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隠れ無双〜チートですか?いいえ実力です〜  作者: ハヤブサ
太陽暦664年:アミリア大陸編
19/65

19話【生と死】

「王様、アレは!」

「ああ、死神エリアだな。まさかの展開だ。だが、これで良い。あの死神と戦う事で我がコロシアムの評判は更に上がる事になるだろう!」

「そ、そうですな。」


 側近は、会場の恐怖に包まれた雰囲気や、死神の登場という異常事態に対して、一抹の不安を感じていた。


「エリア!? なんでここに?」


 まさか助けに来てくれたのか? だとしてもなんで?

 するとエリアは赤い髪を揺らし、こちらへと振り向いた。


「応援しに来いと言ったのは貴様だろう!」


 エリアは少し恥ずかしそうにそう言った。

 お、応援? 応援ってなんだ? いや待て、あれか。エリアと別れた時に言ったセリフの事か!

 だとしても俺から言った意味とこの状況じゃ全然違うんだが……


「俺が言った応援の意味は観客席とかの話だったんだが。」


 そう言うとエリアは最初ポカーンとしていたが、俺の言葉を頭の中でだんだんと理解し始めたらしく顔を徐々に赤くし始め、最後には地団駄踏み始めた。


「う、うるさいっ! とにかく私は応援に来たんだっ!」

「わ、わかったよ! まぁでも確かに助かったぜ。実際あいつはヤバすぎるからな……。」

「……殺人狂ロズモンドか。厄介な奴と戦っているな。」


 エリアはロズモンドの方を見ると目を細め、鋭く睨んだ。エリアの殺気で会場に緊張が走る。


「アレは……死神エリア! なぜ彼女がシオンに手を貸してるんですかっ!?」

「……私に言われても……ただ、彼女が来た以上、今は下手に手出しをしないほうがいい。」

「くるるるる。」


 そんな殺気を物ともせずロズモンドはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 一体奴は何を考えているんだ? ……いや、始めから一貫してただ殺戮の事だけか……。


「まさか、死神エリアと殺りあえるとはね。これは思わぬボーナスだよ。キミの血はとても綺麗だろうから。」

「ちっ、異常者め。貴様は私が葬りさってやる。発動! つるぎの舞!」


 エリアが剣を抜き、ロズモンドへと向かった事で戦いは始まりを告げた。


「ふふふ、そう急がないでよ。」


 エリアの流れるような攻撃はまさに舞。ロズモンドはそれを紙一重でかわすが、やはり時々かすり、出血をしている。


 まただ。出血は一瞬のうちに止まり、傷口も塞がってしまっている。という事はやはりあいつのスキルは回復系、しかもかなり早い!


 エリアもその異変に気付いたようで、試すようにロズモンドのいろんな部位にキズを付けては回復するのを確認している。


「貴様、その異常な回復力、噂は本当だったようだな!」

「ふふふ、どうやらネタバレしてるみたいだね。」

「ふん。だが死なないスキルなどあり得ない。いずれ限界が来るのだろう?」

「さぁて、どうかな?」


 エリアの攻撃をかわしつつ、ロズモンドは不敵に笑った。

 どういう事だ? 奴の剣は折れ、既にない。それに避けるので精一杯で、反撃出来ていない。

 なのになぜあいつはあそこまで余裕な面をしてやがるんだ。怪しい。

 よし、肩はかなり痛むが……


「エリア!」

「わかっている! シオンも手を貸せ、わたしが隙を作る! 一気にカタをつけるぞ! 発動! 疾風の舞!」

「発動! 部分支配チャージ!」


 俺は足にチャージをして、エリアが作ってくれる隙を待つのみだ!

 エリアの攻撃は先ほどよりも速くなり、ロズモンドも避けきれなくなっている。


「ずいぶんとっ、速いね! けどさっきよりは攻撃が軽い!」

「狙いはそこではない!」

「?」


 それにしてもロズモンドの野郎、あんな攻撃をよくあそこまで避け切れるな……。あれはあいつの素の身体能力なのか……?


 エリアは次々とロズモンドに傷痕をつけていくと、何かに気づいたようで、俺に聞こえるくらいの大きさで、声を発した。


「シオン、見ろ! 奴の身体を! すぐに回復しているが、一箇所だけ治りが遅い!」


 なんだと? アレは……あいつの身体……っ!! 左胸の部分だけ治りが遅い! って事は。


「どうやら貴様のスキル、心臓部分に何か秘密があるようだな!」

「ちぇっ、ばれたか。まぁ、わざわざ防具を脱いであげたんだからそれくらい気づいてくれないとね。」


 あの言いよう……心臓部分が鍵だという事がバレてもなんて事はないってのか……?


