3話【怪しげな少女】
試験になんとか合格した俺は、ソラがいる病室へとそれを伝えにいった。
「ソラ! 特例で俺たち2人とも合格だってよ!」
「本当ですかっ!? それは良かったです!」
「ソラの体調はどうだ?」
「薬も飲みましたし、もう平気ですよ」
ソラはベッドの上でガッツポーズをとった。もうすっかり体調は良いみたいだ。
「なら良かった。それにしてもあの熊……強かったな。ビッグベアとか呼ばれてたが……」
「後でミランダさんにでも聞いてみましょう……。それよりシオン、あの力はいったいなんだったんですか」
あの力ってやっぱりあの謎の爆発的力のことだよな……そんな事言われても俺もよくわかってないしな……。
「それがよー全然わかんねぇんだよな」
「なんですかそれ、ふざけてるんですか?」
いや本当にわかんないんだよなあ。だいたい意図してやってるものじゃないしな。なんかこう、内側から湧き出る感じはあるんだけど……。
「それを言うならソラもやけにナイフとか使いこなしてたけどアレなんだよ?」
「アレは……身体が勝手に……」
「だろ?俺のも身体が勝手に動いたんだよ」
「でも貴方のは明らかに身体能力が変わっていました! 謎すぎますよっ!」
「そんな事言われてもな……まぁ無事だったんだし良いじゃん?」
そう言うと興奮していたソラも落ち着き始めた。
「……まぁ、それもそうですね……」
「そうだよ」
「……あ、あの、シオン?」
ソラは顔を赤くしてモジモジしている。なんだどうしたんだ?
「どうした? トイレか?」
「…………馬鹿っ! 違いますよっ!」
「じゃあなんだよ?」
「いえ、ちゃんとお礼言ってなかったと思って……。助けてくださってありがとうございました……本当に」
ソラは顔を赤くしながら、ベッドから上目遣いで俺にお礼を言ってきた。
う……この角度はずるいぞ……。
「ま、まぁ別に良いよっ。俺が助けたかっただけだしっ!」
恥ずかしくなって少し早口で言っちまった! ば、ばれてないかな?
「ふふ……シオン、照れてるんですか?」
ば、ばれてたーっ!!
「……とりあえずこの後はどうするんですか。」
「そうだな、とりあえず次になにするか決めないとな。一回サラさんのとこに行こう。」
そして俺たちはララさんの元へと行くと、ララさんの家にはミランダさんもいた。ミランダさんは非番らしい。
「おめでとう! 合格したんだって!?」
「ええ、でも試験の中で少し変な事がありまして……」
「変な事?」
俺は試験の中でビッグベアと呼ばれる熊と出逢い倒した事を話した。ララさんはしっくりきてなかったようだが、ミランダさんは目を見開いて驚いていた。
「それが本当だとしたらとんでもないことだわ」
「どういうこと?ミランダ」
「良い? モンスターには階級があるわ。F〜A 級まで振り分けられてるの。S 級なんてのもいるらしいけどまぁそれは今は良いわ。シオン君たちが戦ったビッグベアっていうのはC 級モンスター。これはかなりの強さよ。レベル3以上の冒険者がチームを組んでなんとか倒すようなレベルね」
あれ、でも確かソラは……。
「でもミランダさん。私はレベル4ですが全然攻撃が通りませんでしたよ?」
「ええ、ビッグベアは固い皮膚で有名なの。だから基本的には強力な遠距離攻撃スキル、もしくは問答無用に皮膚を壊せる破壊力抜群のスキルを持つ仲間を連れて、皮膚をはがし、そこを狙って倒すの」
強力な遠距離攻撃スキル、か。俺とソラ、どちらもそんなもの持ってないな。
「それをシオン君は素手で破壊したっていうんだもの。そのビッグベアの素材を持ってなかったらとても信じてないわよ!」
「まぁ良いじゃない! とにかくお祝いにケーキ作るから待ってて!」
その後俺たちはサラさんの作ったケーキをご馳走になった。めちゃくちゃうまい。
「そういえば俺たちはこれからどこへ向かえば良いんですかね?」
「そうね〜。ここからだと【テッコイの街】とかも良いかもね」
「テッコイの街?」
「ええ、そこには知識人として有名なマルロという人がいるからもしかしたらあなた達の事も知ってるかもしれないわ。まぁちょっと変人だけど」
知識人……相当な歳いってそうだな……髭もじゃのお爺ちゃんだったりしそうだな。
「なるほど! じゃあ次はそこを目指そう!」
「でもギルドでクエストなんかもやってもいいんだよ?」
「クエスト?」
「ええ、探しものとかモンスター討伐とか、いろいろな依頼を一般の人がギルドに貼っていくのよ。それを冒険者はやって報酬金を貰ったりするのね」
