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弁当屋の主人と娘④(一日目)

「私が推薦したのはロバート=ハルバートンだ」


 聞いた誰もが自分の耳を疑った。


 ただし、それはロバートを除いてだった。彼は最初から自分を選ぶと分かっていた。ロウマからすでに話は聞いていたので驚くことでは無かった。


 しかし、場にいる者は納得するだろうか。自分は新参者であるし、功績も無い。それなのにもう一人の元帥に任命するなんて。


「元帥、お待ちください」


 キールだった。彼がみんなの疑問を代表してやることにした。


「ロバートはここに来て日が浅く、大した功績がありません。ましてやレストリウス王国内でもその名を知っているのはごくわずかの人間だけです。今回の人事は軍を預かる人物を決めるのです。慎重に決めてください」


「俺も同感だ。ロバートはまだ将校で将軍にすら昇格していない。それをいきなり出世させるというのもおかしいぞ」


 ゴルドーも横から口を出した。彼にしては珍しいことだった。


 すると呼応するようにディナが出てきた。


「恐れながら、私にも言わせてください。ロバートは少ない人数でしたら、指揮するのは得意です。それは鍛え上げたあなたがよく知っているはずです。ですが、大人数の指揮はまだ未経験です。ここは思いとどまってください」


 みんな言いたい放題だな、とロバートは苦笑した。さすがにいい気持はしなかったので、言い返してやろうかと思ったが、それを見たロウマが手で制した。


「待て、お前達。ロバートはお前達が思っているほど、愚かじゃない。北方から私を連れ戻してくれたり、ナナーやアリスに対して冷たい態度をとっていた私を元の道に戻してくれたりもした。これほどの人物はいない」


「ちょっと待ってください。それはあなたの私的な評価でしょう。それと今回の人事の何が関係あるのですか?」


 さすがのキールもロウマのわけの分からない返答には怒ってしまった。仮面を付けているので分からないが、声からかなり怒っていた。シャニスもゴルドーもこんなに怒ったキールを見るのは久し振りだった。


「とにかくもう決めたことだ。いちいち口出しするなよ。シャニス、異論は無いな?」


「……元帥が言うことでしたら従います」


 シャニスは、首をゆっくりと縦に振った。


 その表情からは何も窺うことはできなかった。


 結局、ロウマに押し切られる形でもう一人の元帥を決める議題は終わりとなった。


 次はキールの議題になった。


「これは以前からよく出ていたことだったのだが、実は十五騎士団の勢力を削ろうと思うのだ」


「なんだって!それは正気かよ?」


 ゴルドーが椅子をがたんと後ろに倒してしまった。


 周囲の騎士達も驚きも隠せないでいた。


 ロウマは黙って耳を傾けていた。


「みんなも知っているだろうが、十五騎士団というのはこのレストリウス王国の建国当初からある地方軍だ。彼らには統治している土地の財、民等を預かる権限が与えらた」


 正確に言うといつの間にか、自分達で握っていたのだ。ロウマは心中で唱えた。建国当初、十五騎士団の土地には中央から新しい官吏を派遣していた。


 だが、実権を握っているのは、その土地でも有力な連中である騎士達だった。


 彼らは結局、中央から派遣された官吏をないがしろにした挙句の果てに、最後は追い返す始末だった。


 何回か注意を促したり、別の管理を派遣しても一向に改善する気配が無いため、いつの間にか十五の土地ではそれぞれ有力な騎士達が統治をするようになった。

「どうしてまたそんな議論が出たのだ?」


 ロウマが尋ねた。


 キールは溜息をつくと、


「ブランカだよ。あの男は以前からどうしても騎士達の力を制限したかったらしいからな、手始めに地方軍である十五騎士団の力を削ごうという腹だよ」


「随分とお目でたい考えだな。今まで騎士団の力を削ごうとした貴族が何人痛い目に遭わされたと思うんだよ」


 ゴルドーはやってられないという面持ちで、椅子を元に戻すと座り直した。


「ちなみに、すでに十五騎士団はその話し合いのために呼び出されたようだ。近い騎士団だったら明日にでも到着するよ」


「えっ、本気マジ?」


「本気だよ、ゴルドー」


 キールは真顔で答えた。もちろんいつも通り仮面で素顔は隠れているので、真顔かどうか判別することは不可能である。


 どうやらブランカは本気で改革を行うつもりのようである。ブランカは若い時から、やる時はやるという断固たるたる意志を持った人物だった。


 しかし、今度はうまくいくだろうか。


 考えていたロウマは、見守るのも悪くはないと思った。とにかく今の自分に大事なのはロバートを副元帥に任命することだ。

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