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天使  作者: estimate
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第一話

 冬休み。

 年末に開かれる同人誌即売会に参加しようと思ったのがそもそもの始まりだった。   

 東京行きの格安の高速バスチケットをオークションで落札したのは良いが、それは一二月二十四日に東京に着く便の物だった。

 ただ、もはや換金も出来ない。俺は同人誌即売会開催の二十八日までの四日間を見知らぬ東京の地で過ごす羽目となった。

 クリスマスイブの東京は、丁度土曜日だったということもあり何処もかしこも人で溢れていた。貧乏学生にちゃんとしたホテルで連泊する余裕などないので、オールの出来るカラオケ屋やネカフェを捜して彷徨い歩いていたのだが、どこもかしこも割高料金で、俺の持って来た資金が二日で削られる計算だった。俺は異教の地ではやくも完全に行き場を失っていた。

 夜十時を回った頃だっただろうか。歩き疲れた俺は冷たい東京の空気から逃れるように目についたファストフード店に足を踏み入れた。幸い一人分のカウンター席が空いていたのでそこに腰かけ、数百円のクリスマスディナーを一人寂しく頂いていた。隣には制服姿の高校生カップルが座っていた。

(うらやましいな………)

思わずチキンを食べる手が止め横目に睨んでしまう。だが、良く見るとそのカップルは普通とは言い難かった。

 男も女も同じ紺色のブレザータイプの制服を着ているようだったが、男はこの寒いのに上着の一つも持っている様子ではなかった。女の方はといえば、制服の上から明らかに丈の合わないジャンパーを羽織り、フードを深くかぶっていた。下から僅かに金色の髪が見えるが、顔は見えない。男は偶にヒナにエサを与えるかのような動作で女の方にチキンを食べさせては、しきりに周囲を見回して、自分は一切料理に手を付けていなかった。

(ただの家出にしてはビクビクしてるよな。駆け落ちか?それともまさか………なんか犯罪でもしたのか?)

思わず二人の経緯を色々考えてしまう。

(マジで犯罪者じゃなければいいんだけど)

フードで覆われている女の顔をよく見ようと少し前かがみになったその瞬間

「あの、すみません。」

「はい!?」

急に男の方に声をかけられた。ジロジロと盗み見していたのがバレたのか?俺は身体が固まった

「あの、携帯持ってませんか?」

「へ?」

「突然で申し訳ないのですが、携帯電話を貸してもらえませんか?」

この時初めて男の顔をしっかりと見たのだが、どこにでもいるような平凡な顔、とても悪い事をしでかしそうな顔じゃない。そんな彼は今とても疲れた表情で俺の目を見つめていた。

「あ、ああ、いいけど………」

少し逡巡したが、悪い事をされるようでもなかったので俺はポケットからスマホを取り出し、ロックを解除して彼に手渡した。

「ありがとうござます!」

そう言った彼はひったくるようにスマホを取ると、必死の形相で操作し始め、どこかに電話をかけた。こちらに背を向け口元を抑えていたのと周りが五月蠅かったので何を話ているのかは全く聞き取れなかったが、深刻な様子だとは見るだけで分かった。

 俺は彼が通話している間にもう一度女の顔を見ようとした。飲み物を取るふりをして男の背中越しに顔を覗かせると、丁度彼女も自ら飲み物を手に取った瞬間であり、わずかに捲ったフードの隙間からその横顔が除いた。

(可愛い・・・・・・・・・)

素直にそう思った。光を反射し美しく輝く金色の髪、白よりも真っ白な肌、透き通った青い眼、桃のように薄いピンクの唇、「西洋人形のような顔」というたとえを現実で使うとは思ってもみなかった。髪の色からてっきり厚化粧をしたDQN女だとばかり思っていた俺はそのギャップも相まって、しばらく見惚れてしまってた。

「あの。」

口を半開きにして彼女を見ていた俺を電話を終えた男が現実に引き戻した

「ありがとうございました。」

「あ、ああ。」

返してもらったスマホをふと見てみたが、ホーム画面に戻されていた。男が女の方を向いた瞬間に通話履歴を調べて見たが、見事に削除されていた。

(詮索するのは野暮ったいな)

通話料金はどのくらいかは気になったが、彼が何処にどういう目的でかけたのか、そこでそれ以上考えるのは止めにしておいた。

 店を出たのは彼らが先だった。通話を終えてから慌てて身支度をはじめた彼らは

「これ、良かったら食べてください。手をつけてないので、お礼と言っては何ですけど」

とチキン二本を俺に差出し、去っていった。俺は貰ったチキンを聖夜のプレゼントだと思い有りがたく頂いた。思いがけず満腹となった俺に、今までの疲労がどっと押し寄せてきた。思えばこちらに来てからずっと歩いていた。疲れは睡魔へと代わり、飲み干したコーヒーのカフェインの効用すら軽々と抑え込んでしまった。

(明日は、まず銀行で金を下ろそう・・・・・・・・・)

そうして俺は死んだかのようにテーブルに突っ伏したのだった。


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