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惨劇②(二日目)

 アリスはそのまま、床に転がった。


「何するのよ!」


「あんたなんてもう用済みよ。消えなさい。さあ、師匠。私が最高の耳かきをお届けいたします。私の膝で永遠の眠りについてください」


「永遠だと明らかに死んでいるよな?私に早く死ねと言っているのか?」


「違いますよ。それだけ心地よいという意味です。まあ、論より証拠。寝てみれば分かります」


 疑いが半分だったが、とりあえずロウマはシャリ―の膝に自分の頭を乗っけてみた。


 硬い。


 最初の感想はそれだった。


 シャリ―の膝は硬すぎる。筋肉質なのである。


「お前は失格だ。さっきまでの眠気が一気に吹き飛んだ」


「えっ?」


「出直してこい」


「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~」


 シャリ―の絶叫が屋敷中にこだました。


「やかましい!」


「ぐほっ!」


 起き上がったロウマはシャリ―に向けて鉄拳を炸裂させた。拳がシャリ―の頬にめり込んだ。女に鉄拳とは本来前代未聞だが、ロウマはなぜかシャリ―だけは別格だった。


「どこがですか、師匠?どこがまずかったのですか?」


 シャリ―は拳を受けても平気らしく起き上がると、ロウマに疑問点を投げかけていた。


「お前の膝は硬すぎるのだよ」


「連日の師匠の熱い特訓があるからですよ。おかげで身も心もはがね以上に硬くなってしまったのです」


「そのまま像のように動かなくなってしまえばいいのに。そうしたら、私が海にでも捨ててあげるわ」


 そう言ったのはアリスだった。


 彼女が言うやシャリ―は、素早くにらみつけた。


「なんですって?アリスもう一回言ってみなさいよ!」


「嫌です。あなたに言うことは何もありません。なんだかくだらないことで時間を割いてしまいました。さあ、ロウマ様。続きをしますので、横になってください」


 そのロウマも興が冷めてしまった。今日はもう休みたくなった。しかし、この場を脱出するにはどうすればよいのだろうか。考えれば考えるほど、頭が痛くなるものである。


 悩んでいると、がちゃりとドアが開いた。


 ナナーだった。今日は薬のことでレイラに尋ねることがあるので、帰りが遅くなると聞いていたが、おかげで助かった。


 入って来たナナーは居間での光景を見るなり、


「随分と楽しそうなことをしていたのね、ロウマ」


 と言った。自分の名前を呼ぶのだけが、なぜか冷たい。その場に気まずい空気が流れた。こんなことなら、さっきアリスを押しのけてでも逃げればよかった。


 今日は本当に厄日である。


「悪いけど、私は疲れているから先に休ませてもらうわ。明日も早いからね」


 ナナー先ほど開けたドアから、また出て行った。どうにか修羅場は免れたが、なんだかどっと疲れた。


「師匠、お気持察します。まったく、あいつは医者のくせに師匠の体を気遣うこともしないなんて最低です」


「私は別の意味で疲れているんだ」


「でも、大丈夫。私がずっと側にいますので、安心してお休みになってください」


「シャリ―、そんなことより喉がかわいてない?お茶でもどうかしら?」


 急にアリスが、たった今淹れたばかりらしき紅茶を盆に載せて差し出した。カップからは、まだ湯気がたっていた。


「あら、気が利くわね。遠慮無くいただくわ」


 カップを受け取ったシャリ―は、まずはぐびりと一杯。


 そして、


 ぱたりと床に倒れた。


 シャリ―は、すやすやと安らかな寝息を立てていた。


「アリス、それに眠り薬を仕込んだだろう」


「はい。先日、街で買ってきたのです。邪魔な奴には、いつでも眠ってもらうためです。さあ、ロウマ様。今夜は私とゆっくりしましょう」


 結局、こうなるのである。観念したロウマは、アリスに手を取られて、自室へと向かった。

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