「最強の最弱魔法?」
「まずは一個と。お嬢ちゃん。大人しく渡してくれるなら乱暴はしねぇからよ」
色黒で図体の大きな男が、喜希に手を差し伸べた。
喜希は、手に持っているピースを強く握り締め、男と距離をとる。
「やっぱり渡して貰えないか。しゃーねぇな。近代土塊魔法『イマジナリー・ロック』」
男の手から、巨大な岩が喜希に向けられて放たれた。
喜希はそれを拳で打ち砕こうと、迎撃体制に入る。が、その岩の軌道上に何かが介入した。
『まずは一個と。やったね、喜希ちゃん』
岩が重たい音を残してその場に落ちる。なんと介入したのはジョーカー本人だった。その岩の攻撃を、左腕で受け止め、今も痛そうに右手で押さえながら話している。
「残念な奴だな。大人しく寝てたらいいものを……」
『残念? 残念だって?! 何を言ってるんだ?! ジョーカーにハズレは付き物だぜ?』
「ジョーカー……? ジョーカーだと?」
『あぁ、そうだよ。どうやらあなたはジョーカーを引いてしまったようだぜ?』
「くそっ! great physical strength『ショックスマザー』」
男の腕が紫の光を放つ。そして、ジョーカーの両足が男の頭を蹴り飛した。男はその勢いで尻餅を付いてしまい、ジョーカーは地面に倒れこむ。
『遺伝魔法なんて最後までさせるはずないじゃないか』
ジョーカーはすぐさま立ち上がり、未だ尻餅をついている男の顔を蹴り飛ばす。男はその勢いで、仰向けに倒れこんでしまった。が、倒れながらも右手から拳ほどの大きさの石を散乱させる。その結果、追い討ちをかけようとしていたジョーカーは、その石の弾幕を正面から受けてしまった。
「さっきほどの大きさは無いと言えど、手のひらサイズの石を大量に受けたらダメージも相当なもんだろ?」
男はのそっと立ち上がった。そして石の攻撃を受け、苦しそうに腹部を抱えるジョーカーに歩み寄って行く。が、そこに喜希が介入して男の歩みを妨げた。
「待って、ピースが欲しいなら僕を狙いなよ。僕に勝てたらジョーカーさんのピースもまとめてあげるから」
「女子供に暴力は振るいたく無かったんだがな……しゃーねぇか」
男は力強く喜希に殴りかかる。それに対して喜希は、大の男のパンチを人差し指で止めてしまった。
男は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。目の前の光景を理解し、納得する事が出来なかったのだ。
そうして、男が頭の上に疑問符を並べているうちに、喜希のもう片方の手から放たれた、メテオのような火の玉が男を襲う。
その次の瞬間、まるで映画の演出のように弧を描いて吹き飛んでいく男。煙と残り火が、尾を引いて一色しかない虹のように綺麗なアーチを残していく。
『え?』
その様子をジョーカーは、引きつった笑顔で眺めていた。
男は地に着陸した後、微塵も動く気配を見せない。既に気を失ってしまっているのだろう。
それを確認した喜希は、颯爽とジョーカーとアガシオンに歩み寄る。
「ご、ご、ご、ごめんなさい! い、一応、力を抜いたんですが、火力が強かったようです! どどうしたらいいのですか!?」
『え? あ、ほっといても良いと思うよ。係りの人が拾っていくと思うからさ。ところで、喜希ちゃんの今の炎の魔法は上位魔法? 最高位魔法? それともオリジナル魔法? 詠唱はしてたみたいだけど、聞こえなくて』
「え、学園で一番最初に習う火魔法『ファイアー』ですよ」




