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隠れ無双〜チートですか?いいえ実力です〜  作者: ハヤブサ
太陽暦664年:アミリア大陸編
2/65

2話【モンスター】


 俺たちはギルドから帰るとララさんの家で再び話をし始めた。


「ララさん、もっとこの世界のこと教えてください! 俺、早く記憶を取り戻したいんです! あ、あと俺には敬語とかいらないですよ。」

「……そう? なら話すね。まず何故レベルやスキルがあんなにチヤホヤされてるのか、っていう話からするね。この世界には【化物モンスター】がいるんだ」

「モンスター?」

「ええ。普通の人間では太刀打ち出来ないような怪物が街から出るといるの。そのモンスターに立ち向かうのが【冒険者】」


 そういえばギルドでも冒険者がどうとか言ってたな。つーか町の外にモンスターいるのによく俺たち無事だったな……


「なるほど。だからレベルが高い冒険者がチヤホヤされるのか」

「そういうこと。強い冒険者はカッコいいしモテる。だから若い男の子は冒険者を目指す事が多いね。」


 レ、レベルの高さはそのまま人気に繋がるのか……それってつまり、俺は……


「シオン……」


 横を見るとソラが俺の事を憐れむような目で見ていた。


「ソラ、その目やめてっ!? なんか悲しくなってくるから!」

「話を戻すよ? 冒険者は倒したモンスターの素材を換金してお金を稼いでるんだ。だから強い冒険者ほど強いモンスターを倒せるから、その分良い素材を手に入れやすくてお金持ちになりやすい。」


 ロマンがあるんだなぁ冒険者って。確かに男なら誰でも興味は持ちそうな職業だ。


「でも俺たちはわざわざ冒険者になる必要は無いかな。記憶を取り戻せばそれで良いし。」

「冒険者は何もモンスター倒すだけじゃないよ? 古代遺跡を発掘したり埋蔵金手に入れたりとか、冒険しに行くのが冒険者だからね。冒険者になっとけばギルドカードっていうのが手に入って危険地区とか国も入りやすいし、記憶を取り戻すには良いと思うよ。」


 なるほど……通行証みたいにも出来るのか。それなら確かに必要かもしれないな。


「シオン……どうしますか? 私は取っても良いと思いましたが……」


 ソラもどうやら冒険者に賛成のようだ。なら俺も拒否する理由はないな。


「よし、なろう冒険者! ララさん冒険者になるにはどうすれば?」

「冒険者になるにはギルドで半年に一度行われる冒険者適正試験に合格しないといけないね」

「試験……ですか」

「ええ、でも大切なのは冒険者になった後よ。ギルドとかで仲間探しをしてチームを組んだりして冒険をするの。まぁ別に組まなくても良いんだけど」


 仲間探しかぁ。まぁ当分は俺とソラの二人旅になりそうだな。あの野盗みたいな奴らも冒険者だったのか?


「ララさん。蜂の針(ポイズン)とかいうあの集団はなんだったんですか?」


 するとララさんは真剣な表情になり、重々しい口調で話し始めた。


「あれは……【闇ギルド】の1団体よ。」

「闇ギルド?」

「ええ、闇ギルドは普通のギルドでは換金してくれない違法物などを換金するの。例えば人だとか、内臓だとか、違法薬物とかね。そしてそこのギルドに属している団体の1つが蜂の針ね。」


 内臓に違法薬物……なるほど、それで闇か。

 でもそれにしては大して強くなかったような……まぁ気にしても仕方ないか。


「なるほど……割と根が深そうなのに目つけられたな……」

「本当、私のためにごめんなさい」

「いえ、それは全然気にしてないんで大丈夫です。それより半年に一度の冒険者適正試験って次はいつやるんですか?」

「ちょっと待ってね」


 ララさんは棚の引き出しをゴソゴソして、何かを探してるようだった。少しするとある紙を見つけてあった! と叫ぶと、それを見ながら答えてくれた。



「次の試験は……ええと……明日ね」

「明日っ!?」


 はやっ! 準備とかそういうのする暇ないなぁ。


「仕方ありませんね、明日受けに行きましょう。準備は今日中に済ます必要がありますから急ぎましょう!」


 俺がめんどくさがっているとソラがパパッと決めてしまった。うーん頼りになるねぇ。



「じゃあ話はこの辺で終わりにして、ギルドに試験の申し込みに行こうか。」


 その後俺たちは試験の申し込みに行き、お礼という事で新しい服と簡単なナイフを買ってもらい、ララさんの家に泊めてもらうことになった。


そして次の日になった。



「えー、では冒険者志望の方はこちらへ歩いてください」

「外に行くんだな」

「そうですね、モンスターとやらを倒したりでもするんでしょうか?」


 俺たちは試験官っぽい人の指示で外に集められた。志望者は俺たち以外にもいっぱいいて、ざっと100人はいた。


「今日は遠いところお越しいただきありがとうございます。私が試験官のスプレイと申します。では早速ですが試験の説明をさせていただきます。試験は簡単です。あちらにある森でF級モンスターの細菌コウモリの素材を取ってきてください」


 細菌コウモリ?


