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火を噴く悪魔⑤(一日目)

 みんな具足を脱いだり、馬を牧草地に放してやったりしていた。


 何もしない時、馬は厩舎で養わずに自由にしておくのがロウマ達のやり方だった。


 ロウマは向かうべき人物の所に向かった。


 ロバートは岩の上に座って一人で剣を研いでいた。剣は今まで使用していたものと違っており、両刃のものではなかった。


 派手な色も飾りも無い見た目から地味な片刃の剣である。どうやら自分の愛剣リオン=ルワと同じくただ斬るための剣のようである。


「いい業物わざものだな、ロバート」


 声をかけられた途端、ロバートがはっとして振り向いた。かなり集中していたようだ。自分が暗殺者だったら、ロバートは間違いなくあの世だろう。


「お前のリオン=ルワには負けるよ。それにこれは業物でもなんでもないよ。ただの無銘だ」


「しかし、斬れ味はよさそうだ」


「そんなことより俺に何か用か、ロウマ?おっと、今は元帥だったな。ちゃんとしないとシャニス将軍がうるさいからな」


「シャニスは気にするな。規律にうるさい性格なんだ」


「でも、規律だから守りますよ」


 ロバートはすっかり敬語になっていた。


 ロウマからすれば気味が悪い事だが、仕方が無いので慣れることにした。


「なら、好きにしろ」


 ロバートの横にある岩に腰かけたロウマは、彼の顔に見入った。


 ロバートの顔には斜めに傷が入っていた。先の反乱軍との対戦での名誉の負傷だった。傷は騎士の誇りだが、ロバートはどうも違うようだ。


 逆に誇りを傷つけられたみたいである。なんといっても一緒にいた執事のピルトンを殺されたのだから。


 ロウマはピルトンのことを覚えていた。利き手が左手だったのも、照れる時必ず指で頬をかく癖も記憶していた。


 戦死した者のことは一人一人記憶している。彼らだってまだ生きたかったに違いない。


 しかし、懸命に戦ってくれた。


 それを忘れてはいけない。だから自分は一人一人の名前を記憶していく。これからもそれを怠らないでおこう。


「元帥、俺の顔をじろじろ見ないでください。気持ち悪いですよ」


 ロバートはすでに、さっきの約束を実行に移していた。


「すまない。ところで傷はうずくか?」


「もう大丈夫です。すっかりよくなりました。そんなことより、俺をこんな目に遭わせた挙句の果てに、ピルトンを殺したハシュクという奴はまだ捕まってないのですか?」


「まだだ。現在、ゴルドーとイメールの二人が逃げた残党を追っている最中だが、奴を討ったという情報は来ていない」


「そうですか。できれば速報が来てほしいですね」


「まったくだ。話は変わるが、聞いてくれるか?」


「なんでしょうか?」


「先ほど陛下に呼び出されて、もう一人の元帥を立てるように要請された」


「副元帥と解釈すればよろしいでしょうか?」


「そんなところだ」


「元帥が立てた候補は誰でしょうか?」


 ロウマは指を突き出した。突き出された先にいる人物は、たった一人しかおらず、その人物は目を見開いて驚愕の色を隠せないでいた。


 相手が信じていないようなので、ロウマは再度指を突き付けた。


「お前だ、ロバート」


「俺ですか?」


「北方で一緒に過ごしていた時に感じていたのだが、お前のような奴が側近にいてくれたら、どれほど頼もしいだろうと思っていた。今回の陛下の提案は、渡りに船だ。だから推薦する」


「でも俺は自信が……」


「嫌とは言わせないぞ、ロバート。絶対に受けてもらうからな」


 自分はとんでもないことに巻き込まれてしまったようである。何事も起きなければいいのだが。


 ロバートは自分の胸を押さえた。

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