14話【美しい薔薇には棘がある】
薔薇の棘!? 闇ギルドかっ!
俺たちはすぐに戦闘態勢をとり、距離をとった。
つーかなんだよあの服装。フリフリしやがって、なめてんのか?
「あ、この服装やっぱ気になる? 可愛いでしょ。これブルナーラから取り寄せたゴスロリっていう服なんだー。」
「そ、そんな事はどうでもいいっ。お前は何しに来たっ?」
「あ、別にあなたたちを殺しに来たわけじゃないんだよっ。ただ、アルキード王国と何か関係あるのかな、って思っただけ。」
マリーとかいうやつ、口ではそう言ってやがるが本心はわからん。俺たちを事細かに観察してる可能性もある。注意しないと。
「アルキードの事なんか調べてどうするつもりだ?」
「あー、それは秘密だよっ。でもその日記を見たって事はだいたいわかってるでしょ?」
確か、最後の一文が訪問者から神の福音を取り返せ、だったか。
「神の福音ってのが何か大切な物で、それを訪問者って奴らが奪ったって事か? だとしても何がなんだかわからないけどな」
「へーっ、凄い。もう頭の中で整理したんだ。あなた、名前はなんていうの?」
「……シオンだ。」
そう言うとマリーが俺の事をジロジロ見てくる。こいつ、ビーとはまるで違うタイプだな。
「そう、シオン。もしかしてビーを倒したのは、あなた?」
「……だとしたら、どうする。」
「ありがとーっ!」
「っ!?」
「くえっ!?」
「シオン!」
ガバッとマリーは俺に抱きついてきた。思わず俺の肩に乗ってたアポロンも飛び跳ねる。
な、なんのつもりだ?
「おいっ、離れろっ。何のつもりだ!」
「あっ、ごめーん。」
そう言うとマリーは俺から離れた。
「いや、私あいつ嫌いだったんだー。だから感謝の気持ちを表したくてさっ。」
こいつの目、マジで言ってやがる。なんでこんなに爽やかに笑える奴が闇ギルドなんかに?
「……そんな事より、神の福音とやらと、訪問者とやらの情報をもっと教えて欲しい……」
「ふふっ、それは無理だねっ! あなたたち関係ないみたいだしっ。……あれ? でも関係ないならなんでこんなところに……?」
「……!」
「もしかして……あなたたち、アルキードと何か関係してる……?」
一瞬で空気が張り詰めた。マリーはこちらをさっきとは違う目で見ている。
そうか……こいつは振り幅がでかいんだ。オンとオフを完全に切り替えている。
「待て! 俺たちは関係ない。それより、アルキードを滅ぼしたのはお前ら闇ギルドじゃないのか?」
「アルキードを滅ぼしたのは私たちじゃないよ。それより、なんであなた達がここに来たかの方が気になる、なぁ。言わないなら部下も呼んじゃうよ?」
ジリジリとマリーが近づいてくる。俺たちも後ろへと下がっていくが、本棚にぶつかり、後がなくなってしまった。
やるしか、ないか?
「やる気? まぁいいけど、死なないように戦うのは苦手なんだよねっ。」
「チッ……」
「こないなら、こっちからいくよ。発ど――」
「ぐああああっ!!」
「があっ!」
「た、助けてええ!」
「ん? 部下の声?」
な、なんだ? 階段の上から悲鳴が響いてくる。
「仕方ない。また今度ねーっ。」
マリーはそれが気になったようで、俺たちを無視して階段を駆け上がっていった。
「シオン……これはいったい?」
「わかんねえ……俺たちも行ってみるか。」
「……これは、持っていきゃなきゃ。」
マルロは日記を懐に入れ、俺たちもマリーに続き、階段を登り玉座のある場所へと戻った。そこで見たのは――
「血……」
そう、あたり一面にはおそらくマリーの部下であろう者達の死体とその周りに流れる血。
血の軌跡を辿っていくと、これをやった人物は俺たちを探しに来たわけではなく、闇ギルドを潰しにきたみたいだな。
「む、むごい殺し方ですね。執拗なまでに死体を斬りつけています。」
「……怨みをもっている人物……」
バギィィィン!!
金属同士のぶつかる音、外か?
俺は窓から外の様子を覗き込むと、そこには剣と剣をぶつけ合う2人の人物がいた。
1人はマリー、もう1人は……誰だ?
「マリーは外にいるみたいだ、行くぞ!」
俺たちは城を出て、城下町へと飛び出すと、そこは凄まじい剣戟が繰り広げられていた。
「ハァァァアア!!」
「うっ、やるねっ。やああああ!」
「あの赤髪の女、何者だ?」
「……あれは、【死神】エリア。レベル6の有名な冒険者よ……。」
死神……。さっきの無惨な死体、こいつがやったのか……?
「発動! 剣の舞!」
「うっ、くっ。発動! 美しい薔薇と棘!」
エリアの剣のスピードはさらに速くなり、舞うようにマリーを攻め立てる。
それに対して、マリーは地面から巨大な薔薇を生やし、そこから無数のつるをムチのようにして対抗していた。
そんな戦いを繰り広げている2人だが、戦いはすぐに終わることになる。
「は、早いよエリア。闇ギルドの一員が見えた途端にアルキードにダッシュで行くなんて思わなかった。」
なんだあいつら? エリアとかいう女の味方か?