「細菌コウモリってなんだ? F級って強いのか?」

「もうっ。私が知ってるわけないじゃないですかっ!」


 わかっていたが、何となくソラに聞いてしまった。うーんちょっかい出したくなる顔だぜ。


「制限時間は60分です。もし危険な状態になったりした場合も私は責任をとりませんので。では始め!」


 開始の合図があると受験者たちはいそいで森に向かって走って行った。


「俺たちも行こうぜ」

「そうですね、早くクリアしちゃいましょう!」





 開始からすでに40分が経った。俺たちは未だ細菌コウモリに出逢えていない。途中で何度も受験者たちの悲鳴が聞こえたが、おそらく細菌コウモリとやらか、他のモンスターにでもやられたんだろう。


「なぁ全然コウモリいなくね?」

「そうですねぇ……こっちにいると思うってシオンが言ったんですけどねぇ……?」

「う、うるせー。こっちだと思ったんだよ! あれ、あのほら穴とかコウモリいそうじゃない?」


 俺が指を指した方向には人の肩あたりまでの高さのほら穴があった。


「暗くて中が見えないですね。細菌って言うくらいですからたぶん噛まれたら病気になる可能性がありますよ。シオン……任せましたっ!」

「え! 俺入んの? 石でも投げよう」


 俺は近くにあったそこそこの大きさの石をほら穴に向かって投げ入れた。すると何かに当たった鈍い音がした後、中からコウモリが大量に出てきた。


「お! 出てきた出てきた! コレがたぶん細菌コウモリだろ。あら? なんか俺たちを見もせずに逃げて行くな」

「し、シオン。あ、あれはなんですか?」

「えっ……」


 ズン、ズンと足音を鳴らしながらほら穴から出てきたのは俺たちの身長より大きく全身が黒い毛で覆われた熊のような化物モンスターだった。



「グルルルルルル……」



「お、おいおい。怒ってる?」

「み、みたいですね。シオンの投げた石がぶつかっちゃったんですよっ! たぶんっ!」

「今からまた探す時間もないし……ほら穴の中にはまだコウモリがいそうだからコイツ倒すしかない、な……」


 てか倒せんのか? この大熊……。


「……来ますよ!!」

「うおっ!!」


 熊はいきなり俺に向かって爪を振り下ろしてきた。俺はそれをギリギリかわし、体勢を整えた。


「あっ、あっぶねぇ……」

「は、速いですね……!」

「ああ、それに強い。俺の後ろにあった木が折れてる。当たったらヤバイ」

「とりあえず長期戦を覚悟しましょう……ええと確か、発動! 上昇ライズ!」


 ソラは発動をすると動きが素早くなり、熊の後ろに回り込んでナイフで切りつけた。


「グヲッ!!」


 熊は切りつけられ怯んだ。効いてるみたいだな。


「良いな、それ。俺にもかけてくれよ」

「……お、想い人じゃないと効きませんよっ!」

「ちぇっ」


 ソラの能力って確か身体能力上昇とかだよな。想い人って……なんでわざわざそんな制約がついてんだろ。


「よっしゃ! 俺もやってやる!!」


 俺も熊の隙をついて斬りつけた。だが――


「ぜ、全然刃が通らない。ソラと同じナイフなのに」

「恐らく……コレがレベルの差です。しかも今私は身体能力上がってますから」

「くっそ!」


 その後も俺たちは攻撃を避けまくり、時々ナイフで切りつけて、熊にダメージを与えていった、主にソラが。

 

 不思議な事に体さばきやナイフの使い方は俺もソラも身体が覚えていたようでスムーズだった。もしかしたら前は冒険者だったのかもしれない。しかし――


「はぁはぁ……シオン。1発も食らってないのは良いのですが、コイツ本当に倒れるんですか? 全然効いてないような気がするんですが」

「ゼェゼェ……! さ、さぁ? 俺なんて柔らかそうなとこ選んでわざわざ斬ってんだぞ?」


 俺たちはかなり疲れていた。ダメージを与えても倒れなさそうな熊を見て、精神的にもかなりまいっている。


 そしてその時は来てしまった。


「きゃっ!」

「ソラ!?」


 ソラは首元を後ろから接近していた細菌コウモリに噛まれてしまったのだ。俺はすぐさまソラの元に近寄った。


「ソラ! 大丈夫か?」


 噛まれた首筋を見るとその部分が赤く腫れ上がっている。毒のまわりが早い……!


