4話【蜂】
テッコイへ出発する前に、俺たちはギルドで冒険者の証明書であるギルドカードを受け取った。これにより俺たちは一般人よりも多くの施設に入る事ができる。
その後ジャジャリアを出発して数十分、俺たちはただひたすら歩いていた。
俺とソラはしばらくくだらない話をしていたが、そんななかソラが急に話を変えて聞いてきた。
「……シオンは私たちがあそこで記憶を失って倒れていた理由についてはどう思ってますか?」
「ん? ……んー、理由か。深く考えた事はないけど何かあったのは確実だよな」
「ええ、私たちの倒れていた場所にあったあのクレーター。明らかに普通ではありません」
そうだよな……俺たちが倒れていた場所には恐らく上空から落下したであろう痕跡があった……けど仮に落下してきたとして……傷が無かったのが気になるけど……
「あれってやっぱり俺たちが落下して出来たんだろうか。だとしたら俺らの服がボロボロだったのも頷けるけどな」
「……まぁそれはともかく、私たち2人、無関係ではないでしょう」
「確かにな〜。俺たちってどんな関係だったんだろうな?」
そう言うとソラは急にソワソワとし始めて、チラチラとこちらを見てきた。
「や、やはり……あんな異常な状態で一緒にいる関係だったようですから、普通の関係ではないと、お、思いませんか!?」
「お、おう」
急に声が大きくなったな。
「そ、そうです。例えば、こ、ここここ恋人とか?」
恋人か……ふむ、なるほど……
「…………」
「じ、ジョーダンですよ!? 嘘に決まってるじゃないですか! だ、だいた――」
「恋人か! 案外あり得るかもな! それなら2人いた理由にもなるしな!」
「……! シ、シオンもそう思うんですか!?」
「いやでも、やっぱりないな。普通の恋人があんな落下したみたいな状況になるわけないし! ははは!」
「は、はは、ははは……はぁ……」
ソラは何か気に食わなかったようで、落ち込んでしまった。やべ、どうしよう。俺のせいかな?
「そ、ソラ? なんか俺悪いこといっ……!?」
「……!! ……シオン……!」
「ああ……」
見られている。明らかに数人の視線を感じる。俺とソラ、どっちを狙っているんだ?
「発動、羽音」
「っ!!」
仕掛けてきた!! なんだこの不快な音は!?
耳元で蜂が羽ばたいているかのような音に思わず耳を塞いでしまった俺とソラはその隙をつかれ、敵の蹴りをモロに喰らってしまった。
「ぐっ!」
「きゃあ!」
その衝撃により、ソーニャから預かっていた袋を落としてしまった。
「アレだ!」
蹴ってきた男がそのまま袋を拾いにきた。
狙いは袋か!!
「そう簡単に、取らせるか、よ!」
「ちっ!」
「ソラ! 平気か?」
「ええっ!」
すぐに体勢を立て直した俺は敵が袋を掴もうとしたところに蹴りを入れた。そのため敵は手を引っ込め後ろへと下がった。
敵の数は……2人か。顔全部を覆うあの独特の格好、あれは……
「お前ら蜂の針だな」
「いかにも」
「お前らの目的はなんだ? なぜこの袋を狙う」
「何を白々しい事を! 盗んだのは貴様の仲間だろう?」
盗んだ……? 仲間、ソーニャの事か?
ソーニャはこの袋を盗んできたのか? だとしてもこんなおもちゃ、なんのために?
「この袋の中身は子供のおもちゃですよ? なぜあなた達がそのようなものを必死に追いかけているのですか?」
「おもちゃ……?……なるほど。どうやらあの女の仲間ではないようだな。だが関係ない、悪いが袋は返してもらう」
「ちっ、ソラ! くるぞ!」
「ええ! 発動、上昇!」
「発動、羽音!」
「発動、火球!」
またあの嫌な音だ。音のせいでいまいち集中ができないままもう1人の敵は炎を俺目掛けて撃ってきた。俺はそれをなんとか横にかわす。
「あっぶね!」
「馬鹿め、それは陽動だ!」
敵の炎を避けた先には勢いがついたケリが待っていた。
やべえ! ミスった!