 おれがそんな事を考えていると、ついにロズモンドが度重なる攻撃に対して少しよろめいた。


「シオン!」

「ああ! 発動! 地獄の裁き(ニヴルヘイム)!」


 俺は足に溜めた力を解放し、一気に地面を踏み込んでロズモンドの元へと剣を突き刺す姿勢で飛び込んでいった。

 狙うは、心臓。


 俺の剣は風を切りながら奴の心臓を含む胴体を突き刺した。


「……っ! うあっ……!」


 切り口から黒炎が上がり、奴の身体を覆い尽くす。

 俺は手に、奴の心臓を確実に捉えた感触を感じながら、剣を引き抜こうとした。だが――


 ひ、引き抜けない……!

 そう、剣を引き抜こうと力を込めても、何故か引き抜けない。しかしその原因はすぐに判明した。


 こいつ……俺の剣を手で止めてやがる!

 ロズモンドは、俺の剣を手で掴み、俺が引き抜く事を止めていたのだった。

 そして、炎に包まれたまま、奴はスキルを口にする。


「……発動。戦闘狂奏曲バトルコンチェルト。」


 奴を包んでいた炎は消え、現れたのは、満面の笑みで俺を見つめるロズモンドの顔だった。


「なっ――」

「なぜ、俺の炎がまた消えたんだ、かい?」

「っ!!」

「ふふふ、図星のようだね。」


 確かにさっきも同じスキルを発動させて俺の炎を消し去っていたが……問題はそこじゃない!

 こいつ、俺の攻撃を心臓に食らったままで何故生きている?

 弱点は心臓じゃなかったのか?


「ふふ。不思議かい? それとも――」


 ――絶望?


 俺の大剣が突き刺さり、後ろにはエリアも控えているのになぜこの男はここまで……。

 俺は奴の持つ得体の知れない何かに恐怖し、剣を引き抜こうとした。だが引き抜けない。


「さて、そろそろ終わりにしようか。」

「なんだと……?」


 ロズモンドは俺の目を見据えると、微笑み、そして発動させた。


「発動……。道化は踊る(クレイジーピエロ)。」

「がふっ!」


 なっ、なんだ? 口から血だと! コレがヤツのスキルだと言うのか!? だ、だとしたらまずい!


「キミは今まで僕に与えてきた分のダメージを負って死ぬ。一瞬ではないよ。徐々にさ。」

「まずいっ! 離れろシオン! 相手に干渉する強力なスキルは距離を取ればまず解除される!」


 くそっ!

 俺は剣を手放し、奴から一定の距離離れた。

 しかし――


「がはっ!」

「無駄だよ。そんな事で僕のスキルは解除されない。」


 ま、まさか、ヤツのスキルは俺の剣が突き刺さっている事で発動するものなのか!?

 だ、だとしたら、もはや手立ては……。


「ぐっ、はぁはぁ。どうやら俺の大剣がお前に突き刺さってることが問題らしいな。」

「ふふ、凄い痛みだろうに、よく分かったね。けどもう終わりだよ。僕をこれ以上攻撃すればキミは死ぬ。死神も僕に手出しをする事は出来ない!」

「くそっ! なんてスキルだ! このままではシオンが……!」


 口の中が血の味しかしねぇ……! 意識もしっかりしなくなってきた……。


「シ、シオン! 気をしっかり持て!」

「ぐふっ! ぜぇはぁ……! く、くそっ。」


 ロズモンドの野郎、いくら再生するからといって、この痛みを耐え切ったってのか……? それとも痛覚すら消えるスキルなのか……?


「はぁはぁ。あぁぁあ!! 良いねその顔! 最高だよ!」

「がっ、はぁ……はぁ……く、くそっ、イカれてやがる……」


 瞼が重い。血がなくなってきて頭がクラクラする。それに寒い。

 前もこんな事あったな……あれはいつだったっけ?

 あー……もうどうでもよくなってきたな……。


「マ、マルロ! 何が起きてるんですか!? 何故シオンが吐血を?」

「……わ、わからない。けどたぶんロズモンドのスキルのせい……」

「シオン……! 見てられません! 私たちも助けに行きましょう!」

「……そうね……!……死神のように飛び込んでいくのはできないから裏口から入場口に忍び込む……!」

「くえっ!」


 ソラとマルロが作戦を立て、ロズモンドに気づかれないように動き出した一方、シオンはいよいよ瀕死のところまで追い込まれていた。


「ぐふっ! がはっ! ゴホッ……ゴホッ!」

「どうすればいいんだ……! このままではシオンが……!」

「さぁフィニッシュだ! 最高の死に様を見してくれ!――」


 ――ぐちゃっ


 ロズモンドが言葉を言い終えるや否や、俺の内臓の何かが潰れた音がした。

 口からとどまることなく血が吐き出される。


「ごぼっ……!!」

「シ、シオンッッ!!」

「はぁはぁ。さ、最高だぁぁあ!!」


 だ、だめ、だ。もう、立て、ない……。死ぬ、のか? ここで? まだ何も取り返してないの、に……

 死ぬ? 死? ……死。


『寝るにはまだ早い。そうだろ?』


 心の中から声が聞こえる。この声、前もどこかで……

 誰、だ? お前は一体誰なんだ?

 いや、これは……俺の中にある――


 ――記憶?


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