第七話
一時間後、俺達は隊員に連れられエプロンに駐機された自衛隊の輸送機に乗り込んだ。残された避難者の視線がこちらに突き刺さるようで少し心が痛んだ。
数分後、護衛の戦闘機が飛び立った後に、ヘリは離陸した。見る見るうちに地面が遠くなっていく。それと同時に、心も軽くなるようだった。
(これでもう大丈夫だ………)
たった数時間の東京の滞在中に起こった全ての事は夢のように思えてきた。そうだ、あれは悪い夢だったんだ。現に、空から見えた東京の街は、普段テレビで見るそれと全く変わらない。あの町がもはや機能していないとは到底信じられなかった。
(そうだ、夢だったんだ………)
心が安堵感で満たされると同時に瞼が重くなる。目が覚める頃にはまたいつもの日常が待っているのだろう。俺は何もかも忘れるように目を閉じた。
どれほど眠っていたのだろうか。ガタンという振動で目が覚めた。目を開けると目の前に同じように寝ている少女の姿が合った
(ああそうか、飛行機に乗ってたんだ)
目が覚めたら全て夢だった、という訳にはいかなかったみたいだ。
「到着です。」
隊員がそう言ったので、俺は窓の外を見た。空港のターミナルビルが見えたのだが
(………あれ?)
見回してみて違和感を覚える。確かに、ターミナルの敷地内に飛行機がたくさん止まっているこの場所が空港であることは確実だった。だが、伊丹空港にこれほど外国のエアラインの飛行機が止まっていただろうか?
慌てて反対側の窓から外を確認する。すると、海が見えた。
(ああ、ここは関空か)
でもなぜに関空なのだろうか。最初には伊丹と聞いたはずなのに。まさか、大阪周辺でも何か起こったのだろうか?急に不安になり付添いの隊員に訊ねた。
「えっと、どうして関空何ですか?」
隊員は顔色ひとつ変えずはっきりとこう答えた。
「いえ、ここは羽田空港です」
「はあ!?」
思わず声に出てしまう。
「あの、どういうことですか?ここが羽田だって」
「あなたが必要なのです。」
向かいに座っていた少女が口を開いた。
「は?」
「あなたのその力が、今の私たちに必要なのです。」
何かのゲームの序盤に言われそうなセリフを彼女は大真面目な顔で言ってのけた。もしこれが一日前の俺だったならこっちが恥ずかしくなって笑ってしまうだろう。だが、今ここに居る俺にとっては、笑えない台詞だった。
「あんた達は、自衛隊の何なんですか?」
「確かにこの機体や隊員達は元自衛隊の人間ですが、私は違います。」
彼女は旅行鞄を開き、中からあの制服を取り出した。胸に着いた「NW」の文字
「新世界計画第9実行部隊統括官、『天使』です。」