は泥だらけになっているお兄ちゃんの口や服を見て答えがわかっているのにそう聞いた。するとお兄ちゃんはニコッと笑う。


「お兄ちゃんだからさ」


 ソラはお兄ちゃんがおぶって行ったが、僕は普通に歩けたので歩いて帰った。




「坊っちゃまァア!! ロルフは心配しましたぞォォ!!」

「ごめんロルフ」


 屋敷に帰ってそうそういろんな人に声をかけられた。皆が心配はしてくれたけど怒ったりしなかった。それが逆に辛かった。

 もちろんお父さんとお母さんにも呼び出された。


「ロキ、お前何をしたのかわかっているのか」


 お父さんが普段見せないような怖い顔で僕を見つめる。


「……ごめんなさい」

「謝るくらいならもっと強くなれ!! 力をつけろ! それがアヴァロンの男たる務めだ」

「はい……」


 お父さんは力強くそういった。何か苦しそうな顔をしながら言うお父さんはまるで自分自身にも言っているようだった。


「ロキ? あなた敵わないとわかってるモンスターと戦おうとしたらしいわね。それはどうして?」


 お母さんはいつもと同じ優しい眼差しでそう聞いてくる。


「……ソラが、やられそうだったんだ。無我夢中だった。助けなきゃって思った。けど僕の力じゃ何もできなかった」


 思った事をそのままいった。お母さんは頷きながら聞いてくれた。


「けどそれであなたも大怪我したのでしょう? もしもう一度同じ事になったらあなたはまたそんな行動をするの?」


 心の中で少し考える。けれど答えは1つしか出なかった。


「……大怪我をした。死ぬかと思った。結局ソラを自分じゃ助けられなかったしもう2度とあんな思いはごめんだ」

「うん」

「……けど……それでも僕は、同じような事があったらもう一度同じ事をするよ」

「それはなぜ?」

「傷の痛みなんかより、自分が行動できなくて人を助けられないと思った時の方が痛いんだ。心臓のここのあたりが」


 僕は胸のあたりに指をさしてそう言う。すると今まで怖い顔をしていたお父さんもいつもの優しい表情に戻った。


「なら、お父さんの言う通りもっと強くなりなさい。それがあなたの道ならば」


 そうお母さんが言ってお父さんとお母さんの話は終わった。

 その後ソラがまだ目覚めていないと聞いて、居ても立っても居られなくなってお兄ちゃんの部屋に行った。


「お兄ちゃん! 僕、いや俺を強くしてくれ!!」

「……俺って言い始めても強くなるわけじゃないよ?」


 お兄ちゃんの教える剣術はダマルティのと違ってぼ、俺に対して容赦がない。そのおかげですぐにクタクタになって倒れてしまう。


「なんだロキ。もうお寝んねか? 寝るにはまだ早い。そうだろ?」


 お兄ちゃんが上から俺を見下ろしてそう言う。


「ハァハァ……も、もちろんだよ……!」


 俺は強がって返事をする。


「ふふ。ならさっさと起きろ。1人で起きられるだろう?」

「うん……!!」


 俺は木刀を地面に刺して杖代わりにして立ち上がる。そうだまだ立ち上がれる。俺はもっと強くなるんだ!





 その後この訓練は日が暮れるまで続いた。城に戻るとソラが意識が回復したというので僕は汚れて汚い服のまま会いに行った。


 扉を開けてソラの部屋に入るとベッドの上で座って本を読むソラの姿を見て俺は心底安堵した。


「何ですかロキ」


 ポツリとソラはそう言った。


「ご、ごめんソラ。僕、じゃなくて俺がソラをあんなとこに誘ったばかりにあんな危ない目に合わ――」

「――聞きたいのはそんなことじゃないです」


 ソラは俺の目を見て今度は力強くそう言った。だから俺もじっと見つめ返して強く返す。


「俺っ! 強くなるから! あんなやつ1発で倒せるくらいに! だから、だからソラ! 安心して俺についてきてくれ!!」


 そう言うと、ソラは持っていた本で目から下部分を隠した。


「まだ全然安心できませんよ。けど……まぁ少しは期待しておきます」

「任せとけっ!」


 この日俺は、やっとソラに少し近づけた気がした。

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