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電池  作者: そらみみ
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出会い

 事故だったのか、戦争だったのか今となっては知るよしもないが

ある朝目覚めると辺り一面めちゃくちゃで、どうやら生きているのは僕一人のようだった。

こういう時はおきまりのように こりゃ夢だ なんて考えていたんだが

どうやら確固たる現実らしい と認識したのはそれから1週間位経ってからだった。

 そんなに時間がかかったのは死体が一つもなかったのも原因だと思う。

なんで死体が無いのかとか考えたけど 結局わからないままだ。

 もともと両親共に早くになくし、天涯孤独の身の上だったし

なにより 親しい友人知人なんてものはいなかった僕にとっては 変な話 あまり日常は

変わらなかったりした。

 あんなに大勢いた人間も僕一人になってみると 自然の恵みだけで 食べるものはなんとでも

なった。街がこんなにめちゃくちゃなのに山や川は急速に元に戻っていった。陳腐な感想だが

自然の驚異とか思った。


「ラッキ 塩みっけ」


倒壊したかつてコンビニだった建物から塩の他、いろいろな調味料を拝借。

釣具屋や銃砲店から狩りの道具を失敬して動物性タンパク質の確保も比較的容易に

出来るようになったが 人間贅沢な物で こんな状態でも調味料とか探して美味しくいただこうと努力しちゃうようだ。

 僕はサバイバルの得意な強い人間なんかじゃない。対人関係が苦手な半引きこもりだったが

他人がいないのだ。世界全部が僕の部屋みたいなものだった。


僕の日課は冒険だった。冒険といってもたいしたことじゃなく、ただ崩れたデパートやコンビニ

その他の建物に入って まだ使えそうな物をちょっと借りてくるだけの事なのだが。

よくマンガなんかでは 律儀にお金を誰もいないレジに置いてくるというシーンがあったが

生憎手持ちがそんなに無かったし、そもそも銀行が稼働していたとしても貯金もそれほどあるわけじゃなかった。だから自分への言い訳のため、品物は全て借りる という事にしていた。



 照りつける太陽。山の向こうから立ち上る入道雲。蝉たちが短い生を謳歌するために激しく鳴いている。僕は夏に何故か少しもの悲しさを覚える。

 自分の生まれ育った街からだいぶ離れた所まで来たと思う。僕はただ目的地もなく ただ歩き続けている。そうしていればいつかこの世界が何故こうなってしまったのか何かヒントになるような物があるかもしれないし、まずなにより何かをしていたかったからだ。

 少し町並みからはずれて山に登っていく道を歩くことにした。昔からそうだった。僕はどこに続いているのかわからない脇道に入っていくのが好きだった。

 緩やかな坂道を瓦礫と化した街並みを見下ろしながらゆっくりと上っていく。蝉がこんなに鳴いているのに何故か 静けさを感じる。山といっても少々小高い丘ぐらいだったのですぐに頂上に着いた。

 何かの研究所らしい建物が見えた。こういう建物には実際に生活に役立つ物はあまり無いと今までの廃墟めぐりで経験してきていたが、なんだか好奇心から中を覗いてみようと思った。

 ガラスが全て割れてしまっていて 壁の一部はどこから来たのやら 成長の早い蔦が取り付きだしておりちょっと不気味な感じもしたのだが 死体も消えてしまうようなこの世界なら 幽霊なんて出るわけ無いな とか根拠のない感想を持ったりした。

 建物の中はそんなに崩れてはいなかった。大きな窓が多く、陽の光が結構奥まで届いており壁から何から真っ白だったこともあり、思いの外 明るい。

 こんな世界になって最初の頃は 何処かで生きている誰かに会うんじゃないだろうか? と希望とも恐れともつかぬ思いをもって探索していたものだが、最近では 誰もいるわけ無いと どうどうと奥に進んでいく。

 隅から順に各部屋を覗いていく。どの部屋も大きなコンピュータや、複雑な設計図らしきもの

造りかけの何かの部品が沢山転がっており、どうやら工業用ロボットや新型の車、そんな様な物を設計、製造する研究所のようだった。そんな最先端の研究も 今の僕にはまったく役に立たないものだったりするのは、なんだか皮肉を具現化して見ているようで ちょっと変な笑いが出た。

 

「だめだな、こりゃ。」


思わず独り言をいい、その声が瓦礫の山や、機械部品に吸い込まれていくのを聞いていると なんだか無性にむなしくなってきた。

次の部屋を最後にしようと扉を開けたとき 目の隅に今までの状況からするとあり得ない物が引っかかった。


「え? 女の人の顔?」


崩れて山になった元壁だった物の隙間から 眼を閉じた 黒髪の女の人の顔がこちらを向いていた。


「うぇ?まじで?」


意味のない独り言をいいながら、そちらに近づく。

見間違えじゃない、確かに女の人の顔だ。今まで生存者はおろか、死体さえ見つけることは無かったのに、 こりゃなにかの間違いだろう とか思いながらも確認するために顔が埋もれている瓦礫を崩れないようにゆっくりどけていった。