「そうだぞぉ! どうせお前1人で片付けてしまったのだろ……ん? そいつは、敵のボスか?」
「っ!? 増援っ!?」
「よそ見を、するなっ!!」
「くっ、。」
すると、マリーは一歩下がり増援の2人を見つめた。
「天才アルフレッドに剛力ドルチェ。ちょっと分が悪いっ。ここら辺で逃げるとしよっ!」
「逃すかっ!!」
「じゃあねっ! 発動! 茨の道!」
マリーは再び巨大な薔薇を召喚すると巨大な薔薇の中に包み込まれ、やがて薔薇とともに消滅した。
「ちっ! くそっ、逃がした……!」
「あーあ。闇ギルドのボス逃しちゃったか。」
「全くなさけないな!」
「黙れドルチェ!」
「な、なぜ俺だけ……。」
「貴様らが来なければ奴は逃げていなかった。やはり貴様らと組んでも良いことなどない!」
「ま、まぁ待ってよエリア。……ん? 彼らは誰だ?」
金髪のにいちゃんがこっちを見てきた。
「マルロ、あれは誰だ?」
「……金髪の方がレベル7、天才アルフレッド。ゴリラの方が剛力ドルチェ、レベル5……あの3人は全員最強クラスの冒険者……。」
最強か……。なんか強そうなオーラないけどな、あのアルフレッドって奴とか。まだゴリラの方が強く見えるぞ。
そう思っていたらアルフレッドがトコトコとこっちに歩いてきた。
「君たちは何者だい?」
「え、ええと、私たちは――」
「冒険者なんだよ、俺たち」
「へぇ、冒険者がなんでこんなところで?」
「廃墟マニアだからな。」
隣でソラとマルロが驚いた顔をしている。けどまぁさっきの日記をあまり他の奴らに勘付かれて良いのかも怪しいし、アルキードの事について整理できるまでは黙っとこう。
「廃墟マニア?」
「ああ、そういうわけで俺たちはここを探検していたんだが、急に闇ギルドの人たちが襲ってきてビックリしたよ。助けてくれてありがとう。」
「ふーん。そうなんだ。」
「あんたたちは何しに?」
「まぁちょっとした調査さ。闇ギルドが出たって言うからね。」
「そうか、そろそろ行っていいか? こんな死体が転がってるところに長居したくないぜ。」
「そうだね、じゃあ処理は俺たちがやっておくから君たちは行ってくれて良いよ。」
「すまないな、ありがとう。」
俺たちはアルフレッドを横切り、エリアとドルチェからすこし見られながら王国を出ようとした。
その時――
「っ!?」
「くえっ!」
キンッ!!
俺は強烈な殺気を感じた段階で大剣を引き抜き、すぐさま振り返ってアルフレッドの剣を受け止めた。
そう、アルフレッドが急に剣を振るってきたのだ。
「な、なんのつもりだ?」
「ふふふ、いやごめんね。凄い大きな剣を持っていたから、つい実力を見たくなっちゃってね。」
そういうと、アルフレッドは剣を腰の鞘へと収め、そして放っていた強烈な殺気も矛を収めた。
俺もそれを見て背中へ大剣を戻した。
「変な趣味してるなお前。」
「よく言われるよ。いやすまなかった。あ、最後に名前とレベルを聞いてもいいかな?」
「……シオンだ。レベル2だが。」
「ふぅん……シオンか、またどこかで会うだろう。その時はよろしくね。じゃあ今度こそ行っていいよ。」
「ああ、じゃあな。」
俺は再び踵を返し、今度こそアルキード王国を出た。
「シオン、大丈夫ですか?」
「かなりの一撃だった、手が少し痺れてるよ。あれでもあいつは本気じゃなかったみたいだけどな。」
「……天才アルフレッド……」
「レベル7は伊達じゃねえや……。さて、どこかの街にでも泊まっていろいろと整理しよう。」
そして、俺たちは新たなる街を探し、歩き始めた。
シオンたちが去ったアルキードでは、アルフレッドがシオンが去った後を見つめていた。
「アルフレッド、珍しいじゃねーか! お前があんな真似するなんてよぉ!」
「まぁね、でもこれでハッキリした。彼が噂のビッグベア殺しのルーキーだよ。」
「なに? 本気で言ってるのか貴様。あいつは自分のことをレベル2と言ったんだぞ。」
「ああ、普通なら勝てないね。けどあのシオンって奴は普通のレベル2じゃない。だからこそ俺は実力を見たくなったわけだが。これを見てくれ。」
「これは……」
「ヒビが入ってるじゃねーか!!」
アルフレッドが差し出した自分の剣には、さっきの剣のやり取りでヒビが入っていた。
「この剣はかなりの名工に打ってもらったんだけどね……。ふふ、面白い奴だ、シオン。」
「やっぱりスーパールーキーいたんじゃねーかエリア!」
「黙れドルチェ。」
「うっ。」
「さて、逃げた闇ギルドの目的も気になるし、俺たちも後処理をしたらさっさと行こう。」