表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

緑色の少女

作者: ぱとら

~卓也視点~


夢を見た。 緑の夢を。


十日ほど前からだろうか。 このところ毎日だ。 目を開けると草原がひろがっていた。 生い茂る草の真ん中に少女が立っている。


草と同じ色の少女。


彼女は優しい笑みを浮かべ緑色の涙を流す。


僕が「どうしたの?」とたずねると


嗚咽を漏らしながら、彼女は「死にたくはない」


と言った


彼女に近寄ろうとしたが、足に草が絡みついて、僕 はうまく立ちあがれない。


緑色の少女は悲しそうな顔をした。


僕の心を表すように緑色の草原は徐々に闇に包まれ ていく。


そして完全に真っ暗になると、僕は夢から覚めた。


僕はベットの上で汗だくになっていた。


額に手をあてると、生ぬるい汗で手がびしゃびしゃ になった。


彼女はいったい誰なんだろうか。


僕は彼女の悲しそうな顔を忘れられず、奥歯を噛み 締めた。


夢をはじめて見てから一ヶ月ほどたった。


いつも同じ夢ばかりで少しおかしくなりそうだった が、その日見た夢はいつもと何かが違っていた。


まずは緑色の彼女。 いつもなら泣いているはずだが、その日は笑ってい た。


次に足。 いつもなら雑草が絡みついているはずだが、その日 は絡みついておらず、自由に動けた。


最後に風景。 いつもなら草原のはずだが、今日は緑色の人間の死 骸が転がっている廃墟のような場所にいた。


「……やっと気がついたね」


最初に口を開いたのは彼女だった。


「きみはだれ?」


返事はない。 彼女の緑色の瞳は悲しそうに、じっ、と僕を見つめ ていた。 僕はとっさに目をそらす。 緑色の眼が怖かったのだ。


しばしの沈黙がながれる。 そして、なにかを思い出したかのように彼女がポツ リとつぶやいた。 「緑さんがくる」 彼女は早々と床に転がる緑色の死体 らしきもの の影に隠れる。 足を抱えて座る彼女は、ガチガチとふるえていた。 なにかに怯えているようだった。


後ろでなにか物音がした。 なにかがいる、僕はそう感じた。


「ひっ…、やめてぇ、こっちにこないで」 彼女は涙をながし、『なにか』に命乞いをしていた 。 僕の不安はますます大きくなる。


はっ、はっ、はっ、はっ


身構える僕の耳元で息づかいが聞こえた。 周りを見渡すが誰もいない。 まだ聞こえる。


はっ、はっ、はっ、はっ


鼻息はだんだん大きくなっていく。


はっ、はっ、はっ、はっ


「もうやめてぇぇえ!」


緑色の少女が奇声をあげた。


それを合図に僕は、彼女の腕をつかみ走りだす。


後ろから『なにか』がおってくる気配がした。 天井を這いながらおってくる『なにか』は、彼女と 同じ緑色の肌をしていたが、彼女とはまったく異質 なもののように感じられた。


緑色の少女には人間らしさがあるが、『なにか』に は全くそれが感じられない。


廃墟の道は複雑にいりくんでいた。 しばらくすると行き止まりにぶつかる。


「くそ、だめだ」 僕は舌打ちをして、道をふさぐ壁を蹴った。


『なにか』は、すぐそこまできている。


周りを見渡し考える。


やつから逃げられるいい方法はないか、血眼になっ て探した。


「いや!」


緑色の少女の声があたりに響いた。


『なにか』は天井から僕らを見下ろし笑っていた。


**************************** ~明美視点~


「ねぇ、卓也。私達って付き合ってるんだよね。」


「……あたりまえだろ、今さらなにいってんだよ」


「じゃあさ、帰えれたら結婚しようよ」


「ああ、いいさ。結婚でも離婚でもなんでもしてや るよ。」


「離婚しちゃダメじゃん」


私達は化け物から隠れていた。


怪物が住んでいると噂の廃墟に軽い気持ちでいった のがいけなかった。


「卓也?」


卓也は眠っていた。


揺さぶっても起きない。


一人になった。


顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、死にたくない、 とつぶやき続けた。


いつ緑さんがくるかわからない。


不安で不安でしかたなかった。


涙が枯れた頃、卓也が目を覚ました。


このまま目を覚まさなかったらどうしようと不安に なっていたので、ほっとした。


「………やっと気づいたね」


「きみはだれ?」


キミハダレ。


彼は記憶を失っているようだった。


**************************** ~卓也視点~


逃げ場がない!


『なにか』は徐々に距離をつめてくる。


「緑色の少女!僕がこいつをひきつける! その間に逃げろ!」


緑色の少女は地獄を見たような目で僕をみる。


「緑色……?なにいってるの?


