「私立学園の前で2」
「あれ? 一度、学園に行くんじゃなかった?」
「おれも、そう思っていたんだけど、学園から直接、私立学園に向かってくれって連絡があって……」
「そう、まぁいいわ。要はそれのせいで、ここに居るって事ね」
「なんか白々しいな、お前。絶っ対なんかしただろ」
「うふふ。何の事かしら?」
例の私立学園の門の前で炉心溶融と乱数調整が話をしている。
本来2人の当初の目的は、学園に向かう事だったが、今はそれが急遽変更されて私立学園に向かわされる破目になったと言う事だ。
しかしそれの被害者が乱数調整なだけあって、とても無理矢理ここへ向かわされた様には思えない。と言うのも、乱数調整には不特定要素のあるものを操作する力がある。今回、乱数調整が私立学園に向かわされる事は予定だった。そう、あくまでも予定だったのだ。この様に確定されていない事項を乱数調整は意図的に操作する事が出来るのだ。
炉心溶融はその事を指摘していたのだ。
「それにしても、静かな学園だな」
「あれ? あんたには見えないの? この私立学園を、覆う様に張り巡らされた結界と、この結界の向こうでたくさんの人々が、まるでパーティのように騒いでいる光景が」
「お前の例え、分かり難いんだよ! 要はあれだな、この学園の生徒達がちやほや、きゃっきゃうふふしているって言う事だな」
「う、うん。まぁそうね。じゃあ入るわよ」
「入れるのか?」
「当たり前よ。私を誰だと思っているのよ」
そう言って門に手を触れる。その門と手の接触箇所から赤い光が溢れ、辺りを不気味に赤く照らす。次第にその光は範囲を広げ、どんどん結界を赤く染めていく。その結果、炉心溶融にも結界を見ることが出来るようになり、乱数調整の横で首を傾げながら、この神秘的な光景を眺めていた。
「お、おい。そんな事していいのか? 怒られないのか? それに今、なにしてるんだよ?」
「なにって……結界に穴あけてんのよ。見れば分かるでしょ。けどまぁ、これは私も良く解ってないのよ。間隙久遠と有想夢想を玩弄する者に教わった事だから」
「間隙久遠と有想夢想を玩弄する者? 誰だそれ?」
「学園最高理事長の事よ。知ってると思うけど、あの人が学生の成績をつけ、卒業できるかどうかを見極めているのよ。それも一人で。大量の生徒の情報を一人で管理している訳だから、すごいわよね。一体その情報はどこから手に入れているだか……それでね、あの人が言うには世界と真理の裏が、どうたらこうたらって……まぁ、あまり興味は無かったんだけど、魔女の血を引く人間として覚えておきなさいって、無理矢理……あぁ、もう! あのクソババァ! 思い出したらイラついてきたわ!!」
そう言って、赤くなった結界を、思いっ切り殴る。
赤く変色した結界がガラスの様に飛び散り、辺りに散乱する。しかし、その破片は空気以外の物体に触れると、どろっと溶け出し、一瞬で蒸発する。
そして不幸な事に、その破片の一部が炉心溶融の柔らかそうな頬に飛び散り、炉心溶融を徐々に驚愕させる。
「ん? って、これ?! 結界のどろどろじゃねぇーか!! うわあああああん!!!」
「あ、ごめん。顔に付いちゃった? じゃあ、私が口で取っ――」
そこまで言って、頭を思い切り殴られる乱数調整。
しかし痛がっているのは、殴った本人である炉心溶融で、殴られた乱数調整はびくともしていない。今も炉心溶融は、痛む手を押さえながらも、顔を必死に腕で拭いていた。
体の丈夫さは、魔力の量と比例する。実力の差がこんな所で現れたのだろう。
「うふふ……炉心溶融ったら照れ屋さんね。てへっ」
「お前……いつか絶対に殺す……」
二人はけんかしながらも仲良く、破った結界から侵入する。