33話【動き出した運命】
俺は皆と会い、現代組と未来組のそれぞれの紹介をした。ソーニャはソラと再び会えた事を喜んでるようだったが、ヴァレイアがこれが噂の恋敵かとかからかったせいで微妙な雰囲気になっていた。
「そういえば、アポロンはどこ行った?」
「グァッグァッ!」
「いやお前なんだけどお前じゃなくて、ちっちゃい方」
「私も探しましたが、いませんでした」
「そのアポロンって竜がこの巨大な竜の過去だとするなら恐らく、ここに子どもアポロンはこれてないと思うよ」
ヴァレイアがそんな事を言った。何やら何かを知っているようだ。
「どういうことだ?」
「これは古文書に書かれてたんだけど、どうやらその時代に自分と同じ存在がいる場合はタイムトラベルはできないらしい。因果律云々とか書いてあったけど……まぁそれは良いや」
「へぇ……」
まぁ同じ時代に同じ2人がいるってのも確かにおかしいしな……しかしそうなると小アポロンは何してるんだろ? 裁きの穴で待ってるのかな?
そう考えていると、マルロが何かを言いたそうな目でヴァレイアを見ていた。
「……それより私はきになることが、ある……」
「えーと君は確かマルロだったね? 何かな?」
「……時の石板でソーニャは未来を変えると言っていたけれど……時の石板で遡り改変した未来はこの未来と地続きになっているの……?」
??? 何の話だ? 地続き? よくわからないが一応話を聞くことにした。
「なるほど、当然の疑問だね。まぁそれに関しては確証はない。けれど古文書にはこの世界は全て1つの線で繋がっていると書かれていた。そして僕たちの時代の研究でもそれが通説になってる」
「多世界解釈はしていないの……?」
「多世界解釈も有力な可能性ではあるけど、この世界はそうだな……選択の1つ1つに名前をつけて保存しているわけじゃなくて、全て上書き保存で進んでいるんだ」
「……なるほど。選択の可能性は多世界解釈と同じで無限大、その数だけ結果もあるけど、体験できる世界は1つのみ……ということ?」
「理解が早いね。その通りだ」
2人がよくわからん話をしている。どうやらタイムトラベルについて話してるようだが……
「……ソラ、お前あいつら何の話してるかわかる? ちなみに俺はわからん」
「も、もちろんですよ」
「じゃあ言ってみ?」
「……エ、エリアお願いします」
「ん? 私はわからんぞ。アルフレッドはどうだ?」
「俺はそれよりエリアが闇ギルドのマリーと一緒にいる理由の方が気になるよ」
「ふっふーんっ。お前には話しませーんっ。私、お前は嫌いなのでっ」
「ひ、酷いな……」
ということで皆わからないみたいだった。思わぬところでアルフレッドが被害を被っていたが、ムダ話のおかげであちらの会話も終わったみたいだ。
「……面白い話だった」
「満足してくれて何よりだよ。僕も似たような人と話せて楽しかった」
「おーい、話終わったならさっさと階段降りようぜ」
と、いうことで俺たちはようやく階段を降り始めた。アポロンが寂しそうにしてたが、お別れを告げ、また必ず来ると言うと、しぶしぶ了解してくれた。
階段は一言で言うと、アルキードの時と全く同じ。降りた先にはまぁそこそこ広い部屋があり、何冊かの本と時の石板が無造作に机の上に並べられていた。
「これが時の石板か。僕が思ってたよりも普通に石板だね」
「あぁ、ヴァレイアは見たことがなかったのか」
「うん、実に興味深いね。なんでこんな石が時間に干渉できるんだろ?」
ちなみに今回の石板は
「ねーっねーっ。そんなんどうでもいいからさー! 早く戻ろうよーっ。ここの時代ギルガメッシュがいないどころかなーんもないしいる意味ないよーっ」
マリーが駄々をこねている。確かこっちに飛んでくるときもこいつは急いでたな。せっかちな奴だ。
「じゃあもどろうか。ソーニャは来るんだろうけどヴァレイアはどうするんだ?」
「僕も行くさ。過去の技術にも興味がある」
「もーっ! 何してんの? 先行ってるからねっ! ターッチ!」
石板を触るとマリーは光に包まれ、そして消えた。結局それにつられて俺たちも次々と石板に触る。
頭がごちゃまぜになるような感覚と、宙に浮くような感覚の後、気付くと俺たちは道ばたに倒れていた。
「どうやら無事に着いたな」
今度は全員一緒に同じ位置に帰ってこれたみたいだ。しかし何やら懐かしいものがいるような……
「くえっ、くえっ!」
「アポロン!?」
何故かアポロンも同じ位置に飛んできている。ここは裁きの穴の付近ではなさそうなんだけど……。
マルロとヴァレイア曰く、アポロンも裁きの穴の時に時間を飛んでいたが、未来に同一個体がいるためキャンセルされ、時間の狭間にいたところを今皆と一緒に戻ってきたのではないか、と言っていた。
まぁ難しいことはともかくアポロンが無事でよかった。
落ち着いたところで、皆とこれからについて話し合うことにした。
「つーかまずここどこ?」
「……たぶん、ドロール大陸……」
「ドロールって確か……マルロの……」
「…………うん、生まれ故郷。全然記憶にないけど」
「えーっ? あなたドロール出身だったのっ!? それでアミリア大陸にいたって事はもしかして元奴隷っ?」
「……そう」
マリーがマルロの傷をザクザクとえぐっている。こいつに気遣いという言葉は存在しないのだろうか?
つーかなんでマリーはマルロが奴隷だったことを見抜いたんだろう?
