断罪する人、間違えていますよ!
ミリィ・ラピス侯爵令嬢は、婚約者である皇太子ノアと皇国の成人を祝う伝統的なパーティーに出席していた。未来の皇太子妃としてノアとともに会場に入場し、皇帝の挨拶が済んでみなが和やかな空気の中でそれは起こった。
「ミリィ・ラピス侯爵令嬢を、詐欺の疑いで告発いたします!」
凛とした様子で叫びながら皇帝と皇妃の前に現れた令嬢がいた。濃いグレーの髪色に濃い紫色の瞳を持つ彼女はゼダ・オニキス子爵令嬢だ。皇帝はひそかに、オニキス子爵を目で探すと彼は娘の行動を予知していなかったのだろうか。口をあんぐりと開けて、目玉が飛び出すのではないかと心配になる表情をしている。子爵の隣にいる夫人は顔を真っ青にして護衛だろう男に支えられてなんとか立っている。
「そなたはオニキス子爵の者か。こんな晴れの舞台でそのような事を申すということは、それだけの強い証拠があるのだろうな?」
「はい!」
バターンと、子爵たちがいた方向からもの凄い音がしたのを聞いて、皇帝と皇妃は思った。これは、夫人が倒れた音に違いないと。夫人への見舞いの品を何にしようか、と皇妃はゼダの話が始まる前から現実逃避を開始してしまった。その気配に気づいた皇帝とノア、近くに控えている重臣たちはずるいと思った。
そもそも、ミリィが詐欺なんて働けるはずがないのだ。毎日毎日、皇太子妃教育を受け、皇妃とお茶会をしてヘロヘロになって侯爵邸に帰宅する。そんな事をしている暇なんてないのだ。
「そなた、ミリィの働いた詐欺とはなんだ?」
ミリィをノアが背中に隠しているのを確認しながら、仕方なく皇帝はこの少女に問いかけた。
「わたしは、オリビア・ラピスの生まれかわりなのですわ! それなのに、ミリィ様はわたしのように動物と会話ができると嘘をついています! どうぞ、牢へ連れていってください」
「は? 生まれ変わり?」
皇帝ならびにその場にいた貴族たちの目が点になる。なにを言っているのだ、この娘は。初めこそ、子爵を咎めるような視線を送っていた貴族も、大変そうだなと憐れみの視線を向けている。皇帝も同じ気持ちであった。
「ミリィはオリビア・ラピスの子孫だ。動物と話せても不思議ではないだろう? ……お前は動物たちと会話ができると、そう言っているのか?」
「そうです! 子孫と言えど、ミリィ様こそ嘘をついていますわ!」
今年成人を迎えた令息令嬢たちは、ノアとゼダと同学年だった。断罪されているミリィは一つ年下である。彼らは不思議に思っていた。学園在学中、一度もゼダが動物たちと話し込んだりしている様子を見た事がなかったからだ。彼らが首を傾げたり扇を広げてこそこそ話すのを見て、ノアは会場の誰もがミリィを疑っているわけではないと確信していた。というか、ミリィが婚約者でなかったら彼が一番困るのだ。
「そうか、では。今から私が可愛がっているものたちを連れてこよう。彼らと対話して見せてくれ。皇帝陛下、宜しいでしょうか?」
「ああ、構わない。パーティーと関係ない事をすることになった。みな、今宵は申し訳ないが解散だ。今日の結果はまた後日皆にもきちんと知らせる」
皇帝の言葉を聞いて、貴族たちは一斉に退室の礼をしてぞろぞろと出ていく。重臣の一人が神殿長を呼びに走った。ノアの側近はノアのペットを連れてくるために部屋を出ていく。
大事になっているにも関わらず、ゼダはずっとミリィを睨みつけたまま勝ち誇った表情を崩さない。それがとても不気味だった。
数刻すると、息を切らした神殿長が神官たちを引き連れて皇城までやって来た。余程、急いで来たのだろう、神官の中には神殿のマントが乱れている者もいる。あんなに自信ありげにしていたゼダだったが、何故神殿がここで出てくるのか分かっていない様子だ。
実は、ゼダが「動物と話せると嘘をついている」と叫んでいたがミリィが動物と話ができるというのは神殿も認めている事なのだ。
まだ5歳のミリィが、両親と神殿に行った際にいつもミリィと行動を共にしているリスのラナと話し込んでいるのを神殿長に見られてしまったのがきっかけだった。
ミリィは今でも覚えている。邸の外ではラナとも話してはいけないと、両親から言われていたのに見られてしまった。どうしたらいいか分からずラナを隠そうとしたミリィに神殿長は優しく問いかけた。
「もしかして、その髪色はラピス家のお嬢さんかな? いいかい、私は今何も見ていないし聞いていない。あちらにご両親がいるから、二人でもう行きなさい」
お辞儀をしてラナと一緒に両親の元へ戻っても、人に見られたのに怒られなかった。その代わりに、ミリィを守る為だと言われてノアの婚約者になったのだ。
皇帝と皇妃に、ミリィを守るべきだと神殿長が言ってくれたと聞いて、一度神殿に出向いたことがある。しかし、神殿長や神官たちはミリィを「気持ち悪い」ということも、必要以上に持ち上げる事もしないでくれた。ノアや神殿長たちといる時は、普通の令嬢で居られるのだ。
