疑惑②(二日目)
犯人は明らかに内部にいる。
ロウマは確信していた。
それも自分が知っている人物であることは間違いない。
ロウマは厩舎に向かった。厩舎から事件が起きた幕舎を見ることができる。
「せめてお前がしゃべることができたらな」
ロウマは繋がれている自分の愛馬のランスロットに向かって愚痴をこぼした。
しかし、ランスロットは口をもごもご動かしているだけで、何も答えなかった。
馬鹿なことを聞いたものだ。馬に聞いたところでなんの得になるのだろうか。
ロウマは厩舎を出ようとした。
「師匠」
目の前にシャリ―が立っていた。目を赤く腫らしているところから、かなり泣いていたことが分かる。
「ライナの様子はどうだ?」
「まだ意識が戻りません。レイラ姉さんの話によると、もしかしたらずっと目を覚まさないかもしれないと」
「そうか……」
ロウマはライナの姿が脳裏に浮かんだ。ハルバートン家では一番威厳のある人物だった。
彼女と一緒に飲んだ茶の味が今でも忘れられない。
ロウマはシャリ―の肩にそっと手を置いた。
シャリ―は肩に軽い痛みが走ったが、それがロウマの内なる怒りだと分かった。
「シャリ―、犯人は必ず見つける。そして必ず断罪する」
「師匠……」
「だからお前もいつものお前になれよ」
「はい」
ロウマとシャリ―は胸に決意を秘めると、厩舎をあとにした。
***
「これは尋問ではない。簡単な聞き取りだと思え」
「そうかな。私からしてみれば、尋問にしか思えないがな。キヒヒヒヒヒ」
気味の悪い笑い声を上げながら、ブランカはシャニスと対峙していた。
シャニスはブランカをにらみ付けながら、羊皮紙にペンをはしらせていた。
場所はブランカの屋敷だった。本来なら、騎士が貴族の屋敷に赴くことはまず皆無に等しい。
しかし、今回シャニスはブランカの聞き取りのため、彼の屋敷へと赴いたのである。
兵士達に聞き取りを行っていると、三人が襲われる少し前にブランカが三人と会っていたことが判明したのである。
「これから尋ねることには一句たりとも虚偽を申告するなよ」
「分かった」
「三人と会ったのは間違いないか?」
「そうだ」
「三人と何を話していた?」
「それは絶対に答えなければいけないことか?」
風を切る音がした。
ブランカの目の前に短刀が突き付けられた。
相変わらず切れやすい男である、とブランカは心中で嘲笑した。
「答えろ。それから僕の後ろにいる奴、立ち向かって来ても無駄だぞ。お前が返り討ちにあうだけだ」
シャニスの後ろに控えている男、いや、少年はかけている剣から手を放した。
「やめろ。お前が敵う相手じゃない。退け」
ブランカが一声かけると、少年は一礼して部屋から姿を消した。
「失礼した。あの子は先日、雇ったばかりで、礼儀をわきまえてないんだ。だから許してくれないかな」
「いいから、早く答えろ」
「今後の人事についてだよ。本来、あいつらの意見なんて聞く必要は無いのだが、一応聞いておけと陛下がおっしゃっていたので、聞いていただけだ」
「三人はなんて言っていた?」
「有名無実の官職だけはやめてほしい、と言っていたよ」
「それでお前の回答は?」
「考えておく、だよ。私が言う事はこれで全てだ。キヒヒヒヒヒ」
シャニスは全ての内容を羊皮紙に書き留めた。
風が吹いて窓を打ち付けている。
どうやら今日の風は一段と強いようである。それになんだか人の視線を感じる。なんだかこの部屋にいるのは、あまり良くないようである。
退散した方がいいかもしれない。
「僕はもう行く。また何かあったら来る」
「茶でも飲んでいかないか?さっきの子が淹れる茶はうまいぞ」
「結構」
「そう……それではごきげんよう」
シャニスは部屋から出て行った。ドアを開ける時、異様な音がした。さっき少年が出た時はしなかったのに、なぜ今したのだろうか。