火を噴く悪魔④(一日目)
ラジム二世との対談を終えたロウマだった。まるで針のむしろに座っているような気分だった。一時間も話していなかったはずなのに、まるで一日中王宮に留まっているかのような気分である。
やはりあの王だけは未だに慣れなかった。どうやったら慣れることができるのだろうか。
いや、慣れるはずがない。彼自身がそうさせているのである。そういう気迫を放つことにより、君臣としての別をはっきりさせるのだ。
恐ろしい。
考えただけでも鳥肌が立ったロウマだった。
首都のダラストを出たロウマは自軍が駐屯している野営地へと馬を走らせた。
やはり落ち着くのは、あの場所だった。あそこが自分の屋敷のように感じてならない。おかしいものである。自分の屋敷でもないのに。
思わず笑みがこぼれてしまった。
「あっ、師匠。見つけました!」
「走れ、ランスロット!」
ろくでもない奴の声が耳に入ったので、ロウマは愛馬のランスロットにむちを打って加速させた。
シャリ―=ハルバートンである。捕まったら間違いなく、色々な意味で痛い目にあう。
「逃げないでくださいよ、師匠!私は師匠に逃げられる理由はありません」
「大いにある!」
「あっ、分かりました。小説に出て来る恋人同士みたいに追いかけっこがしたいのですね。ですが、恥ずかしくて言い出せないので、てそんな嘘を言っているのですね。もう、師匠の恥ずかしがり屋さん!」
やっぱりあいつだけ北方に置いてくればよかったとロウマはつくづく後悔していた。
「じゃじゃ馬女、元帥から離れろ!」
遠くからでも分かるほどの怒号が聞こえたので、ロウマとシャリ―は自分達の愛馬をとめた。
声の主はシャニスだった。
「元帥、ご無事で?」
「助かったぞ、シャニス。たまたまお前が通りかからなかったら、私はあいつに襲われていたよ。まあ今のでも十分襲われていたけどな」
「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、僕はたまたま通りかかったのではありません」
「じゃあ、どうしてそこにいたんだ?」
「元帥のお帰りを……待っていたのです」
言っているシャニスはなぜか、頬を桜色に染めていた。
「元帥、お顔の色が優れないようですが、どうかなさいましたか?」
「気分が悪いんだ。ちょっと横になりたい」
「それは大変です。僕がすぐに医務室まで運んでさしあげます」
やはりこの男は推薦しておかなくて正解だった。十年以上付き合いがあるが、まさかこんな男だったとは思わなかった。自分に対して忠誠心が人一倍あるだけなのかと考えていたが、どうやら違っていたようだ。
これからはなるべく医務室の前を通らないようにしよう。
「すまないが、ナナーを呼んで来てくれないかな、シャニス」
「なぜです?彼女はまだ未熟な腕です。任せておくと不安です」
「私はお前の方が不安になってきた」
「師匠、私を放って話を進めないでください!」
放ったらかしにされていたシャリ―が金切声を上げた。今度はシャリ―に対して感謝したロウマだった。一体自分は何をしているのだろう、と情けなくなった。
「ちょっと変態。医務室なら、弟子の私が連れて行くからあんたはさっさと自分の部署にでも戻りなさい」
「医務室が僕の部署だ。じゃじゃ馬は引っ込んでいろ。敬語を使えと何度言っても聞かないし、上下関係というものが分かってない奴だ」
「あんたは私より年下でしょう!」
「階級は僕の方が上だ。お前は将校で、僕は将軍だ。これからはしっかりと敬語を使え。もう三十回は繰り返したな」
五十回だよ、とロウマは心中笑った。とりあえず、この二人がけんかをしているうちに退散させてもらうことにした。
ロウマはすかさず、愛馬のランスロットにむちを入れて足速にその場を去り、野営地へと入った。
シャニスとシャリ―の二人はロウマが一人で立ち去ったのに気付かずに、まだ口げんかを続けていた。
野営地では調練が終わり帰って来たばかりのようだ。