緑色なのは卓也じゃない。」


意味がわからなかった。


「なにいってんだ、こんなときに!」


「本当だよ。卓也、自分の目が緑色だから周りが緑 色に見えるだけ。」


***************************** ~明美視点~


「うわ、雰囲気あるなぁ」


卓也、佐和子、奏太、私の四人で近所にある錆びれ た屋敷にきていた。


洋風の屋敷で、その荒れ具合はホラー映画の舞台に もってこいの雰囲気を醸し出していた。


窓や壁がひび割れ、庭は草がのび放題だ。


屋敷を見上げる奏太は、ごくり、と唾をのんだ。


「なによ、怖じ気づいたの?」


弱腰の奏太をみて、佐和子がいたずらそうな笑みを 浮かべる。


「ちがうわい!」


「奏太がどうしてもって言うなら、帰ってやっても いいんだぜ?」


奏太の肩を、卓也がたたく。


「だれが言うか!」


「卓也、もしかして怖いの?」


私は冗談のつもりだった。


しかし、顔を真っ赤にして口ごもる卓也を見る限り 、どうやら図星のようだ。 「いや、なんか嫌な予感がすんだよ。 怖いとかじゃなくて!」


***************************** ~佐和子視点~


死にたくない死にたくない。


卓也、明美、奏太…。 三人の友人を見失い、私は混乱していた。


もしかしたら、みんなはもう捕まってしまっている かもしれない。


ガタン


一心不乱に走る私の背後でドラム缶が大きな音をた てて倒れた。 私は小さい悲鳴をもらす。 やばい、奴に気づかれる! 躓きながらも私は必死に走った。


逃げ切るために。


「……タスケテ」


消え入りそうなほど小さな声が聞こえた。 聞き覚えのある声だった。


「……明美?」


「タスケテ…コッチニキテ」


声がする方向を見ると大きな鉄の扉があった。 私は嬉しかった。 こんなところで一人なんて嫌だったから、不安で仕 方なかったから。 明美の声を聞いたことで気が緩んだのだろう。 警戒心が薄れていた。


「大丈夫、今いくよ」


鉄の扉が大きな音をたてて開く。


緑色に染まった卓也と明美が倒れていた。


「明美、卓也!」


駆け寄ろうとしたが、すぐにやめる。


『なにか』が、いた。


明美と卓也の影に隠れていたらしい。


気づくのが遅かったみたいだ。


『なにか』が私の首もとを噛む。


私は緑色に染まった。


***************************** ~奏太視点~


扉の前にタンスやら資料の詰まったダンボールやら をおき、開かないようにした。


「ふぅ」


俺は部屋に隠れ入った。


本棚やらダンボールが沢山ある部屋だった。


扉には、資料室、と書かれたプレートがはまってい る。


『なにか』から逃げるために、ずいぶん走った。


卓也達とは、はぐれてしまったし、最悪だ。


みんなは無事だろうか。


ふと、部屋の真ん中におかれた机に目をやった。


なにやら数枚の紙がおかれており、一番上の紙には 『佐藤 緑に関する人体実験の成果』と書かれてい る。


人体実験? 俺達を襲ってきた『なにか』に関係があるかもしれ ない。


俺は紙を手にとる。


『近所の子供、年齢八歳、名は田中 勉というらし い。 彼の体にメスをいれ、〓〓〓〓〓〓(汚くて読めな い)を投与した。 数分間で拒絶反応をおこし、皮膚が緑色に染まり死 亡。 こいつもだめだった。 しかし、今回の実験で確信した。 緑の魂をいれる器は血縁者じゃなきゃいけない。 現在、緑と血の繋がりがあるのは親である僕しかい ない。 明日の実験が最後になることを祈る


佐藤 茂』


『だめだ、〓〓〓〓〓(字が汚くて読めない) 緑色に緑色緑緑い緑緑緑…………』


佐藤茂は死んだ自分の娘を生き返らそうと、人体実 験していた。


その実験に失敗すると、死体の肌は緑色になるらし い。


そうして死体を何体も見て茂は悟ったのだろう。


他人の体じゃだめなんだ、と。


だから血縁者である自分の体を実験につかった。


だが結果は失敗だった。


このことから推理すると『なにか』は佐藤茂だろう 。


はっ、はっ、はっ、はっ、


後ろで息づかいが聞こえた。

伏線に気がつきましたでしょうか?


答えあわせしますか。


やめておきましょうか。


皆様の貴重なお時間いただきありがとうございました。


夏のホラー2013のために書いた小説です。


評価をいただければ幸いです。


今後も活動するつもりなんで、なにとぞよろしくお願いいたします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 伏線の答え教えて下さい! (良かったらで良いです。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