ほほう……なら資金集めにやる必要も出てきそうだな。
「へぇ……クエストね、一応見てみるかな。……じゃあ俺たち行きます! ララさん、ミランダさんお世話になりました!」
「お世話になりました」
「お世話になったのは私の方だよ。いつでも来てね」
「あなたたちの成長楽しみにしてるわ」
そういい別れると俺たちはギルドに行き、依頼掲示板を見に行った。
「たくさんクエストがありますね」
「ああ、参加条件がレベル3以上とかもあるな」
「もしかしてシオンは何にも参加できないんじゃないんですか?」
「うっ、確かに……」
クエスト参加条件を見るとレベル2以上なんかが多い。ソラだけなら受注できるが俺も含めるとなかなか難しいな。んーなんか良い感じのないかなぁ。
そう言ってクエストに目を通していると参加条件が特になく、報酬金も5万ゴールドと中々の物を発見した。
「え、これ良いじゃん」
「なんですか?」
「これ見てみ」
――――――――――――――――――――――――
・私の代わりに運んでください。
依頼主:ソーニャ
報酬金:5万ゴールド
参加条件:なし
依頼内容:私がテッコイの街に持って行こうと思っていた荷物が諸事情により持っていけなくなりました。私の代わりに持って行って欲しいです。詳細は実際に会ってから話します。
――――――――――――――――――――――――
「なーんか、怪しくないですか」
「う、うーんまぁ……」
高報酬でただの運びだもんな……確かに怪しい……怪しいがそれを上回る成功報酬だ。
「他のクエストを見てもこんな簡単そうな内容で良い報酬金のクエストなんてないですよ。」
「でもさ、俺たちお金ないしテッコイにもちょうど行けるし一石二鳥じゃん!」
「お金に関してはビッグベアの素材売っちゃえば解決しますよ」
「いや……アレは武器や防具とかに使った方が良いって言われたし売れないよ」
ミランダさんが言ってたが、まだルーキーの俺たちは素材を換金してお金に変えるより武器の素材として扱う方が良いらしい。確かにナイフだけじゃ心もとないしな。
「うーんなら……良いです……わかりました、それをやりましょう」
俺たちはクエスト受付の人にその依頼の紙を持って行った。それを見た受付の人が本当に良いの?みたいな感じの雰囲気出していたが、気にせず進めた。
そしてギルドの方から依頼主に連絡をしてギルドに呼んでくれるようなので、30分ほど待つと依頼主は来た。
「依頼を受けてくれたのは貴方ですか?」
「あ、ああ。君がソーニャ?」
「ええ、そうです」
訪れたのは水色の長い髪と、豊満な胸をした少女だった。俺たちはギルドの談話室みたいなところの椅子に腰をかけて話し始めた。
「改めまして私がソーニャです」
「俺はシオンだ」
す、凄い胸だな……なんていうかその、ソラのと比べると……まるで谷のような、まさに谷間って感じだな……なんちゃって。
「いてっ!」
と思っていたらソラに足を踏まれた……何故ばれた……?
「……ソラです」
「早速ですが依頼の内容について話しますね? 私が運んで欲しい荷物っていうのはコレです」
ソーニャが袋から取り出したのはたくさんの白い球だった。
「これは?」
「シオン様はここら辺生まれではないんですね。これは中に砂が入っていて、振るとサラサラと音がする子どもなどの遊び道具ですよ」
「へぇ……」
「コレをテッコイまで運んで欲しいんですが、どうですか?」
「これだけ?」
「ええ、これだけです」
マジでこれだけなのか……ますます怪しいぞ……でも見たところ怪しげではないし……断る理由が見つからないな。よし、とりあえず受けてみるか。
「わかっ――」
「待ってください。なぜこの程度の荷物、貴女自身で持っていかないんですか?」
俺が承諾しようとしたらソラが気になっていたことを質問した。それにしてもソラ口調がキツイな……俺が胸見てた事まだ怒ってるのか。
「……今、私は右足を怪我してまして、テッコイまで歩き以外で移動するのはお金がかかりますし」
「怪我? 本当ですか? 見せてください」
ソラのやつ、随分と疑ってるようだ。まぁ後でソーニャに裏切られても困るから良いけど。
「……良いですよ」
そう言うとソーニャは右足を見せてくれた。右足首のそこには確かに包帯でグルグル巻きになっていて包帯の中心に円状の赤黒い血のシミが出来ていた。
「その怪我はどうしたんですか?」
「割ったガラスが刺さっちゃったんです」
割ったガラス、ねぇ……。物理的にあんなところに刺さんのか……?
