13話【アルキード王国】
俺たちはアルキード王国を目指し、歩き始め既に3日目の朝を迎えていた。マルロが言うにはそろそろ着くはずだ。
「いやぁ遠いな、アルキード。」
「そうですね、途中幾つか村や町がありましたが、アルキード王国の事を詳しく知っている人はいませんでしたね。」
「……疲れた……」
「くえぇ……」
「アポロンも疲れたみたいだな。ん? あ、旅の行商人だ。」
向こう側から大きな荷物を持ち、歩いてくる男の人がいた。旅の行商人である。
「おや、旅の途中ですかな? 何か買っていかれますか?」
「んーそうだな、何かお勧めはあるか?」
「そうですな、この通信機器などはどうですか。最近パンシア大陸で開発されたんですけどね、各自の番号を登録していれば遠く離れていても連絡が可能ですぞ。」
「あ、これソーニャも使ってましたよ。」
「へぇ、便利そうだな。いくらだ?」
「1つ一万ゴールドでございます。」
「んー割と高いな。」
宿屋などに泊まり、食事などもするためそこそこ使ってはいるが、今俺の手持ちは7万ゴールドある。クエストの報酬とこの前のビッグベアの素材を売ったおかげで割とあるのだ。
「シオン、私は買っておいたほうがいいと思います。」
「……私も。」
「やっぱそうだよな。コレって耐久性はどれくらいあるんだ?」
「テストでは、どれだけ熱くしても冷たくしても、水に入れても衝撃を与えても壊れませんでしたね。あ、半年の保証書も付きますよ。」
「そいつは良いな、買った。はい、三万ゴールド。」
「ありがとうございます。ではこちらになります。」
行商人から渡された通信機器は小型で通話をするのに特化しているようだった。会社名は、ティターニアか。
「ところで旅のお方はどこへ向かうのですかな。」
「ちょっとアルキード王国に用があってね。」
「……アルキード王国、ですか。」
行商人のおっさんの表情が少し曇った。なにか知ってるのか?
「何か知ってるのか?」
「……アルキード王国では、今闇ギルドの1つ【薔薇の棘】が何か動いていると聞きました。」
「闇ギルドか……。情報ありがとう。」
「いえ、お気をつけて。」
旅の行商人は俺たちに挨拶をすると、そのまま俺たちの来た道の方へと歩いて行った。
「早速使ってみましょうか。」
「おお、そうだな。」
「……楽しみ。」
俺たちはそこから少し離れ、早速各自の番号にかけてみた。ちなみにこれは同時通話ができるらしい。
「おーい。」
「あ、聞こえます聞こえます、シオンの間抜けな声が。」
「くえっくえっ」
「……携帯型通信機器、これは思ったより使えそう……」
そこからどうでも良い会話をした後、通話をやめ、再びアルキードへ向かって歩き出した。
そして、少しすると外壁に囲まれ中央に城が建てられた国が見えてきた。門番もいないため、俺たちは勝手に中に入ることにした。
「ここが、アルキード王国……。」
「そこら中ボロボロですね。」
「……人の気配が、ない……。」
国の中の施設に、人はいなかった。人がいなくなってしばらく経ったためか、そこら中が風化しており、王国の影はどこにもなかった。
「うーん、なんで滅びたんだここは。」
「……アルキード王国は半年ほど前に一夜で壊滅した。ここにいた人々も消え、今でも行方不明になっている……。」
「何かと争った形跡もないですし、一体何が……?」
「とりあえず城の方に行ってみるか。」
俺たちは中央にそびえ立つ城の中へと入っていった。中にも人の気配はなく、俺たちの足音だけが響いていた。
「くるるるる。」
「闇ギルドがいるかもしれないって言ってたけど、それすらも感じないな。」
「そうですね、どこかに何かの手がかりがあれば良いんですが。」
「……こういう時は王様の椅子があるところに何かあったりするもの……。」
「そうだな、行ってみるか。いやぁなんかワクワクするな。」
階段を登り、二階の中央の扉を開けると、そこには豪華な椅子が2つ並べられていた。おそらくここが王と王妃が座っていた場所だろう。
「んー何もないですね。」
「もしかしたら既に誰かに色々盗られちゃったのかもしれんな。」
「……あり得る。」
「くわっ!」
「ん? どうしたアポロン。玉座に何かあるのか?」
