弁当屋の主人と娘③(一日目)
だが、どうしてもパルテノス王国が通行を許可しないのである。通行ができないのなら引き渡しも求めたが、それも拒否された。大罪人がいるというのに、それを拒否するなんて、あの国の考えはいまいち理解できない。
「ご苦労だった。疲れただろう。兵士達にはしばらくの間、休暇をとらせてやってくれ」
「分かった……いや、分かりました」
イメールはまだロウマに対して敬語を使うのに慣れてないらしく、たまに昔の口調になってしまう時があった。
「無理に使わなくてもいいぞ。昔の様に私を呼び捨てにしてもいいんだ」
「そうはいっても元帥は全軍を統率している方ですから。それにシャニス将軍の目がどこで光っているか分かりませんから」
「またあいつか……あいつも困ったものだな。みんなを威圧していては話にならない。今度私から言い聞かせておこう」
「できればそうしてください。あの人といると息がつまりそうなんですよ」
痛い一言である。本人が耳にしたら激怒するだろうが、本人のためにも言わないのが賢明だろう。
イメールは軍議が行われる幕舎へと先に向かった。
ロウマも片づけを終えると移動した。到着すると、すでに主要な騎士達は集結していた。
「キール左宰相、まだ集まっていない騎士は他にいるか?」
「あとはシャニス将軍とゴルドー将軍だけです」
「シャニスは報告書を早馬に持たせている。ゴルドーはグレイスの店だ。二人とも直に来るはずだ」
その通りだった。すぐにシャニスは姿を見せた。走って来たのか、額にはうっすらと汗の玉が浮き出ていた。彼はそれをぬぐうと自分の席に着いた。
ゴルドーはシャニスに遅れること間もなくして現れた。なぜか顔を真っ赤に腫らしており、見る者を不審がらせた。
「どうした、その姿は?」
思い切ってシャニスが尋ねた。
「みんな、あの店に近寄ってはいけない。教育の手本にもならないおっさんと外面だけがいい娘が店を営業してやがる」
「おい、会話が成立してないぞ。僕の質問に答えろ」
「きっとあの店の食い物には、人を操る薬品が混入されているに違いない。そう言えばさっき食べてしまったんだ。シャニス、胃を洗浄する薬をくれ」
「いい加減にしろ、僕の話を聞け!なんなんだ、お前はさっきから?病気か?」
キール達もさすがにゴルドーが遠征の疲れでおかしくなったのか、と憐みの視線を投げかけていた。
ロウマもゴルドーが可愛そうになってきたので、とりあえず落ち着かせることにした。
「ゴルドー、グレイスとはゆっくり話し合って解決していこう。まずは落ち着いて座れ」
「わ、分かったよ」
ゴルドーが少しだけ落ち着きを取り戻したので軍議を始めることにした。議題に上がったのは、ロウマがラジム二世と話し合ったもう一人の元帥についてだった。
「確かに元帥がおられない時、だれか代わりに指揮をとる人物が必要ですからね。ところで、元帥は誰か候補でも推薦なされたのですか?」
シャニスは食い入るようにロウマを見つめていたが、ロウマ何も答えなかった。
ロウマは、シャニスの腹は読めていた。自分を当然、推薦したと思っているのだろう。彼は昔からこんな性格である。ロウマを補佐するのは自分だという魂胆が丸見えである。
自分がロバートを推薦したと言ったら、納得するだろうか。おそらくしてくれるだろう。今まで自分の考えに対して、反対を唱えたことは、一度も無かったので、おそらく今回も大丈夫なはずである。
「実はなそれについてだが……」
ロウマが口を出そうとした時だった。
「当然私ですよね、師匠」
シャリ―が割って入った。
途端に周りが笑いの渦に包まれた。
「姉貴、それは無いよ」
「お姉ちゃん、いっそのことレイラ姉さんに診察してもらったら。親族だから代金は取らないはずだよ」
また一段と笑いが沸き起こった。今度はロウマまで笑ってしまった。笑ってないのは、シャリ―一人だけだった。
「なんでよ、私は本気で言っているのよ。師匠、私を推薦……」
「断じてない!」
「そんな~~~~~~~~~」
シャリ―は愕然として果てた。魂が抜けてしまい抜け殻のようだが、これは放っておいた方がいいかもしれなかった。逆に議論が進みそうである。




