第二話
俺は列に並んでいた。
目の前には親友の大樹が居た。
「怖いよな~予防注射なんてなんであるんだろうな」
大樹がこちらを向いて話しかけてくる
(そうか、今日は予防注射の日か)
何もかも懐かしい小学校の廊下、保健室の壁にはうがい啓発のポスターが貼ってある。あれは同じクラスの高橋さんが描いたものだ。
「次、出席番号10番から20番の人、入ってくださーい」
校医の金崎先生の声がした。しかし皆足がすくんで動かない
「痛くないよ、大丈夫。」
担任の前田先生が優しく皆を励ましてようやく列が動いた。
保健室の中には白衣の先生は居なかった。その代わり、身の丈に合わないコートを羽織りフードを深く被って顔を隠した女が座っていた。
「はい、じゃあ佐倉さん。」
校医の金崎先生に呼ばれた佐倉さんが椅子に座ると、その女は慣れた手つきで佐倉さんの右腕に注射をした。佐倉さんは一瞬泣き出しそうになったが、すんでの所で涙を堪えた後
「ゲホッ」
吐血した。
「はい、じゃあ次、佐藤くん。」
クラス一のいじめっこの佐藤ですら注射の前には怖気づき、逃げ出しそうになった所を女に首根っこを掴まれ、そのまま注射を受け、吐血した。
「はい、島田くん。」
大樹が呼ばれた。
「よし!ぜってー泣かねーから」
「頑張れよ!」
俺は大樹にエールを送った。大樹はサムアップで答え、堂々と椅子に座った。そして先ほどまでと同じように注射を受け
「見たか?泣かなかった――――」
そのまま意識を失った。
「はい、じゃあ次は――――」
名前を呼ばれた段になって、ようやく違和感を覚えた。なんで自分は今予防注射を受けているんだ?なんで小学生になっているんだ?なんでみんな血を吐いているんだ?
「ほら、早く座って。」
金崎先生は俺の手を引いて椅子に座らせた。
(逃げないと)
無意識に身体が動いたが、金崎先生はものすごい力で俺を押さえつけた
「ほら、痛くないからねー」
前田先生もニコニコしながら俺を励ます。待て、前田先生は3組の担任じゃなかったか?俺は1組だった筈だ。
女は黙って俺の右腕を持ち、注射針を近づけた。
「よう、チキンごちそうさまって伝えてくれよ。」
女は動きを止め、こちらを見た。
「何で・・・・・・・・・」
その美しい蒼い目は驚きで見開かれていた。
俺は腕力で金崎先生の手を振りほどき、女の持っていた注射を奪い取った。
「俺はツベルクリン検査は陰性って出てんだよ。」
そういって注射を投げ捨て、彼女の羽織っているコートを剥いだ。
「その校章・・・・・・・・・」
NWの文字があしらわれたデザインの校章。
「お前―――――」
「起きろ!」
どこからか声が聴こえてきた。
更新頻度はまちまちです。
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