「シオンも陽動です。」
「なっ!ぐあああ!」
「えっ?」
ソラは俺に蹴りが当たるのを見越していたかのように蹴りを入れてきた敵の顔面に絶妙なタイミングで回し蹴りを決めた。
敵は自身の勢いプラスソラの勢いプラス予想外の攻撃をくらい、地面に倒れこんで気絶してしまった。
「やりましたね、シオン。ナイス連携です」
「コンビネーションじゃなくね? 今の」
「ふふん、でも良い攻撃でしょう」
「ま、まぁ確かに。ありがとう。でも、なんであんな良いタイミングでカウンター決められたんだ?」
「ふふん……それは普段からシオンを見ていれば簡単な話ですよっ」
こいつ……ドヤ顔で解説してるが恥ずかしい事言ってんのわかってんのか……?
「……まぁいいや」
「あと1人です。このまま倒しますよ!!」
「ああ、そうだな」
2対1のこともあり、もう1人の方も倒し、縄で縛り尋問する事になった。
「答えてください。このおもちゃを何故狙ったんですか」
「ふん、だれが答えるかよ」
「そうですか」
そう言うとソラは敵の股間へと足を置いて体重をかけ始めた。
え、なにしてんだこの子は……?
「お、おい。何してんだお前」
「何って、ちょうど良いところに足置きがあったので置いているだけです」
「つ、潰す気か?」
「さぁ? あなたがこの退屈な時間を終わらせてくれれば止めるかもしれません」
「は、はったりだろ?」
「そう見えますか?」
ソラはニヤニヤと笑いながらさらに乗せている足へ体重をかけ始めた。
あー見てるだけでいてぇっ! つーかソラどうした!? 俺の時の態度となんか違うぞ!?
「う、ううう。」
「無駄に刃向かうんですね。」
「ぐおおおお! お、俺は言わんぞ!」
「強情ですね」
「うがああああああ。」
「おい、お前さっさと言っとけ。俺も痛くて見てらんねーから早く言え」
「う、ぐぐぐぐぐぐ。く、くそっ!! わかったよ! 言うよ! そのおもちゃの中身、砂なんかじゃねぇ! 違法薬物だ!」
「なっ!?」
「……なるほど。そういうことですか……」
違法薬物だと? だとしたら……ソーニャはなんのためにこいつらからそんな物を盗み出したんだ?
「なぜソーニャは違法薬物なんかを盗んだんだ?」
「さ、さぁな。だがあの女は以前から我らの扱う商品を盗み出して、売りさばいていた。」
「だとしたら、金か?」
「お、恐らくそうだろうな。あいつは我々の商品を盗み過ぎた。そろそろ天罰が下る頃だろう」
「どういうことだ」
「わ、我々は貴様らがあの女の仲間だと思って尾行したが、貴様らもあの女に利用されたタチだろう。つまり、あの女はお前らを囮にしたんだ」
囮だと? なんのために。
「五万ゴールド……なるほど、どおりで高いわけですね」
「き、気づいたようだな。そうだ、あの女は貴様らに我々を張り付かせる事で、手薄になったアジトに進入する気だろう。貴様らを見つけたのは我々2人だが、他にも数十名貴様らを捜索している。今、アジトに人はほとんど残っていない」
「随分と余裕ですね。アジトが襲撃されるというのに」
「ふ、ふふ。あの女は勘違いしている。我らのアジトは私たちなどいなくても平気だ。そうでなければここまで人を捜索に使うわけがあるまい」
「それは……どういう?」
「ボスがいればそんな心配はいらないという意味だ。我らのボス、ビー様にかかればな」
ビー……蜂の針のボス、か……。
ソーニャはアジトの見張りをかいくぐり、アジトの中へと進入していた。
「この人数の少なさ、どうやらシオン様達は良い働きをしてくれているようですね……感謝です……」
「お前……何者だっ!?」
「おっと、見つかってしまいましたか」
ソーニャは素早く相手の顎へと掌底打ちをし、一瞬で気絶させた。
「……さて、アレはどこにあるんでしょう……」
その後もソーニャは慣れた動きで敵を倒しながらアジトの奥へと進んでいった。
「ここは……?」
ソーニャがたどり着いた先には台座があり、その上には石が置かれていた。
「……? きゃっ!」
ソーニャがその石を押すと、台座の奥の壁が横に開いていき、中の様子が露わになった。
「……ふふふ。遂に見つけたました。これで――」
「おいたが過ぎるなぁ? ソーニャちゃんよぉ。」
「!?」
ソーニャが後ろを振り返ると、そこには長い髪を後ろで束ね、不気味な笑みを浮かべる男がいた。その男は台座の石を押し、扉を閉めた。
「あ、あなたは……蜂の針首領、ビー……!」