 瓦礫の下からは女の人の全身が現れてきた。顔だけじゃなくってちょっと僕はホッとする。

あらかたどけてしまうと 謎が解けた。その女の人の右腕は何処かへとれてしまっていたのだが

そこから精密な機械部品が見えたのだ。


「ロボットかぁ」


残念なような、そして今までのルールが破られなかった事に安心したような、そんな気持ちが僕を包む。

ここまで掘り出したのだからと僕は好奇心からそれを瓦礫の山から引っ張り出した。

それは中身は金属で出来ているのだろうが、外側はまるで本物の人間のような肌触りだった。

そして意外なほど軽かった。


「さて、と。」


引っ張り出したそれを床に横たえ、改めて見てみると まるで本物の人間の様に見える。

腰まである長い黒髪に色白の肌、睫毛まで生えている。病院の患者が着るような白いワンピースを着ているが、それは埋まっていた為にみすぼらしく汚れている。

 整った顔立ちと 壁が崩れてきたときに取れてしまったのだろう 千切れた右腕がアンバランスだ。

外見上でそれがロボットだと伝えてくるのは、その無くなった右腕と 引っ張り出す時に見つけたのだが、うなじにある何かを差し込む為のような金属が見えている箇所だけだ。


「よくできてるなぁ。」


僕はそう言いながら ちょっとこれを動かしてみたいと思った。

でも右腕は壊れているし、なにより精密機械だから瓦礫に埋もれたときのショックで外からは見えないところが壊れているかもしれない。多分動かないだろうな と半分諦めながらも見えるところにスイッチでもないものかと探してみたが、それらしい物は見つけられなかった。

ひょっとするとワンピースに隠れた場所にスイッチはあるんじゃないかとか思ったけど何となくロボットとはいえ、若い女の人の姿をしたものだ、服の下を探すのはなんだかはばかられた。


「?」


腕組みをして さてどうしよう と考えている僕の目に瓦礫の中に外からの光を反射して光る金属の部品が入ってきた。他にもなんだかわからないがらくたは沢山そこらに転がっているのだが

なぜかその部品だけは僕の意識を引いた。


「ひょっとして これかな?」


そう、ロボットを引っ張り出すときに気がついた首の後ろの窪み、そこにぴったりとおさまりそうな形状をその部品はしていた。

 僕は駄目元でその部品をそのロボットのうなじからセットしてみた。


かちっ


金具と金具がしっかりとはまる音がする。

僕は息を詰めて見守った。


ピッ


短い電子音がした。


「まだ壊れてなかったんだ。」


ちょっとした期待と不安でロボットが動き出すのを待った。

 5分位経っただろうか、最初の電子音以来 音もしなければ動きもしない。


「やっぱり駄目かぁ」


僕がしょうがないかとしゃがみ込んでいた体勢からから立ち上がりかけたその時


ピクッ


まぶたが動いた気がした。じっとその立ち上がりかけた体勢のまま見守っていると ゆっくりとゆっくりとまぶたが開いていく。その瞳が僕を観る。


「こんにちわ」


細いが 凛とした 通る声。


「こ、こんにちわ。」


いきなりの挨拶に僕はどぎまぎしながら返事をする。

が、きっとプログラム通りに電源が入るとこういう風にまず挨拶をするのだろうと思い直し次の動きを見守る。


「あなたはだれですか?」


会話が出来るほど高等なロボットなんて出来ていたのか?と疑問符を頭に浮かべながら


「ケンジと言います」


と 一応返してみる。


「ケンジさん はじめまして 私はアオイと言います。」


よくできた会話プログラムだと思う。聞き取った名前を当てはめて自動的に返すのだろう。


「ところで何故サクラダラボはこんなに崩れているのですか?何が起きたのですか?」


「?」


え、周りの状況を加味した上での質問?自分で考えてるのか?と驚きつつもなんとか返事をする


「僕が目覚めるとこうなっていたんだ。そう、ちょうど君が今目覚めて周りの状況がわからないように、僕もわからない。」


なんてことだ、このロボットはまるで意識があるように振る舞う。

僕は驚きつつもいくつかの質問に答えていった。答えたといってもほとんどのことは僕もわからない事だったのだが。

 彼女は、ロボットに性別があればだが、見た目が女性だから便宜上こういうが この研究所サクラダラボで人工知能の研究の為に創られたロボットであることがわかった。

赤ちゃんのような状態で創られ、人間と同じ時間をかけて成長してきた人工知能だということだった。現実世界のフィードバックが 人間と同じ知能を創る為には必要だと考えられたためこのような現実の身体を与えられているそうだ。正直根っからの文系の僕には説明してくれた事のほとんどが理解不能だったのだが、まあ大体そういうことらしい。

千切れた右腕を意識していないとまるで本物の人間と会話をしているようだな と考えていると僕の視線の先をみてまるで今気づいたように


「右腕 とれてる。」


と他人事のようにつぶやいた。


 僕は正直困っていた。興味本位で電源をいれたのはいいものの、このままこのロボットをここに置き去りにしていっていいものかどうか判断できなかった。


「外の世界を見てみたいのです。一緒に行っては駄目ですか?」


僕の考えを見透かすように彼女は聞いてきた。

 とりあえず断る理由もないので僕は了解した。

 奇妙な連れが 僕に出来た。



「外に出る前にいくつか持っていきたい物があるのですが。」


ロボットの身支度。まさか着替えとか言うんじゃないだろうな とか訝しんでいると


「電池です。ケンジさんが私にセットしてくれた物と同じ物がまだいくつかこの部屋にあるはずなんですが。」


そこで初めて僕がはめ込んだ部品が電池だったのだとわかった。電池は彼女が埋もれていた場所の近くに小さなトランクに入ってあった。中を開けてみると12個の窪みがありそのうち11個に僕が彼女のうなじにはめ込んだのと同じ部品が入っていた。空いている1個の空間は今彼女のうなじにはまっている物だろう。彼女の上に壁が崩れてきた時に電池が外れ、動けなくなっていたのだろうと考えた。

 彼女は残っている左腕でその電池が入った小さなトランクを持つと


「お待たせしました。」


とだけ言い、僕の後ろに立った。








すみません。

この小説 まだ書き続けてもいいもんでしょうか?

書きたいから書いてますが、僕の語りかけは誰かに届くのでしょうか?

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