12話【試し斬り】
「さて、クエストのおかげで良い時間になったし、そろそろエドガーさんのところへ行くか」
「そうですね、行きましょう」
俺たちはギルドから出て、エドガーさんの家を訪ねた。エドガーさんの家は街の外れの方にあり、小さな家の他に、恐らく鍛冶をする為の場所があった。
「エドガーさーん。シオンでーす」
「おお、来たかお前ら。な、なんだその竜は? 剣はついさっき出来たぞ、中へ入れ」
中へ入ると物は丁寧に片付けられていて、テーブルの上に鞘に納められた剣が二本置いてあった。
俺たちが近くに寄ると、エドガーさんがソラの剣を鞘から抜いた。
「これが……」
「ああ、お前たちの剣だ。まずソラの方だが、見ての通り細く長い刀身が特徴だ。サーベルをモデルにしているため、片刃になってる。軽いため女でも扱いやすいはずだ。」
「ありがとうございます!」
ソラの剣は握りの部分にコーヒーカップの持ち手のような物がついていて、手を保護するようになっていた。
「んでもって、シオンのだが……」
「で、デカイな……!」
「ああ、お前のは大剣だ。戦闘を見た結果お前はソラと違って肉弾戦が得意なようだし、お前の潜在能力を引き出すにはコイツが1番だと思ってな。」
「そうなんですか」
そ、それにしてもデカすぎないか……? こんな大剣……俺に扱えるのか……?
「特徴としては何と言っても長くデカイ両刃の刀身、全長はお前の肩からふくらはぎくらいまではあるはずだ。まぁ流石にこいつはかなり重い、そのためバランスも取りづらく、正直なところ今のお前にはまだ使えないだろう」
「ええっ? じゃあなんで作ったんすか!」
「言ったろ? お前の潜在能力を引き出すには本当はコイツが1番なはずなんだ。だからまずはコイツとは別に練習用の剣で練習してから、段階的にこいつを使えるようにするんだ」
そういうとエドガーさんは練習用の剣を取り出した。さっきの大剣ほどではないが普通の剣よりもデカく長い。
「この練習用の剣には貰った素材は使ってないが、練習にはちょうど良いはずだ」
「二本持ちは重いが……やるしかないか」
「まぁこれで俺のやるべき事は終わった。後はお前らの実力次第だ」
「ありがとうございますエドガーさん!」
「お前らはこの後どうするんだ?」
「うーん、俺的にはソラの記憶の手がかりがありそうなアルキード王国に行きたいんですけど」
俺はその時エドガーさんが、アルキードという言葉を聞いた瞬間反応をしたような気がしたが、ちらっと顔を見てみても特に彼の表情に変わりはなかった。
「シオン、良いんですか?」
「え……? あ、ああ。他に俺たちの記憶に関する情報もないしな」
「……なら、案内役が必要。私がついてく……」
これまで沈黙を貫いていたマルロが名乗り出てきた。確かにマルロがいれば心強いが……。
「良いのか?」
「ま、待ってください! そんな事をしたら、私の夜の日課のシオンチャージがやりづらくなるじゃないですかっ!」
「シ、シオンチャージ?」
な、なんの事だ? シオンって事は俺に関係してるのか? 夜の日課って言った?
「あっ! いえ、その……。だから、そんな事はどうでも良いじゃないですか変態!」
「えっ、す、すまん」
よくわからないがソラの鬼気迫る顔に圧倒されてしまい、何も言えなくなってしまった。我ながら弱い……。
「……よくわからないけど良いってことね……」
「ま、まぁわかりました。良いでしょう」
これ以上話をややこしくしたく無いのか、ソラは素直に頷いた。
「じゃあ今後ともよろしくな、マルロ!」
「……うん」
「話はついたみたいだな。まぁ今夜は泊まっていけ、明日の朝に出発した方がいいだろ」
俺たちはエドガーさんのお言葉に甘えて止まらせてもらうことにした。
そして朝を迎え、エドガーさんは俺たちを街の門の外まで見送ってくれるみたいだ。
「重いな〜この剣。じゃあ、行きます。色々ありがとうございました!」
ソラが剣を腰に差しているのに対して、俺は剣を背中に担いでいた。
「なかなか似合ってるぞ。気をつけてな。アルキード王国、滅亡の裏に色々と黒い噂を聞く」
「人が多いせいで……シオンチャージできなかったです……。」
ソラが何やら虚ろな瞳でぶつぶつと言っているが危なそうなので放っておくことにした。
「……行こう……」
「そうだな、じゃあまた会いにきます! ほら行くぞ、ソラ。」
「……はい……」
「くえっ!! くえっ!!」
「どしたアポロン? なっ!?」
俺が踵を返し、歩き始めると急に岩の陰からモンスターが現れた。
「ビッグベア!?」
「どうやら誰かが来るのを待ってたらしいな。ちょうど良い。この剣の練習をしてやる」
「グオオオオッ!」
「来たなっ! 発動! 地獄の裁き!」
俺は練習用の剣を引き抜き、スキルを発動した。すると、剣に赤黒いオーラが漂い始めた。
「おらああああああああ!!」
ガギィンッという音と共に、俺の剣がビッグベアの胴体を捉えた。しかし――
バキンッ!