「あはっ☆ シオン。なんで私がわかったか不思議そうな顔してるねーっ。簡単だよ、ドロールの名産品ってなんだか知ってる?」
「いや……知らない」
「奴隷だよ奴隷っ。ドロールがこの五大陸の中で最大の奴隷生産地なのっ。それでねっ? この大陸の出身の人は普通は他の大陸に移らないんだよーっ。なんでかっていうと、奴隷はもちろん自由がないからでー、貴族は奴隷をこき使えるこの大陸から離れるメリットがないからだよーっ。お金もたーくさん貰えるし」
マリーがいつものようにのほほんとそんな事を言ったが、内容はかなりヘビーである。ドロールが奴隷生産地……なるほど。
「マリーは随分と詳しいんだな」
「そりゃそうだよ、奴隷扱ってんのは闇ギルドだからねーっ」
「なっ……!」
そうか……そういえば、最初の頃ララさんが言ってたな。闇ギルドは人身売買もするとか。あれは奴隷のことだったのか……。
「あ、勘違いしないでねーっ? 私は関与してないよっ。奴隷の管理をしてるのはジャンクっていう奴だから」
「……そうか」
「……私は別にきにしてはいない……そもそも全然故郷に愛着なんてない……」
無駄にマルロに気をつかわせてしまった。雰囲気が暗くなったので話を変えることにした。
「エリアとアルフレッドはどうすんだ?」
「とりあえず俺はアミリアに置き去りにしたドルチェと連絡を取るよ」
「私はマリーから聞いたクロードという男について情報を探しに行こうと思う」
ふむ……まぁドルチェはどうでもいいが、エリアは何やら並々ならぬ事情がありそうだからな。あまり口を出さないほうがいいな。
「ソーニャとヴァレイアは?」
「私たちは変わらず石板についての情報を集めつつ、世界を救う方法も探しに行きます」
「僕は観光もする気だけどね」
「もうっヴァレイアは呑気なんですからっ!」
まぁ2人はでかい使命があるからそりゃ石板探しになるか……さて、問題は……
「俺たちはどうする?」
「そうですねぇ……長居するような大陸でもなさそうですし……」
「……とりあえずは今まで通り記憶の手がかりを探す……?」
「そうだな。近くの街のギルドでも行くか」
みんなの方向性が決まったところで俺たちは別れることになった。
「じゃあねシオン。今回は俺が見せ場とっちゃって悪かったね。今度は君に譲るよ」
「ふん……アルフレッドは私の見せ場もよく取るだろう……」
「タハハ……確かに」
「さて、僕たちも行くよ。またねシオン」
「また会いましょうシオン様」
そんな事を言いながら皆それぞれの別々の方向に歩いていった。ちなみにマリーは当然のように私も帰るねーっ、と言ってどっかに消えてしまった。自由な奴だ。
「じゃ俺たちも行こう」
「くえっ!」
こうして俺たちは未来の旅を終え、再び現代へと戻ってきた。未来に行ったおかげでありがたい事に絶望的な未来の存在を知ることが出来たけど……さて、この先どうしようか?
いろいろ考えながらサーミル街というところにたどり着き、俺たち3人は別行動をとる事にした。
というのも女子2人がシャワーを浴びたいのと服を買いたいらしかったので、俺が付いてくのもアレだし別行動にしようとなったのだ。
しばらく歩いていると、大きな市場のような場所に出た。そこには無数の人がごった返していて、彼らは皆商人のようだった。
彼らが見つめる複数の台の上には人が乗っており、彼らは首や手に鎖をつけられていた。
「さーて、こちらの若い娘エルフ族、家事洗濯など全てこなせるよーっ! 値段は50万ゴールドからだっ!」
「55万!」
「60万!」
次々と値段を変えていく商人たち。どうやら競りのようだ。
あれが……奴隷か。本当に売買されてるんだな……。見てるだけで胸糞悪いが、俺にはどうすることもできない……。
「はい! 他にいないね! じゃあ32番さんの85万で決定! 毎度あり!」
そうして若い女の子は商人に連れて行かれた。それにしてもさっき……気になることを言ってたな。あの奴隷商エルフ族って言ったか? なんだエルフ族って……後でマルロに聞いてみるか。
「くえっ」
「ああ、なんだか気分悪くなるなここは。さっさと抜けよう」
俺は商人たちの間をくぐり、広場を抜けようとした。
――その時だった。
「……ご主人様?」
誰かに肩を掴まれた。当然俺は掴まれた方を見る。そこには召使いのような服装をした(後で知ったがメイド服と言うらしい)可愛らしい女の子が立っていた。
「へっ? 俺?」
「ぁあ……ご主人様だ! 夢じゃない!」
「うわっ!」
「スンスン……ご主人様の匂い」
その子は急に泣きだすと、俺に抱きついてきた。
な、なに? どういうこと? ご主人様?
俺が戸惑って何も言えずにいると、その子は何かおかしいと思ったのか上目遣いで俺を見てきた。
「………? どうしたのですか? 何故黙っているのです? せっかくレイがこんなに素直にしてるのに……ご主人様はレイのツンデレも見抜けない馬鹿ですか?」
「……せっかく……? ……! 君は……俺の事を知っているのか!?」
「きゃっ」
俺は咄嗟にその子を引き剥がし、問いただした。少しびっくりしたようだが、その子ははっきりと言った。
「……何を? レイはご主人様の専属メイドじゃないですか。ご主人様の事は全て知っています」
「お、俺はっ! 俺はどこの誰なんだ!?」
「? ご主人様、頭でも打ったのですか? ご主人様は……ガラム大陸アヴァロン国第二王子、ロキ=アヴァロン様ではないですか」
「なん……だと……」
どうやら運命ってやつは……劇的なものを好むらしい