疑惑④(二日目)
シャニスはブランカの屋敷から立ち去った。
***
ロウマは幕舎に泊まることになった。本日起きた事件を書類にまとめておくことにした。
バトラーとルルーの二人には子がいないため、騎士団はそれぞれの副団長に引き継ぎという形になる。
だが、うまくいけば、このまま彼らの領地を国が吸収という話にに持っていけるかもしれない。
頭を失った以上、彼らの統率は脆い。
一つでも吸収されれば、残りの騎士団は続いて自ら吸収されに行く。
あともう一息かもしれない。
ロウマは、ほくそ笑んだ。
瞬間だった。
口を押えて、せき込んだ。口の中を鉄の味が支配した。
口の中のものを手に落とすと、液体は赤黒かった。
「薬は飲んでいるはずなのに……」
抑えているはずなのに、なぜかまた出てきた。もしかしたら薬の効果が弱まったのかもしれない。
これは、いよいよ危ないかもしれない。
仮眠でもとろう。
ロウマは立ち上がった。
「ロウマ、起きてる?」
ナナーが幕舎に入って来た。
ロウマは口にわずかに残った血を手でぬぐい、手中の地を衣服でふき取った。
「何をしていたの?」
入って来たナナーは盆を持っていた。
盆にはスープやパンなどが載っていた。どうやら夜食を持って来てくれたようである。
「もしかして、私にか?」
「当たり前でしょう。ここにはあなた以外誰もいないはずだけど。まさか、シャリ―もいるの?」
「いや、今日はライナに付き添うようだ」
「あっ……そうだったわね」
ナナーもライナの身に何が起きたのか耳にしていた。
ナナーと同じ職場にいるハルバートン家の四女レイラも、今日は彼女に付き添っている。
「一体、誰があんなことをしたのかしら?」
「分からない。現在、調査中だ。犯人は必ず捕まえてみせる」
「絶対よ。下手をすると、あなたも狙われるかもしれないのよ」
「私が?私は大丈夫だ」
「分からないわよ。狙われたのは騎士団の団長でしょう。だったら、元帥のあなただって狙われないとは限らないでしょう」
「そうだな……気を付けよう」
「気を付けようじゃなくて、なるべく外を出歩かないようにするの。そうだ!」
何を思いついたのか、ナナーは急に手と手を打って、閃いた時の仕草をしてみせた。
嫌な予感がロウマの頭の中をかけめぐった。どうせろくなことを考えないのだろう。
「今日から帰りは五時ね。ついでに私が迎えに来るから」
「無理。今日から、残業あるから」
「そんなの全部誰かにやらせればいいでしょう。せっかく副元帥をロバートに任命したのでしょう」
「まだ任命されていない。推薦しただけだ」
「でも、他に推薦する人物がいないのだから、決まったも同然でしょう。折角だから彼に元帥の仕事をやらせてみてよ」
「うーん……」
ナナーの言うことも一理あるかもしれない。このままロバートの副元帥任命を待っても騎士達は、きっと彼を副元帥として認めないだろう。
ならばいっそのこと自分の代わりに仕事をやらせてみるのも悪くないかもしれない。
ふと、さっきから接触しているやわらかいものに気付いた。
ナナーの胸だった。彼女の胸はアリスやシャリ―よりも大きい。ロウマは思わず目を見張ってしまうほどだが、なるべく見ないように心がけていた。
その胸がさっきから腕に接触をしている。
なるべく理性を保つようにしているロウマだったが、いつ壊れるか分からない。
「どうかしたの、ロウマ?」
「少し暑いな。放れてくれないか」
「あなたが暑苦しい真っ黒な服を着ているからでしょう。脱げばいいじゃない」
「これは私の私服だ。お前が抱きついているから暑苦しいんだ」
「そう……ロウマ、いいもの作ったのだけど見る?」
「いいもの?」
ナナーはいつも持っている治療用のかばんから、何かを取り出していた。




