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prologue
随分前にK書店の新人賞に出した作品です。
三次落ちでしたが……。
忌憚なき感想をお寄せ下されば幸いです。
その店は森の中にある。
時が止まったように静謐な森。
鳥の鳴き声、木々のざわめき。
鬱蒼と覆い繁る木々のアーチをくぐり抜ければ、ふと開けた場所に出る。
砂糖菓子のように白い飛び石が導くのは、モダンな洋館。
尖端の鋭い屋根の上には古ぼけた風見鶏。細く、黒い鉄で作られた瀟洒な門扉。黒檀の窓枠、そしてショウ・ウィンドウ。
レースのカーテンに覆われたショウ・ウィンドウから見えるのは、無数の人形の瞳と、筆舌尽くし難き一着のドレス。
其処は「澪標工房」。
えも言われぬドレスが看板の、森の工房。
「望みを叶える」ものを売る店。
今日も寝癖だらけの主が「開店」の札を出すその時まで、霧と緑に包まれたまま、じっとそこに佇んでいる。