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最終章
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世界は何事もなかったかのように約束通り太陽と月を入れ替える。昇っては沈み、沈んでは昇る天体は、今日も森の中に暖かな木漏れ日を作る。
百合の花たちは何かを隠すように今日もひっそりと咲き誇り、背の高い草は今日も光合成に勤しむ。
そして今日もまた一人、森へ誘われる。
橙色の姫百合たちをかきわけて、鉄砲百合の白さに導かれ、今日もまた一人、足を踏み入れる。
黒い、細い鉄で作られた門、砂糖菓子のように白い飛び石。
尖った屋根の上に佇む風見鶏。
黒檀の窓枠、瀟洒な洋館。
チョコレートのような扉に「開店」の札が目に入る。
真鍮製の妖精のノッカーに手を伸ばし、今日もまた一人、招かれる。
「いらっしゃいまし、御客様」
寝癖だらけの黒髪に、海より深い青の瞳。馭者のような服を着た、慇懃無礼な店主が、芝居がかった礼をする。
「ようこそ、『澪標工房』へ」
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