火を噴く悪魔③(一日目)
言われてみると彼らは欠点だらけかもしれない、とラジム二世も思った。
「それだけ自信があるなら言えるはずだ。申してみよ」
「陛下が一番分かっておられるはずです」
「お前の口から聞きたい」
「シャニスは軍の統率に関しては優れた才能を持っていますが、一度でも憎んだ人間は絶対に忘れません。これは幼いころからの悪い癖です」
「キールは?」
「キールは私がこの国から逃亡した時、何もせずにうろたえていたと耳にしました。それどころか、政事に関して素人のゴルドーに励まされていたそうです。この事から彼は補佐はできても、トップで仕事をするのは無理です」
「バルボアは?」
ラジム二世はこれを一番聞きたかった。本当は三人の中でロウマの次に据えたかったのは、バルボアだったのである。しかし、当のロウマがあっという間に否定してしまった。
「バルボアが団長に就任してからのライル騎士団の名簿はありますか?」
「ああ。これ、持ってこい」
侍従に命じると、間もなく問題の名簿が持ってこられた。ロウマは名簿を開くとラジム二世にそっと手渡した。
「この中に人名には全て共通点があります。お目を通せば気付かれるはずです」
じっと名簿に目を通したラジム二世だった。時折ロウマに目を移しては、また名簿へと戻っていた。やがて納得がいったのか、名簿を侍従に返した。
「重要な役職に就いている者が全て一族だな」
「その通りです。バルボアは団長就任時から、重要な役職には全て一族の者を就けており、関係無い者は下位の役職にしています。彼と昔から一緒にいるアブホーセンという騎士でさえも下級将校です」
「奴が一族しか大切にできない者だとしたら、正直言って危険だな。しかし、余が用意した候補はみんな欠点だらけじゃないか」
「彼らも人間ですから欠点はあるはずです」
「そんなのは甘えた性根の奴が言う戯言だ。ロウマ、お前も奴らと一緒で欠点まみれの人間か?」
ラジム二世は自分が欠点だらけの人間だと人一倍分かっているである。それなのに聞いてくるとは残酷である。ロウマは心中で溜息をついた。
「ところで、お前こそ推薦する奴はいるのか?」
「一応いますが、了承を得られるかどうか分かりません」
「いちいちもったいぶった言い方をするな。いいから申せ」
「ロバート=ハルバートンです」
「お前が連れて来た男か?」
顎鬚に手を伸ばしたラジム二世は、しばらくさわっていた。彼が考える時によくやる癖だった。
ロウマも返答に窮していた。予想通りラジム二世はあまりよい態度を示さなかった。自分はこの国に来て間もない新参者のロバートを指名したのである。
しかもロバートは北方の異民族の男である。それを重職に就けるとなると難色を示すはずである。
実は以前、ロバートの姉ライナのオルバス騎士団団長就任のことで問題があった。反乱軍が暴れ回っていた時は騒ぎ立てる者はいなかったが反乱終結後に、貴族達の間でライナの団長就任をめぐってひと悶着が起きた。
異民族出身の者を騎士団の団長という重職に就任させてよいのかということだった。
くだらないと言ってしまえばそれまでだが、建前を気にするのが名門の貴族達だった。
多くの騎士や貴族達が議論をしたが決着が着かなかった。一番の痛手はなんの功績も無い新参のライナを急に団長職に就かせた事だった。これにはロウマも追及を受けた。
しかしあの状況でライナ以外に対処する事ができる奴が他にいただろうか。答えは否である。
結局、判断は国王のラジム二世に委ねられた。
ラジム二世は、ライナを引き続きオルバス騎士団の団長にした。
「あの時は冷や冷やしたぞ」
「お手をわずらわせて申し訳ありませんでした」
「まったくだ。もう二度とあんなくだらない案件を持ってくるなよ」
「気を付けます」
「そんなことより、問題はロバートだ。あいつも功績が無かったな。この間の反乱討伐の際も敵の首を一人も取って来なかったからな」
「おっしゃる通りです。それどころか、敵にけがを負わされて戦線を離脱しました」
これでは貴族どころか仲間の騎士を納得させることすら無理だろう。なんとかすることはできないだろうか。
「まあいい。今日はこれぐらいにしよう。もう一人の元帥については、また議論することにしよう」
「それではこれにて」
ロウマは一礼するとラジム二世に別れを告げた。




