「列車内での出来事」
「私が学園にねぇ。何しに?」
「う~ん……たぶん、そのバカ魔法使いを監視している私立学園に偽名で入園する事になると思うぞ。
まったく、今は魔女、魔人の話で忙しいってのに……ほんと迷惑な魔法使いだぜ」
2人はリニアモータートレーンと呼ばれる科学だけで出来上がった列車に乗っていた。
このリニアモータートレーンは磁力により車体が浮いており摩擦が無い、その上、決まった路線を走る為、かなりの速度で走れるのだ。
しかし大体の魔法使いは箒に乗れる為、ほとんどの者はこの列車を利用しない。
だが一部のマニアや、事情により箒に乗れない者が利用していた。特にこの列車はマニアに人気があり、その証拠にこの列車を利用する乗客のほとんどはマニアである。
その為、事情で箒に乗れない者など、ほとんど居ない。
「おい、見ろよ。魔力を注ぎ込んでいないのに動いてるぞ! やっぱ、リニアモータートレーンは神秘的で何回乗っても飽きないぜ!」
「相変わらず列車マニアなのね……炉心溶融……」
「あったり前じゃねぇか! なんか、こう、列車って言葉にロマンを感じるんだよな。はぁ~、お前を迎えに行った、かいがあったぜ!」
「あんた……もしかしてこの列車に乗る為に私を迎えに来たの?」
「な!? そんなはず無いぜ! 決して学園はお前を迎えに行ったら往復列車に乗せてやるとか言って無いぜ!?」
「相変わらず、嘘がつけないのね。炉心溶融」
炉心溶融が手足をバタつかせ、必死に弁解するが、その無念の声はすでに逆巫女服少女には届いていない。そもそも逆巫女服少女はそんな事に興味は無かったし、そんな事にいちいち構っている暇など無かった。
その証拠に逆巫女服少女が今、必死に睨んでいるものは炉心溶融なんかでは無く、何の変哲もない扉……接合された車両を行き来する為の扉だった。
その扉の先の車両は人が乗る為にあるのではなく、箒では、運ぶ事が出来ない客の荷物や、運搬貨物が置かれていた。
つまり、この列車の真の目的は人の運搬などでは無く、箒などでは到底、持ち運びの出来ない品々の運送だった。人の運搬なんておまけに過ぎないのだ。その証拠に列車の車両のほとんどは貨物車両である。
その1つの車両に繋がる唯一の扉を必死に睨んでいると、カタッカタ、と不規則に揺れ始めた。
気にしなければ気付く事も無い程度の揺れ。しかし逆巫女服少女はその小さな揺れを見逃しはしなかった。
手足をバタつかせて居た炉心溶融も逆巫女服少女の視線を追い、扉の揺れに気付き、2人揃って扉を凝視する。
周囲の人はさっきまでの炉心溶融と同じく、リニアモータートレーンに興奮気味で扉の揺れは愚か、扉を凝視している2人にも気付かない。
しかし今の2人の様子は、他人から見ると異様な光景に見えるであろう。
少女2人が扉を一生懸命に見つめているのだから。