「ち、ちょっとヤバイかもしれないです。頭がクラクラして動けそうにないです」

「逃げるぞソラ! おんぶしてってやるから!」

「む、無理ですよ。あの熊のスピードなら追いつかれて2人とも終わりです」

「くそ! どうすれば……」


 あの熊さえいなけりゃおぶってって行けるんだが……!


「わ、私を置いて逃げてください。そして試験官にこの事を伝えてください」

「何言ってんだよ! 置いてくなんて出来るわけないだろ!」

「そ、それが唯一私も貴方も助かる方法です!」


「……グルルル」


「き、来ましたよ! 早く!」



 熊がジワジワと俺たちに迫ってきていた。理屈ではソラが言った方法が1番合理的だろう。しかしそれでは確実にソラは死ぬ。あの熊はかなり頭が良い。俺があいつを挑発しようとしてもその隙に熊は迷わず弱ったソラを仕留めに行くだろう。

 だから、だから、2人生き残るには……



「な、何してるんですか! 早く!」

「ソラ、お前気づいてるだろ。ココで俺を逃しても確実にお前は死ぬってこと……」

「なっ! そ、それは……」


「グルオオオオオオオオオオ!!」


「記憶がなくて不安でも、同じ境遇のお前がいるから安心できるんだ……絶対死なせやしない!」

「シ、シオン!!」



 敵の爪が眼前まで迫ってきた。何も考えていなかった。ただ俺の身体全てを使ってでもコイツにソラは傷つけさせない、それだけを思っていた。そしたら、身体が嘘のように軽くなった。



「え?」



 熊の爪は確かに俺に直撃していたはずだった。しかし俺の胸を切り裂く前にそれは止まっていた。いや、失くなっていた。

 何故なら熊の右腕は俺のカウンターのパンチにより、吹き飛んでいたから。



「グオオオオオオオオオ!!」


「シ、シオン!!」



 錯乱した熊は俺に残った左腕で激しい攻撃を繰り広げてきた。それを俺は1つ1つ避け、また熊の左腕をパンチにより吹き飛ばした。


「グオオオオオオオオオ!」


「うおおぉおおっ!」


 俺は両腕がなくなりバランスを失った熊の腹目掛けて思いっきりぶん殴った。すると熊の腹に穴があき、そこから熊の体はボロボロと崩れだした。そして全てがチリになった後、残ったのは黒い毛皮の一部だった。


「はぁはぁ……や、やった……!」

「シ、シオン……その力は……いったい?」

「わ、わかんねぇ……そんなことより、さっさと戻ろう……治療を受けないと」


 俺はその毛皮を拾うと、ソラをおんぶして、試験官の元へと戻っていった。そして事情を説明した後、ソラは医療室に連れて行かれた。細菌コウモリの細菌はそこまで強いものではなく、薬を飲まないとしばらく熱が出るというものだった。


 俺はソラを医務室に連れて行った後、再び試験管のスプレイさんの元へと戻っていった。


「ではシオンさん、貴方たちは細菌コウモリを手に入れてないという事ですね?」

「ええ、はい。」

「もう一度森に入ってコウモリを倒す時間もありません。残念ですが、今回は不合格と――ん? その黒い毛皮はなんですか?」

「あ、これは森のほら穴から出てきた黒い熊を倒したら落としていった素材です」


 俺がその毛皮をスプレイさんに渡すとみるみるうちに彼の顔色が変わっていった。


「こ、これは……! C級ビッグベアの毛皮……!? 馬鹿な……何故こんなところに?  いやそれ以上に貴方! 倒したと言いましたか?」

「え、ええまぁ一応」


 なんか俺の力じゃないような気がしたけど……。まぁそこは良いだろう。



「…………いいでしょう。特例です、あなた方2人の合格を認めます!」

「え、良いんですか!? やったぁぁっ!」



 こうしてなんとか、俺たちは冒険者になる事が出来た。





 その日の夜、ジャジャリア街近郊にある1つの洞窟の中で、布を顔に纏った怪しげな男たちは会議をしていた。


「ビッグベアがやられた!?」

「ええ、配置していたところでやれたようです」

「誰に!?」

「そっ、それが……冒険者適正試験にきていた受験者だとか」

「そんなわけねぇだろ! 馬鹿かお前、ビッグベアはレベル4の冒険者でも手こずるんだぞ!? 素人に倒せるわけねーだろうが!」

「は、はいっ! すみません!」

「ちっ、計画がずれたな……。まぁいい、この前も知らねえ冒険者に仲間がやられたしよ、お前ら蜂の針の名を汚すんじゃねえぞ!!」

「はいっ!!」

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