32話【300年という月日】
アルフレッド……! なんでこいつが未来に……? 疑問を浮かべる俺をよそに奴はロボットを貫いた剣を収めると俺に気さくに話しかけてきた。
「ふふ、この時代の兵器も大した事はないなぁ……そう思わないか? シオン」
「……戦ってねーからわかんねーよ。それよりお前、なんでこの時代にいる?」
その質問に対してアルフレッドは少し間を開けたが、すぐに笑顔で答えた。
「エリアをね、追ってきたんだ。彼女、クエスト中に闇ギルドを追ってミラボレアまで行っちゃったからね。クエストが終わったから連絡を取ろうとしたんだけど、連絡つかなくてね」
そりゃそうか。過去と未来で連絡通じるわけねえもんな。アルフレッドはそのまま話を続ける。
「彼女の足跡をそのまま辿っていったら裁きの大穴に行った事がわかってね。俺も行ったのさ。そしたら未来に着いた」
「なるほど……それでなんで今お前が天空から現れることになったんだ?」
「それは俺も計算外だったよ」
「どういうことだ?」
「まぁ待ってなよ。今にわかる」
アルフレッドは苦笑し、髪をかきながらそう言った。するとその後上空からバサッバサッと巨大な何かがはためく音が響く。慌てて空を見上げると、そこには巨大な竜が現れていた。俺もソーニャもヴァレイアも絶句する。
「なんですかあれ……! 竜!?」
「あれは確か……アミリア大陸を徘徊してるって噂の……火炎竜!」
「デカすぎだろ……」
その竜は俺らの真上へと到着すると、徐々に降下して来た。そいつが完全に地面に着地すると、土ボコリが舞う。そして大気を震わすほどの轟音を鳴り響かせた。
「グオオオオオオオオオ!!」
「な……なんて迫力だ」
か、勝てる気が全くしない。なんだこの圧倒的な存在感は。
俺は竜を見上げながらその迫力に完全におののいていた。咆哮をした後、竜は俺を睨み、一直線に突進して来た。
「き、来ましたよ!」
「どうやら僕たちじゃなくシオンを狙ってるみたいだね!」
「くそっ……やるしかないのか!」
俺は背中から大剣を抜き取り、構える。その竜は俺のその動作を気にもとめず、まるでオモチャでも見るかのように嬉しそうに尻尾を振りながら突進して来た。
……ん? なんで嬉しそうなのこの竜。そういえばどこかで見たことがあるような……
そんな事を考えていたら攻撃をする事に失敗し、手で体を掴まれ、竜の顔のそばまで持って行かれてしまった。
「シオン様!」
「あのままじゃシオン食べられちゃうね」
「ヴァレイア! な、何をのんきな!」
「グオオオオオオオオオ!」
や、やべぇこのままじゃ食われる。そう思い、抵抗をしようとしたが、全く脱出出来そうにない。俺がもがいている間も竜は口元に俺の事を持っていく。もう駄目か――そう思った瞬間だった。
「グオオオオオオオオオン!」
「へ?」
竜は何を思ったのか俺を自身の頬にこすりつけ、泣き始めた。鱗は硬いが別に痛くはない。だがその光景はとてもシュールで、俺は何が何だかわからなかった。
「……シオン、驚いたみたい」
「ふふ、傑作でしたね今の顔」
「悪趣味だな貴様ら」
「そういうエリアちゃんも笑ってたけどねーっ」
俺からは見えない竜の背中の付近からそんな声が聞こえてきた。今の声……まさか。
俺の予感は的中した。竜の背中からひょっこりと顔を出したその4人組は、俺を見て笑っている。もちろんソラたち4人組である。
「ふふふ、シオン、驚きましたか?」
「驚きましたか、じゃねーよ! なんだこれ!? なんでお前らこんな竜に乗ってんの!?」
「……あれ? シオンまだ気づいてないんですか?」
ソラが意外とでも言うように俺の顔を見てくる。マルロも同じ表情をしていた。
「なにが!?」
「この子、アポロンですよ?」
「は…………?」
アポロン……? アポロンってあのアポロン? ちんちくりんでマスコット的存在のあのアポロン?
「いや、いやいやいや。アポロンこんなでかくねーだろ」
「何言ってんですか。300年も経てばそりゃこんな大きくなりますよ」
「そ、それもそうだ」
……俺はその竜の方を見る。いつまでも泣き止まないその竜を見て、俺はやっとアポロンだと理解した。よく見ればあの独特な紋様とかあるじゃん。
「アポロン!」
「グアッ!?」
俺の呼びかけに反応して、アポロンは頬すりをやめ、俺の方を見つめた。
「俺は……お前がこの歴史の中でどう生きてきたのかはわかんねぇ……けど300年……途方もない時間だ……」
「グアァ……」
アポロンは何かを思い出すかのように再びボロボロと涙を流し始めた。
おそらく……俺たちはこの歴史の中では666年に死んでしまったのだろう。それに、ヴァレイアはアポロンの事をアミリア大陸を徘徊する竜だと言っていた。
「アポロン……お前、俺たちの事を探し続けていたのか? 300年間、ずっと……」
「……グア」
300年っていうのはいったいどれほどの長い時なのだろう……こんな絶望的な世界で、俺たちもいない中過ごした300年……人間の俺には想像もつかない。けど……けど……。
「ごめんな……アポロン。寂しかったよなぁ……ごめんなぁ」
「グァア……!」
アポロンは涙を流しながらブンブンと首を振る。俺を気遣ってくれてるのだろうか。いや、違うな……俺は使う言葉を間違えたのだ。そうだよな……そうじゃないよなアポロン。
「悪い悪い、違かったな……。待たせたなアポロン。立派に、なったなぁ……」
「くえっ!」
「おいおい……鳴き声戻ってんぞ……ったく」
だけど、そうやって屈託のない笑顔で喜ぶアポロンの姿は、名前に恥じない『太陽』のような姿だった。