アポロンが鳴いた方には玉座があったが、見たところ何もなさそうだ。一応調べてみるか。
俺は椅子をペタペタ触っていると椅子の真下に違和感を感じた。
「なんか、スイッチがあるぞ。」
「スイッチ?」
「ああ、椅子の真下に。」
「……押してみるべき。」
「わかった。よっと。」
ゴコゴゴゴ
スイッチを押すと玉座は前にスライドし、下の階へと続く階段が現れた。
「か、隠し階段?」
「やりますね、アポロン!」
「くえっ!」
「……何かがありそう。」
俺たちは意気揚々とその階段を降りていった。階段はやけに長く、おそらく1階よりも下へ、地下に繋がっているようだった。
そして、階段を降り切った先にあったのは、こじんまりとした部屋だった。部屋にあるのは本棚とベッドそしてテーブルだけだ。
「ここは……。」
「隠し部屋のようですね。」
「……少し本を読んでみる。」
マルロが本棚の本を読み始め、マルロがベッドの下などを捜索し始めた。俺はテーブルの下に落ちていた使い古した本を見つけた。
「お、なんだこれ、日記?」
俺はそれを拾い上げ、パラパラと読み始めた。
――――――――――――――――――――――――
太陽歴664
4/18
今日より私は日記をつけることにした。というのも最近になって国内において怪しい動きをするもの達が目立ってきたためだ。噂の闇ギルドであろうか。これから随時調査を行っていこうと思う。
――――――――――――――――――――――――
な、なんだこれ……。
「お、おいっ。2人とも来てくれ!」
「なんです?」
「と、とりあえずこれを読むんだ。」
俺はソラとマルロを呼んで、一緒に読むことにした。
――――――――――――――――――――――――
5/10
国内の調査をするのも大変だというのに、またガラムのアヴァロン王国から使者がやってきた、またアレの件だ。アヴァロン王国は以前とは別物のようになってしまった。平和主義だったのが今では一転軍事国家だ。ガイスト、君に一体何があったんだ。
――――――――――――――――――――――――
「これはまさか。」
「……王の手記……。」
「おそらくな。日付からして今から半年より少し前といったところだ。」
「……アルキードが滅びたのは確か6/6だったはず……」
「って事はこの1カ月後くらいか……」
俺たちは日常の事が書いてあるページは抜かし、何か変化がありそうなページを見つけ、そこを読むことにした。
――――――――――――――――――――――――
5/25
もう今月に入りすでに10人を超える人が行方不明になっている。これはやつらからの警告なのだろうか。だとしても我々は屈するわけにはいかない。それが我々の為さねばならないことだからだ。
――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――
6/4
全ての謎が解けた。そういう事だったのか。しかし真相が分かったとしてもすでに手遅れだ。アレだけは渡すわけにはいかない。奴らが何をする気なのかはだいたいわかっている。確実に世界の破滅を招く事になる。
――――――――――――――――――――――――
そして次が運命の日の前日の話だ。
――――――――――――――――――――――――
6/5
私は確実に死ぬ。もはや逃げる道はあるまい。だがタダで死んでやる気など毛頭ない。いつかこの手記が見つかる日が来たならば、そしてそれを読んでくれている者が心優しき者ならば、私の頼みを聞いてほしい。それは――
――――――――――――――――――――――――
「それは、奴ら【訪問者】から【神の福音】を取り返すこと。それしか世界を救う方法はない。」
「!? 誰だ!!」
唐突に、背後から声が聞こえてきた。何者かが階段を降りてくる音が聞こえてくる。
「アルキードの生き残りかと思って泳がせたのに、どうやら違うみたいね! 残念!」
姿を見せたのは、黒い髪に赤い瞳、そして何より特徴的な黒白のフリルがついた動きづらそうな服装をした少女だった。
「お前はいったい……。」
「初めましてお兄さん。私は薔薇の棘のリーダーのマリーでーすっ!」