II話【仲良くなりたい】
「ソラ〜遊ぼうよ」
「私は今から奉公のお勉強をしなければなりません」
「ちぇっ」
ソラと出会って3日目。何度か遊びに誘ってはいるものの、ソラは忙しいみたいで遊んでくれない。同い年の子なんてソラ以外にいないのになー。
つまらないし仕方ないのでお兄ちゃんのところへ遊びに行く事にする。ちなみにお兄ちゃんは15歳。僕と10歳も離れているのだ。
お兄ちゃんの部屋の前に行き、ノックする。しばらくするとお兄ちゃんが出てきた。
「おや、またソラに断れたのか?」
「そうだよ、酷いんだよあいつ」
「ふふ、まぁまだロキの事が恥ずかしいんじゃないかな?」
「えー? そうかなァ? それよりお兄ちゃん、剣術教えてよッ」
「またか? ロキは本当に剣が好きだな。わかった、ちょっと待ってろ」
お兄ちゃんは部屋から木製の大剣を取り出す。その剣は普段お兄ちゃんが使っている真剣を練習用に真似して作られた物らしいけど、身の丈ほどはある。
「良いなァ、カッコ良いなァ。ね、ね、僕にも大剣使わせてよっ」
「ダメだ。というよりお前まだ重くて持てないだろ。お前はこれ」
お兄ちゃんから渡されるのはちんまりした僕用に作られた木刀。僕だけに……なんちゃって。
「つまんない事考えてないで、ほら行くよ」
「わっ、なんでわかったのさっ」
「お兄ちゃんだからさ」
そんなこんなでお兄ちゃんが連れて行ってくれたのはいつもの練習場。城の端には少し広い空き地があるのだ。
この空き地のある城壁を突っ切ると城の裏に出れて、山に行ける。モンスターが出るからもちろん僕は行く事を禁止されてるけど。
「さぁ構えろロキ。ちょっとは上手くなったか?」
「よし、見ててよ〜。やぁっ!」
勢いよくお兄ちゃんに剣を振り下ろす。それを難なくお兄ちゃんはかわして、また構える。僕は振るう、お兄ちゃんは避ける。それの繰り返し。
10分経って僕の体力が限界になった頃、お兄ちゃんはため息をつきながらアドバイスをくれた。
「ロキ、お前な。センスは良いんだからもうちょい考えて剣を振れ」
「ハァハァハァ……か、考えてるよっ……」
「この前も言っただろ? ただ振るだけじゃダメなんだ。呼吸を掴め。僕の呼吸、剣の呼吸、全ての呼吸を」
「ハァハァハァ、ちょ、ちょっとタンマ。疲れすぎてよくわかんない」
「やれやれ……」
今日はそれで稽古は終わって、部屋に戻ると、今度はお勉強の時間だ。算数や国語、帝王学とかいうわけのわからない物まで教えられる。
正直言って勉強は嫌いだ。つまらないし、先生のロルフは怖いしハゲてるしなんか臭いし。剣術の方が好きだ。
そんな僕の心が伝わったのか、僕の隣で勉強を見ているロルフは僕に注意する
「坊っちゃま! ここ、間違っておりますぞ!」
「え? あぁ、うんうん」
「なんですかその気の抜けた返事はァ! 未来の国王候補が情けないですぞ!」
「国王ならお兄ちゃんがなるから大丈夫だって。それよりロルフ、臭いからあんまり近寄るなよなー」
「くっ、臭っ!? なんですとォ!? なれば坊っちゃま! 坊っちゃまは将来どうするおつもりですか!」
ロルフは僕の言葉で傷ついたのか、クンクンと自分の匂いを嗅ぎはじめた。
「剣の達人!」
「しかし坊っちゃま、剣の腕もアヴィ様の方が断然上ですが」
「だーっ! うるさい! これから強くなる!」
「そうですか、その意気ですぞ! ではその意気のまま勉強もやっていきましょう!」
「結局それかよ〜。勉強なんてなんの役に立つんだよォ……」
するとロルフはまた情熱を感じる大きな声で俺に自論をぶつけてきた。
「坊っちゃま! それは違いますぞ! 勉強は何もその学問を学ぶ事だけが重要なのではないのです! 学ぶためにする努力、根性、執念――」
「それ全部努力じゃん」
「ご、ごほん。とにかくですね! 結果だけではなくて、過程も重要なのです! この程度の我慢が出来ずして剣豪にはなれませんぞ!」
「わかったよぅ……やれば良いんでしょ、やれば」
「坊っちゃま! わかってくださいましたか!」
ロルフは感激、というように手でガッツポーズをとっていた。まったくうるさいよなぁロルフは。
「それはともかくさ〜ソラと仲良くなる方法考えてよ」
「ソラ? あぁ、この前来た坊っちゃまの召使いですね。なんですか仲良くないんですか」
「僕が遊びに誘っても忙しいって断るんだ」
「な、なんですとォ! あ、あの小娘めェ、坊っちゃまのお誘いを断るなど、あり得ェん! 私なら24時間空いておりますぞ!!」
「いやロルフはいらない」
「……さ、左様ですか……」
ロルフは本気で落ち込んでしまったらしい。ここは励ましておこう。
「嘘だよロルフ」
「うぉおおおお! 坊っちゃまァ! ロルフはビックリしましたぞォ!」
「うるさいよロルフ」
その後2時間勉強をして同じような会話を何度もしたあと、やっとロルフから解放された。結局ソラに対する良い案は出てこなかったけど、代わりに算数の宿題を出されてしまった。
なかなか難しい問題で解けそうにない。ヒントを教えてくれとロルフに言うと、誰か他の人と一緒に考えればわかるかもしれませんぞ、と言われた。
と、言われてもお兄ちゃんやシーラお姉ちゃんは禁止と言われたし……お父さんとお母さんは忙しいだろうし……
「あ」
ソラに聞いてみよ〜