第五話
ヘリから兵士が降下してきた。全員ガスマスクを被っていたが、彼らが米軍の部隊であることは装備と服装から分かった。
「Freeze!!」
またもや銃を持った兵士に取り囲まれる。
「Hold your hands!」
俺は素直に従いゆっくり手を挙げた。降下してきた兵士は五人、その内三人は三方向から俺に狙いを定めており、残り二人が銃を構えながらゆっくり近づいてきて、俺の身体を調べ始めた。
ポケットから鞄の中身まで全て調べてられている間、俺はずっと銃を向けられたままだった。何で一日に二回もこんな目に合わないと行けないのか、溜め息をつきたい気分だっただが、少しの動きですら命取りになりそうなのでぐっとこらえた。
一通り調べ尽くされた後、彼らの内で軽い話合いが行われ
「OK」
と、銃が下げられた。
「What were you doing here?」
傍らの兵士が聴いてきたので、英語で答えようと少し考えたが
「いや、日本語で大丈夫だ。」
前に居た兵士が流暢な日本語で喋った。その兵士は勇敢にもガスマスクを外した。つるっぱげの、いかにもアメリカ軍人という男だった。
「ここで何をしていた?」
武装集団の死体の傍でごそごそしていたせいで仲間だと思われたようだった。
「パニックに巻き込まれて、頭を打って、気を、気を失ってたんです。そしたら、人が死んでて、それで・・・・・・・・・」
俺は咄嗟にストーリーを創り上げ、出来るだけ動揺しているように話した。
「それで、どうしたんだ?」
兵士は演技を信じたらしく、俺の肩に手を置き優しい口調になった
「それで、歩いてここまできて、そこで自衛隊の人を見つけて、無線で助けを呼ぼうとしたんです。」
「自衛隊?どこに居る?」
「えっと、この」
俺は足元の武装集団の死体を指さした。
「成程・・・・・・・・・」
兵士はしばらく押し黙ったが、完全に俺の話を信じてくれたらしく、周りに居た兵士に今の話を通訳した。
「分かった。ところで、体調はどうだ?苦しい、胸が痛い、などはないか?ガスの影響は受けていないか?」
「いえ、ありません。ところで、ガスってなんですか?」
「何があったのか、知らないのか?」
「はい、人々が血を吐いたのは覚えているんですが、そこから記憶が無くて。」
「成程・・・・・・・・・」
兵士は再び黙った。何と説明しようか、言葉を選んでいるようだった。
「信じられないかもしれないが、これはテロだ。毒ガスを使ったね。」
「毒ガス!?」
どうやら彼らは一連の事態を毒ガステロということにしているようだ。
「ああ、ここに居る奴らが東京中にばら撒いたのだ。」
彼は足元の死体を指さした。
「深夜の三時ごろに同時多発的に即効性の毒ガスが散布され、瞬く間に被害が広がった。内閣や国会、警察すらもはや機能していない。我々は大統領の命を受け、治安維持と救助活動を行うために横須賀からやってきた。」
「そうだったんですか・・・・・・・・・」
東京が壊滅し日本の機能が停止し警察も自衛隊もまともに出動できなくなった中で、アメリカが臨時に統治を始めたという事情が読めてきた。
「風向きでガスが弱かった地域もあるらしい。君もそこに居たのだろう。それに、毒ガス自体の効果も短い間だったからな。君はラッキーだったよ」
兵士は俺の背中をポンポンと叩き、それから周りにいた兵士に指示を出し始めた。兵士たちは指示に従いテキパキと女の死体を袋に入れ、ヘリへ収容する準備を始めた。
「残念ながら君をヘリに載せる訳にはいかない。我々のミッションは残党の捜索と治安の維持だ。だが、別の部隊が生存者の救助に当たっている。今救助の要請をした。時間がかかるかもしれないが、一時間以内に車両が到着するだろう。我々はこのあたりのブロックの安全を確認してから出発するから、ここで一人で待っていてくれ。分かったか?」
「分かりました。」
俺は素直に頷いた。
もし不安ならば、コレを置いていく
男は腰に提げていた拳銃を俺に手渡した。
「撃てる状態にしてある、いざとなったこれで自分の身を守れ」
「Capttain!!」
他の兵士が呼んだ
「なら、これでお別れだ。救助の部隊には俺の名前を・・・そうだな、"フォックス"大尉の指示を受けたと言ってくれ。大丈夫、君には神の御加護がある。」
フォックス大尉は十字を切って俺に祈りを捧げた・
そうして米軍の部隊は女の死体をヘリに載せ、去っていった。