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28話【救えなかった世界】

 

 ここが、未来……。

 いや、待て本当に未来なのか?

 手がかりは今のところこの古びた看板しかないけど……。確かにこの看板はあの時の物と同じだ……。


 周りを見渡しても何もない。モンスターはおろか生物の気配もない。


 ここが未来だとしても、いったい何が……?

 とりあえずここにいても仕方ない。ジャジャリア街に行くか。


 俺は看板の位置を基点として、ジャジャリア街に向かう事にした。


 行く先々の道でも生物の気配は無く、ジャジャリア街がかつてあったところには巨大なドーム状の建物が存在していた。


 なんだこりゃ……?

 正面には頑丈な鉄らしきものでできた厚い扉があり、ドームは固く閉ざされている。

 扉を開くための取っ手や突っ掛かりはない。

 どうやって開くんだよ……。


「……ん?」


 扉の横の壁には半円状の丸い突起物が張り付いていた。その突起物は透明で、中には赤や緑の線のような物が複雑に絡み合っている。


 なんだこれ?

 俺は興味本位で手でその突起物に触れた。

 その瞬間


 ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!!


「えっ? なにっ!?」

『認識した指紋はデータに存在しません。危険と判断し、対処します』

「か、壁が喋った!?」


 突起物のあった上にある、小さな穴の中からそのような無機質な声が聞こえてくる。


 そして、すぐにドーム状の建物のてっぺんの部分が開き、そこから何かが三体飛び出してきた。


 モンスターかっ!?

 俺は右手で剣を握り、すぐさま身構える。

 飛び出してきたそいつらは生物というにはあまりにも生を感じられず、何より冷たい印象を受けた。


 そいつらの身体は鉄のようなもので出来ていてた。

 銀色の身体で、頭はそれなりの大きさだが、胴体が太くデカイ。そして、腕と足がそれに不釣り合いに細い。


 普通なら、モンスターであっても、匂いを嗅ぐための鼻や、食べ物を食べるための舌が存在する。だがこいつらにはそれが存在しない。口らしきものも鉄で出来ている


 これはまさか……モンスターじゃないのか?

 だとしたら……。


「排除します」

「喋れんのかよっ!」


 そんな事を考えていると、そいつらは手の部分が変形し、砲口のようになった。そしてそこから鉄の塊が飛んでくる。


 銃? なんで手に仕込んでんだ? 銃を相手にするのは初めてだが、思ったより遅いな。

 それよりこいつら喋れるってことはやっぱモンスターじゃないよな。


 俺はそれらを避け大剣を引き抜くと、鉄の物体を一体ずつぶっ叩いていった。


 ガンッゴンッガンッ!


「……機能停止します……」


 思ったよりこいつらは脆く、力を込めて叩いたら動かなくなってしまった。


「これはまさか……機械なのか?」


 俺は動かなくなったそいつらに触ってみる。やはり鉄で出来ている。それに当たり前だが体温は感じない。つまり生物ではない。


『そこの人、入ってきて。扉を開けるわ』

「え?」


 また壁から声がすると、ゴゴゴゴという音ともに扉が開かれた。


 つーか冷静に考えればあれ、通信機器か何かから声がしてるのか?

 とにかく扉が開いたんだから入るか。でないと始まらねぇ。


 扉をくぐると、中には大きな空間が広がっていた。壁に貼り付けられた大きな液晶に、野菜や穀物、果物を育てている庭園があった。

 こんな環境でどうやって育ててるんだ?


 そして、中にはもちろん人々がいる。小汚い服装に身をまとい、床に座っている。


 皆が俺の方を見ている。その目は好奇心なんてものではなかった。目に生気はなく、絶望に溢れている。ただ、反射的に俺の方を見ただけ。そんな感じだった。


 その中の1人が俺の方へと歩いてくる。

 黒く短い髪で片目だけ隠れている。身体は細く、背も小さい。中性的で綺麗な顔立ちだ。

 こいつ、男か? 女か?


「やぁ、ようこそ。僕の名前はヴァレイア。ごめんねさっきは。でも訪問登録してないなんて、他の大陸の人?」

「ん? 何? 訪問登録? よくわからんが俺の名前はシオンだ」


 このヴァレイアってやつ、他の奴らとは違ってあまり目に絶望が見られないな。


「そう、シオン。君はどこから来たの?」

「どこからって……えーと今って太陽暦何年?」

「 太陽暦1000年だけど……? それが?」

「1000年!」

「うわっ、何急に?」


 太陽暦1000年!! 本当に未来なんだなここ! 


「あーごめんごめん。それでなんだっけ?」

「だから、君はどこから来たのっ?」

「えーと、そうだなだいたい300年前のアミリア大陸だな」

「は……?」


 ヴァレイアはポカーンとして、俺を頭のおかしい奴を見るような目に変わった。そりゃそうか。

 とにかく説明しないと、いやどっから説明すりゃ良いんだこれ?


「あ、いや。ええとだな。ヴァレイア、君男?」

「失敬な。これでも僕は女の子だよっ! 君は何が言いたいんだ!」

「そうだよ何言ってんだ俺は! えーと、そう! ヴァレイア、時の石板って知ってる?」

「時の石板……? ……知ってるけど、君何者?」


 俺はヴァレイアに時の石板に関する情報をどこまで知っているかを聞いてみた。すると彼女が知っている情報は

 ・時の石板は時間を飛び越える力を持っている。

 ・時の石板は数百年前に壊れ、この時代にはない。

 このようなものだった。


「それを知ってるなら話は早い。俺は今から300年くらい前から来た。時の石板を使ってな」

「えっ? なにっ? 過去?」


 ヴァレイアは動揺していた。まぁ当たり前か。

 俺は彼女のスピードに合わせ、丁寧に説明していった。最初は全く信じていなかったが、俺の服装や、紙幣や金貨を見て、徐々に信じていき、とりあえずは俺の事を認めてくれた、


「……ふーっ。まさか過去から来たなんてね。色々と聞きたいことはあるけど……まだ纏まらないや」

「なら俺が聞いて良いか? なぜこの時代はここまで退廃的になってる? それに……なぜ皆は絶望してるんだ?」

「それは……」


 ヴァレイアは目を伏せた。やはり何かがあったんだな。


「良いよ。こっちに来て」


 ヴァレイアは壁に貼られた液晶の下に俺を案内した。彼女は壁に貼り付けられた無数のボタンをいじくると、液晶に風景が映し出された。


 な、なんじゃこりゃ……!?


「あー知らないのか。これは記録した動画なんかを見る事が出来る機械だよ。モニターって呼んでる」

「モニター……なるほど。それで、今からなんの記録を見るんだ?」


 すると、ヴァレイアはボソリと、しかし耳にしっかりと残るような絶望に満ちた声で呟いた。


「世界の終わりの日」

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