第八話
宗教法人『新世界』
1990年代、バブルの末期に設立された新興宗教である。「文明に染まった世界からの脱却」を掲げ、アルプスの山奥に自分達だけの集落『楽園』を作り、そこで信者たちは農業や畜産に従事し自給自足の生活をしていた。設立当初から地味な団体であった上に、他の宗教団体が起こしたテロ事件や殺人事件のせいで完全にその存在は隠れてしまい、世間から隔絶された自分たちの世界だけでひっそりと活動をしていた。最近になって都市伝説ブームの影響もあり思い出したかのように『孤児院から孤児を攫って住民にしている』だとか『武器を製造している』などの噂も流れ始めたが、それにすら何の反応も示さず、ただただひっそり静かに活動していた。
だがその実は、日本独立を目的に作られた秘密組織であった。
『新世界』発足より遡る事五年、日本の南極観測隊が発見した隕石がそもそもの発端であった。その隕石は見た目も組成も他の隕石と異なっていた。日本に持ち帰られ精密検査にかけられた結果、その隕石には人に酷似した生物のDNA情報が刻み込まれていることが判明した。本来その事実は世界中に公表される筈だったが、隕石から得られる情報を日本で独占したいと考えた政府の一部の人間があらゆる手を使い隕石の存在ごとその事実を隠ぺいした。
その数年後、その一部の人間と政財界の要人計十名により『新世界』の前身となる『新人類創造委員会』が発足した。彼らは日本中から優秀な研究者を集め、隕石のDNA情報を解読させその情報をヒトのDNAに上書きし、新たな人類を創り上げる計画をスタートさせた。当時の遺伝子工学やクローン技術の最先端技術と資金が惜しみなく投入され、一年後、何万回という試行の末、ヒトのDNAと隕石に書かれていたDNAが奇跡的に安定して融合した、ヒトを超越したヒト、『新人類』第一号『女神』が誕生した。
『女神』は見た目は完全にヒトであったが、空間、創造、創生、破壊、支配、知識、光熱、怪力、治癒の九つの力を有し、その力は委員会の予想を上回るものであった。彼らはその力に魅せられた。いつしか新人類を創るという目的は、新人類を用いた日本の軍事的独立へと代わった。彼らは『新世界』と名前を改め、計画を外国や日本政府にも悟られないために箱根の山に実験研究施設を開設し、計画を順調に進めていった。そして彼らは『女神』の力の量産に成功し、『女神』の九つの力をそれぞれ分け与えた『九天使』と、更にスペックは劣るもののより量産型に適した『孫天使』を創り、着々とその力を蓄えて行った。そして、発足から十五年、遂に計画が実行に移される日が訪れ、『新世界』の兵士たちは東京へと侵攻したのだった。
エヴァっぽい