「お、折れた!?」
「グオオオオッ!!」
「ビッグベアの皮膚は硬い! しかし、いくら練習用の剣と言え折れるとは……シオンのスキルの威力に剣が追いついてないのか……」
「こうなったら仕方ねぇ!」
「おいっシオン! まだお前にはそれは使いこなせないぞつ!」
俺は折れた剣の代わりに背中から大剣を引き抜いた。
おっも!! 両手で持ってもクソ重いな。けど、思ってたよりもなんというか、手に馴染むな……。まるで、昔から大剣を使ってたかのようだ。
「発動! 地獄の裁き!」
俺は迫ってくるビッグベアに対し、赤黒いオーラの大剣を地面と水平に低く構え、気を整えた。
「ふうぅぅ……」
「グオオオオッ!!」
「……っ! うおおおおっ!!」
ビッグベアが腕を振りかぶった瞬間、俺は剣を横に振りぬいた。
「ガ……グ……」
ビッグベアの胴体は真っ二つに切れ、その部分から発火しビッグベアは燃え尽きた。後に残ったのはビッグベアの毛皮だ。
「ま、まさかあり得ん……! 一瞬であの大剣を使いこなすとは……」
「ふーっ。さてと、じゃあ行くかっ! ソラ、マルロ!」
「私の剣の試し切りもさせて欲しかったんですけど」
「……ますます興味が出てくる……」
「ふふ、ははっ、ハーッハッハッハ!! 面白い、いつかまた会おう、シオン!」
「ええ、もちろんです!!」
そして、俺たちはテッコイを出て、アルキード王国跡地を目指し歩き始めた。
とある街の酒場で、細身で美形の顔をした男、それと対照的に頭まで筋肉で出来てそうな男、そして美しく気品漂う女の3人が、周りの客の視線が集まる中、話し合っていた。
「おい、聞いたか。ギルドカードを受け取って間もないのにCランクのビッグベアを倒した冒険者がいるらしいぜ」
「……本当だとしたら脅威だね」
「どうせまた誰かがホラを吹いてるんだろう。私は以前それで騙された」
「エリアはそういうとこ天然だよな」
「黙れドルチェ」
「まぁまぁ2人とも。」
「な、なぁ。あれって高レベル冒険者の人たちだよな。」
「ああ、間違いねぇ。あの金髪イケメンがレベル7、【天才】アルフレッド。筋肉ゴリラがレベル5、【剛力】ドルチェ、そしてあのきつい目をした美人の姉ちゃんがレベル6【死神】エリアだ。」
「それで? そのルーキーは今どこにいるって?」
「噂ではジャジャリア街付近にいたらしいが」
「ジャジャリアか……そこまで遠くもないね、暇つぶしに会いに行ってみようか」
「無駄だ、どうせデマに決まっている」
「まぁ良いじゃないか、所詮暇つぶし、無駄を楽しもうよ」
「ふん、私はお前らと馴れ合う気はない」
「パーティ組んでしばらく経つのにエリアは全然俺たちと仲良くなる気はねぇな!」
「私は男が嫌いだ、私のレベルに見合うものがいないから仕方なくお前らと組んでるだけだ」
「まぁいいさ、とりあえず行ってみようよ。ジャジャリアの近くにあったアルキード王国滅亡の話は闇ギルドも関わっていたらしいし」
「……その話、詳しく聞かせろ」
すると、先ほどまで興味のなさそうだったエリアが顔をしかめ、突然身を乗り出してきた。
「俺も詳しくは知らないけどね、アルキード王国が滅亡した一件は闇ギルドが一枚噛んでたと聞いたよ」
「今すぐ行くぞ、アルキード王国」
「相変わらずエリアは闇ギルドの事になると顔つきが変わるなぁ! おめえに何があったんだ?」
「……」
「無視かよっ! まぁ良いけどよ!」
「それじゃあとりあえずはジャジャリアに向かう途中でアルキード王国に寄って行こうか」