「ラストプロローグ」
「彼だ……」
医者は喜希に少年の正体に心当たりが無いかと思い、その少年を病室へ招き入れる。
そうして、のそのそと部屋に入ってきたのは、どこにでも居そうな少し顔の良い少年。
当然だが、喜希に心当たりは無かった。
「誰……ですか?」
「やはり君でもわからないか……彼は記憶を失っていて……!?」
医者は突然、会話を中断すると少年へ近づき、少年のさっきまでは無かった右手首に刻まれている紋章を凝視する。
「こ、これは……使い魔の紋章じゃないか……、なぜ……使い魔はもう無き文明……魔女、魔人の全滅と共に失われたはず……」
「あの~。すごいんですか、それって? 少なくとも召喚魔法よりすごいんですか?」
「すごいも何も……使い魔を使わす人間など恐らく君が初めてだ」
その時、部屋の扉が勝手に開かれる。医者と喜希が首を傾げていると、ホストの様な青年が堂々と部屋に入って来る。
「話は聞かせて貰いました。喜希さん、私達の私立学園へ入園しませんか?」
私立学園とは貴族が勝手に設立した教育機関の事だ。普通の学園と違う所は、まず貴族しか入園が認められない事、そして、通う学園が変わる事が無いと言う事。
学園側も私立学園の設立を許可しており、少数だがいくつかの私立学園が存在する。
時には、その私立学園同士で共同体育祭や文化祭が開かれる事がある。
平たく言うと私立学園とは、お嬢様学校みたいなものだ。そして喜希はそれに勧誘されたと言う事だ。
「ぼ、僕がですか!?」
「ええ、喜希さん、あなたです」
私立学園での勧誘はほとんど無い。
その為、勧誘で入園した生徒は他の生徒に比べ優遇される。
「で、でもお父様の許可を頂かないと……」
「では、オープンキャンパスと言う形での体験入学と言うのはいかがですか?」
「オープンキャンパス?」
「はい、私立学園が施設を公開し入学希望者に対して行う説明会、と言う意味です。一応、説明会と言う形ですので、入学扱いでは無く、ゲストとして迎えられます。」
「う~ん……お父様に怒られないなら……」
「わかりました。そこの使い魔、私達と共に来たまえ」
青年はそう言うと喜希をお姫様抱っこし、病室を後にする。
残された医者は呆然としながらそれを見送った。