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第三章 惨劇①(二日目)

 ごり、ごり、ごり。


 ごり、ごり、ごり。


 さっきから、耳の中を耳かきでほじられるので、実に気持ちよかった。思わず寝入ってしまいそうだった。


 というより、本当にロウマは目をつむって眠ろうとしていた。


「あ、駄目ですよ、ロウマ様。寝返りでも打たれたらけがをしかねないので、絶対に寝ないでください」


「そう言われてもお前の耳かきは実に気持ちがよいんだ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえるのは、使用人冥利みょうりに尽きます。じゃんじゃんやっていこうと思います」


「無茶はするなよ」


「はい」


 会話が途切れると再びさっきのいびつな音がロウマの耳に響いた。ここしばらく耳の掃除を怠っていたので、おそらく大きな耳垢が入っているのだろう。


 今日はたっぷりアリスに掃除してもらうことにした。アリスの耳かきは今に始まったことではなく、使用人になった当初からやってもらっていた。


 初めは躊躇ちゅうちょしていたロウマだったが、慣れれば不思議なものでいつしかアリスに耳かきをしてもらうのが習慣になっていた。


 眠いのはアリスの膝が柔らかいせいだった。おそらくこのひざの柔らかさは、誰にも真似できないものだろう。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~」


 その声でまたうるさいのがやって来たと悟ったロウマは、目を開けるのも面倒なので、そのまま寝たふりをすることにした。


「いいのですか、ロウマ様?」


 アリスが小声で話しかけた。


「いいんだよ。たまにわ私を静かにさせてくれ」


「分かりました。それでは続けます」


 アリスは再び耳かきに戻ろうとしたが、彼女の腕をシャリ―がつかんだ。


「ちょっと危ないのだけど」


「待ちなさい、アリス。その役割を譲る気持ちは……」


「あるわけ無いわ。この仕事は私のものよ。じゃじゃ馬はさっさと厩舎きゅうしゃに行きなさい」


「あんた最近性格悪くなったわね。調子に乗っているんじゃないわよ」


「そっちこそ、弟子って言っているけど『自称』じゃない。ロウマ様も迷惑がっているから、早くやめたら」


 またこの状態になるのか。この場にナナーがいないからまだ力が半減しているが、三人になったら本当にこの場が修羅場どころか戦場と化す。もう逃げたかったが、アリスが逃がさないように体を押さえていた。


 彼女は思った以上に力が強かった。


「こうなったら、どっちが耳かきが上手なのか師匠に決めてもらうわ。それでどう?」


「へえ、あなたにしては面白い提案ね。たまにわ頭を使うのね。乗ったわ。ロウマ様、いいですよね」


「……好きにしてくれ」


 もうどうにでもなれ。なんで自分は平穏な日々を過ごせないのだ。おかげで最近痩せたような気がするし、唯一屋敷で相談ができる弟のノーチラスも去っていった。


 どうやら今の屋敷から少し離れたところに、古い屋敷を買い取ってそこに住むことにしたようである。彼が住みづらい気持も分からないこともないが、やっぱり兄の相談相手としていてほしかった。


 ロウマは鼻をすすった。


「どうしました、ロウマ様?風邪ですか?」


「違う」


 そして、勝負が始まった。


 まずはアリスからである。アリスの耳かきはさすが五年もやってくれているので、自分のツボを心得ていた。すぐに目をつむって寝入ってしまいそうだった。よだれが出そうだったが、そんな姿を見せるわけにはいかなかったので、ロウマは我慢していた。


「どうです、ロウマ様。この位ですか?」


「もうちょっと強くしていい」


「痛くないですか?」


「大丈夫だ」


「はい、分かりました」


 こくりと頷いたアリスは、さらに耳かきを器用に回した。


 その様子がまったく面白くないシャリ―は、ロウマの頬をつねっていた。


「痛いからやめろ、シャリ―」


「すいません。なんか見てるのなんて、ちっとも面白くもないのでとりあえずつねってみることにしました」


「分かった。アリス、交代しろ」


 交代という単語が出た途端、シャリ―の表情は一変。アリスを足で押しのけた。

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