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Ⅰ話【遥か】

 

 太陽暦:651年


「ロキや。この子が今日からお前の召使いになる子だよ、仲良くしてあげなさい」


 金の髪をしていて、少しひげを生やしている。この人は僕のお父さんだ。


 ある日、外でお兄ちゃんと剣術の稽古をしていると、お父さんが女の子を紹介してきた。その子は真っ黒な髪と瞳をしていて、僕と同い年くらいだけど可愛い子だった。


 お父さんは紹介だけすると、忙しいのかどこかに行ってしまった。


 初めて会った僕にキンチョーしてるのか、彼女は僕とあまり目を合わせてくれない。しょうがないので僕から話しかける事にする。


「ねェ? お名前はなんて言うの? 僕はロキっていうんだ。そう呼んで良いよ」

「ロ、キ……? 私は名前ない、です」

「ナイ……? 変わった名前だね」

「ち、違います。無いんです、名前」

「えっ! 名前が無いのっ? なんで!?」

「こらこら、ロキ。あまり女の子に大きな声を出すんじゃない」


 金色の髪を後ろで束ねたかっこいい人。僕のお兄ちゃん、アヴィレックスお兄ちゃんだ。お兄ちゃんはそう言うと、彼女に名前がない理由を教えてくれた。


「ロキ、良いかい。彼女の元いたアルキード王国っていうところはね、代々産まれた女の子には名前をつけず、5歳になったら僕たちに召使いとして奉公に出されるんだ」

「ん……? んー」

「ロキにはまだ難しいかな……まぁとにかく、送り出された女の子には僕たちが責任を持って名前をつけてあげるんだ」

「僕が名前をつけるのっ?」

「そうだよ。ちゃんとした名前をつけてあげないと駄目だよ。僕もシーラの名前をつけた時は緊張したなァ」

「シーラお姉ちゃんの名前をつけたのをってお兄ちゃんだったのかァ……」

「そうでございますよ、ロキ坊っちゃま」

「シーラお姉ちゃん!」


 どこから来たのか、シーラお姉ちゃんがヌッと僕らの前に現れた。薄緑色の髪をしているこの綺麗なシーラお姉ちゃんは、お兄ちゃんの召使いさんだ。

 シーラお姉ちゃんは、マイナリアっていう国からこの国に奉公に来たらしい。


「私がご主人様と初めてお会いした時、ご主人様はそれはもうアタフタしていて頼りないものでしたよ」

「シ、シーラ……! そ、その話はいいから!」


 珍しくお兄ちゃんが焦っている。シーラお姉ちゃんもとても楽しそうだ。


「悩んだ末にご主人様はシーラという名前を授けてくださいましたが、その後も「こ、これで良いかな? ど、どう思う?」なんて感じで、とても大変でしたよ」

「シーラってば!」

「そういえばなんでシーラお姉ちゃんとかこの子とかってうちに召使いに来るの?」


 その質問をすると、少しだけお兄ちゃんは暗い顔をした。


「国同士の友好とかね。大人はそうでもしないと周りを信用出来ないのさ」

「??? よくわかんない」

「わかんなくて良いのさ。まぁとにかくだ、その子にはちゃんとした名前をつけるんだよ?」

「わかったーっ! よしっ、じゃあ今から考えるぞ〜期待しろよ〜」

「は、はい」


 その女の子は恥ずかしがりながらも頷いてくれた。ここは僕の意地にかけてもちゃんとした名前を考えるぞっ。


 うーん、カッコ良い名前……は駄目だよね。女の子だし。と、なると可愛い名前……む、難しい……!


 俺がうんうん唸っていると、シーラお姉ちゃんが助け舟を出してくれた。


「ロキ坊っちゃま。名前を変に考えようとせずに、その子に対して心から素直に思った事を言った方が良いと思いますよ」

「な、なるほど……!」


 心から素直に思ったことかァ……うーん何だろうなぁ。恥ずかしがり屋。可愛い。今のところこんなものしかないなァ。


「シ、シーラ……今だから聞けるけど僕の名前どう思ってる?」

「ご主人様がつけた名前ですか? もちろん全然気に入っていません」

「え? ええええェ!?」

「冗談ですよ、ふふふっ」

「シ、シーラの冗談は心臓に悪すぎるよ……」


 お兄ちゃんが何か話しているが、今はどうでも良い。いつも通りシーラお姉ちゃんと楽しそうな話をしてるんだろう。


 名前を考える作業に戻ろうとして、ふと女の子の方を見る。今日は快晴だ。空には青色がどこまでも広がっていた。


 サァッと足下の草が風で揺れる。同時にあの子の髪も揺らめいた。その瞬間僕の視界にはあの子とこの澄み渡った空だけが残った。


「ソラ……」

「え?」


 女の子が聞き返す。


「君には澄み渡った青空が似合ってるよ、だからソラ。どうかな?」

「おいおいロキ。そりゃあまりにも単純すぎるよ、ハハ」

「ロキ坊っちゃまらしい……」

「う、うるさいなぁ……! 僕はこの子に聞いてるの!」


 僕はジッと女の子を見つめる。すると目を合わそうとはしてくれなかった彼女が、僕を見返して、何かを言おうと口を開いたかと思うと頬を赤らめ、止めて、首を横にぶんぶん振ると、再び口を開いた。



「い、嫌です」



「へ?」

「か、可愛くないです、それ」

「な、何だって……! じゃ、じゃあ他の考えるよ!」


 僕は頭をフル回転させて考える。考えようと唸っていると、ソラがジトーと見てきて一言。


「も、もう良いですそれで。ソラで良いです」

「えっ、良いのっ? じゃあよろしくねソラ」

「……はいロキ様……いや、ご主人様?」

「ロキで良いよっ」

「ロキ」


 そしてぎこちないけれど僕とソラは握手をした。まだまだ心の距離離れているけど、これからはたくさん遊んで仲良くなろう。


 ――これが俺とソラの出逢いだった

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