36話【歪んだ愛】
ピリリと俺の腰に着いている通信機器が音を鳴らす。どうやらソラからの着信のようだ。俺は敵を斬り伏せながら応答する。
『あっ! マルロやっと通じましたよ。 シオン!? 何をしてたんです!?」
「何って……監禁? おらっ!」
『監禁? 何を訳のわからない事を……それで? 今どこにいるんですか? あ、ちょっとマルロ、私の分のデザート食べないでくださいよ』
「お前ら……呑気か。俺は闇ギルドと戦ってんだぞ。おっと」
『モグモグ……はぁ!?』
通信の向こう側でソラの素っ頓狂な声が聞こえる。うん、まぁそうなるよね。
「まぁ説明も今するのキツイから、とりあえず奴隷商会の本部に来てくれ、じゃあな」
『えっ、わ、わかりました』
通信を切ると、俺は襲ってきた3人の雑魚どもを横一線に薙ぎはらう。
「ぐぁっ!」
「ぁあっ!」
「ハァ……ハァ……流石に疲れる」
だいぶ体力使っちゃったけど、粗方片付いたな……
俺は目の前にそびえ立つ監獄のような建物へと目を向ける。さて、どこかにレイがいるはずなんだが……
扉を開け、建物へと入ると、そこには綺麗に区画整理された巨大な鉄格子とそこに囚人のように閉じ込められた人々の姿があった。
「これ全部、奴隷か……? ならここにレイが」
「侵入者だ! 殺せ!」
「ったく、探しもんくらいさせろよ!」
俺は次々とくる下っぱから逃げ、檻と檻の間をぬって、隠れた。
「ちっ! どこに行った!?」
「探せ! まだここらにいるはずだ!」
俺は座り込んで周りを見る。右斜めの方向に上へ繋がる階段を見つけた。しかし、この大量の檻の中にレイがいるかもしれないしな……さて、どうしよう。
考えつつも周りの檻を見ていると、そこには大人子ども関係なくあらゆる人たちが詰め込まれていた。その人たちは俺の存在に気づいているが、黙ってくれるようだ。たぶん解放のチャンスだと思ってるんだろう。
そう思っていると近くの檻にいた若い青年が話しかけてきた。
「な、なぁあんた、何しに来たんだ? もしかして俺たちを解放しに?」
「あーまぁ……仲間を取り戻しに来たんだ」
「なんだ……違うのかよ。まぁいいや。仲間がどこにいるかはわからないけど、どちらにせよ俺たちをこの檻から出すにはこの闇ギルド【召喚奴隷】のリーダー『ジャンク』が持ってる鍵を奪うしかないぜ」
ジャンク……確かマリーがそんな事言ってたな。
「檻はぶっ壊せないのか?」
「この檻は鍵なしに開けると電流が流れて俺たちが死んじまう」
「なるほどね……なかなか手の混んでる野郎だな。そのジャンクって奴はどこに?」
「ジャンクなら上の階にいるはずだ」
「わかった、ありがとう」
俺は礼を言うと、階段へと走る。もちろんそのドタバタとした動きに周りの兵が気づき、俺を追いかけてきた。
俺は追いかけられながら階段を登りきった。すると大きな扉があったので迷わずに叩っ斬る。扉が開き、中の様子が露わになるとそこには椅子に座った若い男と、鉄枷を嵌められたレイがいた。あいつが……ジャンクか!
「レイ!!」
「ご、ご主人様……! な、なんで……」
「おいおい、随分と早いな。俺の兵は何やってんだ?」
俺が到着して数秒すると、後ろから大量の兵が押し寄せてきた。そして怒れる主人の顔を目にして彼らは怯えていた。
「おいてめぇら、遅い」
「もっ、申し訳ございませんっ!」
「ならさっさと、その男を捕まえとけ。俺はこの女のトラウマを呼び起こすから」
「はっ!」
トラウマを、呼び起こす……? 何を言ってるんだあいつは……。考える暇もなく俺に襲いかかってくる兵士たちを剣で薙ぎ払いいつつ、レイの方を横目で見る。ジャンクはレイの頭に手を置いていて、俺の視線に気づくと嘲笑った。
「何をするのか心配そうだなァ? 『ご主人様』よォ? くっくく、奴隷じゃねーのにご主人様とは……良い趣味してるぜお前」
「ハァハァ……ッ! てめェ! レイに何するつもりだ!」
「さっき言ったろ? トラウマを呼び起こすって。人には誰しも思い出したくないトラウマがある。俺のスキルはそれを呼び起こして、俺に逆らう気力を無くすものさ」
トラウマ、レイの場合……奴隷時代か……! まずい、そんなことしたらレイの精神は……! くそっ、斬っても斬ってもキリがねェ……!
「まぁお前はそこで見てろ。発動、弄る心!」
「ご主人さ、……ぁぁあッ!!!」
「ハァハァ……レイッ!! くそっ! 邪魔だァ! 発動! 地獄の裁き!」
スキルを発動させ、兵士たちを斬り捨てるが、死を恐れていないのか奴らは次々と俺に襲いかかる。
その時、スキルを使って出来た一瞬の隙をつかれ、俺は足を掴まれた。そのせいでバランスを崩すと、それを皮切りに次々と俺に兵士たちが飛び乗ってきた。俺はなす術もなくうつ伏せに倒される。
手と足を掴まれたまま、ジャンクの方を睨みつけると、ジャンクはレイの頭に手を置いたまま集中していた。レイは二人の兵士に抑えられ、動くことが出来ていない。
「やめて……見ないでください……」
「ゼェハァ……くそっ、やめろ!」
「よし、こんなもんか。じゃあ止めよう」
不意に、ジャンクはレイの頭から手を離す。すると、押さえつけられて、スキルを使われていたハズのレイがこちらを見て不敵に笑った。