34話【ヤンデレメイドの愛情表現】
「ロキ=アヴァロン……だって? 第二王子?」
「ええ、ご主人様、いまさら何を? てかその竜なんですか」
「いや……ちょっと待ってくれ。聞いてくれ、実は――」
俺は自分の記憶がないこと、そしてそれを取り戻すために旅をしていることを彼女に伝えた。彼女は驚いていたが、真剣に聞いてくれた。
「なるほど、事情はわかりました。ご主人様がレイを忘れるなんてありえませんが、一応そういう事にしておきましょう」
「いや、本当に納得してんの? それ」
「とりあえず……そうですね。ここで立ち話もなんですから、私の今の仮住まいに来てください。そこでお話しましょう」
「わかった、ほらアポロン行くぞ」
「くえっ」
彼女の家は広場抜けた近くにあった。居間とキッチンと寝室と風呂場とトイレがある借家のようだった。俺はとりあえず言われるまま椅子に座り、向かい合って座った。
「それで……君はいったいなんなんだ?」
「そうですね……どこから話せばいいやら……まず、レイはご主人様の専属メイドです。レイとお呼びください」
「わ、わかったレイ」
「先ほども言いましたが、ご主人様はアヴァロン国の第二王子です。しかし半年以上前、あれは……4月の頃でした。ご主人様は忽然と姿を消してしまいました。国は大慌てで探しましたが、結局見つからず、レイはこうやって今も探していたのです」
4月に忽然と姿を消した……俺はいったい何を考えてそんな事を……。
「俺はなんで姿を消したんだろう」
「それはレイにもわかりません。ただいなくなる前日、ご主人様はレイに『ガラム大陸からは離れろ』と仰いました。なのでレイはこうして違う大陸にいるのです」
ガラム大陸から離れろ……確か666年に世界崩壊した時、大破滅が現れたのは、ガラムだったよな……過去の俺はその事を知っていたのか? ……考えすぎか? いや、でも一応聞いとくべきだな。
「レイ、教えてくれ。俺の故郷、アヴァロン王国ってどんなところなんだ?」
「わかりました――」
レイは俺に色々と語ってくれた。それによると、アヴァロン王国は俺の父でもある、国王ガイスト=アヴァロンを主とした平和国家『だった』らしい。
過去形なのは今年(664年)初頭の頃から、国王の様子がおかしくなり、一転して軍拡をして、軍事国家になったらしいからだ。これはアルキード王の手記とも一致する。
レイによると国王は、エデンと呼ばれるエネルギー装置を神のように崇めていたという。現在のアヴァロンが裕福なのも、軍力があるのも全てそのエデンエネルギーによるものらしい。
エデンについては最高機密らしく、国王と王子二人しかその実態を知らなかったようだ。つまり俺は知ってたということだが……もちろん知らん。
現在のアヴァロンはそのような実情のため、国民もエデン教などという宗教に入っているらしい。
「……あんま良い国じゃなさそうだな」
「ええ、それは否めません。こうなる事を見越してそれはご主人様はレイを逃したのかもしれません」
「そういえば……俺って第二王子なんだよな。ってことは兄貴がいるってこと?」
「ええ、いらっしゃいますよ。次期国王である第一王子アヴィレックス=アヴァロン様が」
「ロキ(俺の名前)に比べると随分と強そうな名前だな」
「ええ、アヴィ様は実に素晴らしい方です。もちろんご主人様も素晴らしいですが」
レイによると、俺の兄貴だとかいうアヴィレックスは文武両道の完璧超人だったようで、俺の目標だったらしい。その兄貴は何をしてるかというと、国に残っているらしい。父をこのままにしておけないとの事で、何とか国王の目を覚まさせる気のようだ。
色々と話を聞いたが、レイは親切に話してくれた。親切に話してくれた人にこう思うのもなんだが、レイは何か俺に隠している。確証はないが、俺の周りに関する事で何かを話さないようにしてるように感じた。
「……なるほど、ありがとうレイ。しかし、あれだな。どうするんだ? ようやく俺を見つけてもらって悪いんだが、俺は記憶がないし……」
「それは構いません。ご主人様には絶対にレイの事を思い出させますから」
「あ、あぁそう?」