「……何故それをテッコイまで?」
「テッコイに知り合いのおもちゃ屋があるんですよ。そこに届けないといけないんです。」
「そうですか……ふむ、シオン、ちょっと良いですか?」
「ああ」
ソラは俺を隅の方に呼び出すとソーニャに聞こえないように小さい声で話し始めた。
「シオン。あの女、怪しいですよ」
まぁやっぱりその話だよな。
「ああ、俺もそれは思った。ソラはどこでそう思った?」
「決定的に怪しいのは……あの女、嘘をついています。テッコイまでの道に金がかかると言っていましたが、報酬金の5万ゴールドより高いわけがありません」
ああ確かに、そこは気づかなかったな。あの女……怪しいところだらけだな……。
「……なるほど。でももしかしたらソーニャには俺たちに言いたくない事情があるんじゃないか?」
「事情、ですか……まぁその線もありえますね……けど意外でした。てっきりシオンはあの女の事を信用してるのかと……」
「え……なんで?」
「見てたでしょ……あの女の胸……デレデレしながら、いやらしいですっ……」
ソラは俺の顔を見た後不機嫌そうな顔をしてそっぽを向いてしまった。
いやまぁ確かに見てたけど! 見てたけどそこだけで信用するほど馬鹿じゃないぞ俺は!
「ま、まぁ確かに見てたけど! 俺は別に慎ましげなお前の胸も良いと思う――」
「フォローになってないですっ!」
ペシッと軽く俺の頬をビンタすると、またまたそっぽを向いてしまった。いやまぁ……今のは確かにフォローになってなかったな……
「まぁ……聞いてくれよソラ」
「なんです……?」
ソラは目をそらしながらそう答える。
「お前は俺があいつを信用してると思ってたみたいだが……それはありえない! なぜならっ……!」
「……なぜなら? ふぇっ!?」
俺はここでガッとソラの肩を掴み、思ってる事を言ってやる事にした
「俺が1番信用してるのはお前だからだ! お前が怪しいと思ってる間は俺もある程度は疑うさ!」
俺はソラの目を見つめ、そう言い切ってやった。これは俺の本心だ。
「……ふ、ふーん……そ、そうですか……えへへ……」
ソラは顔を赤くしながらも嬉しそうな顔をしていた。よし……なんとか機嫌は直してくれたな……
「確かにソーニャは何か企んでるかもしれないけど俺たちが金欠なのも事実だ。だからもしソーニャが何か企んでても、敢えてあいつの罠に引っかかりつつクエストをクリアしよう。俺たちなら出来るさ」
「……わかりましたっ!」
そう言って俺たちは席に戻り、ソーニャと話をしてクエストを受ける事を承諾した。そして袋を受け取り、ソーニャはその場を去った。
「じゃあ、テッコイ目指して出発するか」
「ええ、行きましょうっ」
そして俺たちはジャジャリアから出て、サラさんから貰った地図を頼りにテッコイを目指して歩き始めた。
シオン達が出て行った後、ギルドのクエスト受付嬢は考え事をしていた。
「あの人たち、ここら辺の人じゃないわね〜。気の毒な事をしたかもしれないわ」
「どうしたの?」
「いや、あのソーニャの依頼を受けた人がいたから、ちょっとね」
「あら〜それはお気の毒ね」
「ギルド違反になるから依頼人についての説明は出来なかったけど、グレーなのよねぇあの子」
「まだ確実な証拠は出てないの?」
「ええ、だからソーニャからの依頼もちゃんと貼らなきゃいけないんですもの」
「ソーニャか……」
ソーニャは宿屋の部屋の中で包帯を外し、新しい包帯を巻き直そうとしていた。外した包帯の部分には何かが刺さったような傷跡があり、その周りは紫色になっていた。
「……ふふふ、良い働きを期待してますよ? シオン様……」