さっきからこの子、時々凄い怖い時があるんだよな……なんだろう、何か俺の本能が少しビビってるような……。
「時にご主人様。ご主人様は今、旅はお一人でなさってるのですか?」
「いや、三人だよ」
「……三人。それはそれは……男三人ともなると色々と大変でしょうね」
「え……? あぁ違うよ。他の二人は女だ」
俺が女と言った瞬間だった。それまで淡々と話していたレイの様子が変わった。声のトーンが下がり、何やら雰囲気が違う。
「…………女。そう、ですか。その人たちはどのような人なんですか?」
「1人は研究者の女の子で、もう1人は俺と同じ記憶喪失で、全然手がかりがないんだ。アルキードと関係があるかもしれないらしいけど」
「…………アルキード……。つかぬ事をお伺いしますが、ご主人様。その記憶喪失の少女。黒くて短い髪、そして黒い瞳をしていますか?」
「あ、ああ。そうだけど……もしかして何か知ってるのか?」
「いえ……全然……喋ってると喉が渇きますね……今お水をご用意します」
「え……悪いな」
レイは席を立ち上がり、キッチンの方へと向かっていった。
な、なんか怖いんだけど……気のせい? アポロンも少しビビってるみたいだ。
すこしするとレイは戻ってきた。戻ってきたレイはうって変わり、笑みを浮かべて水を持ってきた。め、目が笑ってないように見えるのは俺だけだろうか?
「はいどうぞご主人様」
「あ、ありがとう」
しゃべりっぱなしだった事と、微妙な緊張感のおかげで喉が渇いていた俺は、出された水を全て飲み干した。
「さて……じゃあ次はご主人様と会うまでのレイの話をしますね?」
「お、いいね」
それから15分くらいだった頃であろうか。
異常な眠気が俺を襲ってきた。異変に気付いた時にはもう遅く、俺が目を閉じる最後に見たのはレイの満面の笑みだった。
「……ん……ん……はっ!」
やべっ! 寝ちまった! 今何時だよ!
俺は時計を見ようとして、起き上がろうとした――が完全に立つ前に俺は手にかかる謎の引力に引っ張られた。
違和感を覚え、手首を見ると、そこには腕輪と鎖がつけられていた。よく見ると両手首、両足首についている。
「なっ!? なんだこれ! 手錠に足枷!? いったい誰がこんなっ!」
「あら、起きたんですね、ご主人様」
「レイっ!? ちょうどよかった! これ解いてくれ! なんでこんな事……に……」
何かおかしい。そうだおかしいぞ。よく見るとこの部屋、さっき見たばかりの部屋だ。そう、ここはレイの家の寝室である。
待てよ……てことはこの拘束をしたのは……
レイの顔色を伺うと、彼女はニコリと笑った。
「気づきましたか? そうです。レイが少しばかり拘束しました。でも大丈夫ですよ? 怪我させるつもりなんて全然ないですから。あ、ちなみにあの子どもの竜はどこかに逃げてしまいました。薄情ですね」
「なっ、なんでこんな事を!?」
「……なんでって……ご主人様がレイの事を忘れるからですよ。それだけならまだしも……よりによってあの女と……!!」
レイの形相が恐ろしいものへと変わっていく。
「レ、レイ……?」
「おっと……失礼しました。レイはご主人様の記憶を取り戻す手伝いをしようと思ったんですよ。レイの事をご主人様がそう簡単に忘れるわけありませんから。だってそうですよね? ご主人様はレイ『の』ご主人様ですから。安心してください、絶対に思い出させてあげます。逃げ出そうとしても無駄ですよ? その鎖は絶対に千切れません」
「…………」
や、やべーよ。これ絶対にやばいやつだよ。レイさっきから笑ってないもん。
なんか知らないけどレイのスイッチに触れてしまったらしい。ど、どうしよう。どうやら本当に傷つける気はないらしいけど……これ帰す気もないぞ……!
となると……俺がここから抜け出すには
①レイを説得する
②ソラたちを呼ぶ
③記憶を呼び覚ます
①③はほぼ無理と言っていいだろう。つまり俺が抜け出すには②しかないわけだが……
そうなると頼れるのは……いつの間にか逃げ出したアポロン、お前しかいねェ……!
「さぁご主人様、私がつきっきりでお世話いたします。私の愛、受け取ってくれますよね?」
「4割くらいなら受け取れるかも……」
ソラ、マルロ! 早く来てェェェ!!