神殿長や神官たちはミリィの事をこっそりと見てウインクをしてくる。安心しなさい、の合図だ。ミリィがホッと息をつくとその様子を見たゼダが、また皇帝たちに向かって叫んだ。
「陛下がたに見てもらえればいいのに、何故神殿長が出てくるのですか? それに、今神殿長たちはミリィ様に何か合図を送りました! ミリィ様は神殿も巻き込んで嘘をつくつもりです!」
目配せしていたのは本当の事なので、まだ年若い神官はバツが悪そうな顔をする。しかし、さすがは神殿長。
「ミリィ様は幼い頃より、よく神殿にお祈りに来ておりましてな。その名残で今でも親しいのですよ。紛らわしくして申し訳ありません」
丁寧だが、ゼダの方ではなく皇帝や皇妃たちの方に向かって神殿長はそう言った。つまりは「お前の事は我らは見た事がない」という意味だったりするのだが、ゼダは真意に気がついていない様子だ。大きな事は平気で言うくせに、令嬢としては鈍感すぎるのではないか。
ちなみに、今この会場にはゼダの両親は不在だ。一応、皇帝は子爵たちの元へ使いを送ったのだが、娘の嘘に付き合うのはごめんだと辞退してきたのだ。
「すまない、遅くなったな」
ノアが連れてきたのは、いつもミリィと行動を共にしているラナとノアの愛猫のウォルフだった。2匹を見たゼダの眉間にシワが寄る。
「なぜミリィ様のリスまで居るのですか? 公平ではありません」
先に一方的にミリィを詐欺師扱いしたやつが何をほざいているんだ、とその場の誰もが思ったが誰も口を開かない。口を開けばゼダを罵りたくなってしまうからだ。こちらがそれをしてしまえば、ミリィの立場が危うくなるかもしれない。
「すまない。ウォルフだけでは比較対象がいなくて足りないと思ってな。今、皇城内の馬たちは全頭城にいない。控え室にいたのがラナしか居なくてな。ゆるせ」
お前の発言で貴族たちが帰ったのでその尻拭いを馬たちはさせられているのだ、という嫌味である。
「なら、仕方ありませんね。我慢しますわ」
ノアの分かりやすい嫌味に気が付かないゼダに、皇帝たちだけでは無く神殿の者たちも呆れ返った。この娘は本当に貴族の教育を受けているのだろうか? お茶会などに招かれても困ったりしてないのだろうか?
もはや、心配が勝ってくる一同である。
「では、皆が揃ったな。神殿長、たのむ」
「はい、陛下。それでは、今からこちらのゼダ様のお力を見せて頂きます。私どもが持ってきたのは、古の時代にかの魔法使いさまが残された魔道具です。まずはゼダさまにお力を見せて頂き、その後に魔道具にて2匹の言葉を文字として映し出します」
「かの魔法使いさま……。わたくしの事ですね」
ふふ、と頬を染めて微笑むゼダに対して誰からも「そうですね」などの言葉はなかった。なぜ、この少女がこんなにも自分こそが『かの魔法使い』の生まれ変わりだと信じているのか。一同には分からなかった。仮に、本当に生まれ変わりだとしても子孫であるミリィを詐欺師扱いするのも理解できない。物語や伝説に残っているオリビア・ラピスの人柄を思うとどうしてもこんな事をする人物とは思えないからだ。
昔話をしよう。
ラピス家にオリビアという令嬢が生まれた。黒髪で濃い紫色の瞳をしていた。当時の皇国の人間としては珍しい色を持っていたが、彼女は勉強熱心で人に優しかったので迫害や孤立とは無縁な人だった。
皇国では特に魔法というものが珍しいものではなかったが、オリビアは幼い頃から無詠唱で魔法を扱うことができた。だからこそ、皇国は彼女に『魔法使い』の称号を与えた。
称号を賜ったオリビアは、各地を旅しては弱きものに手を貸したり、伯爵領の発展のために使い魔を召喚していた。使い魔たちがいることで、魔物が出なくなったのだ。魔女というより、聖女。それが皇国の歴史書にも載っているオリビア・ラピスであった。
そんな人だから、当然当時の皇太子の婚約者にという話もあったらしい。「好きな人がいるので」と言って彼女は辞退した。誰の事を言っているのかと当時は噂にもなったらしい。皇帝の弟ではないか、幼馴染ではないか。異論な憶測が皇国を巡ったが誰とも添い遂げることはなかった。
彼女は突然、いなくなってしまったので。
皇城の図書館にある秘蔵の記録書にはこう書かれている。
『オリビア・ラピスは皇帝より魔界へ使者として出向いた。魔王に謁見後、姿を見たものはいない。共に行ったはずの他の使者たちは、魔界に入ることすら許されないまま帰還。オリビア・ラピスの捜索隊が結成された。』
その記録を最後に、オリビア・ラピスの名前は皇国の歴史書には出てこなくなる。魔王に魅入られたのか、魔界に入れずどこかを彷徨っているのか。未だに歴史学者たちの中で議論されている事柄だ。
オリビアもまた、子孫であるミリィと同じく動物たちと会話ができた。ミリィはあまり公にはしていないが、オリビアは周りに誰がいたとしても何も気にしないで会話したと記録には残っている。
ゼダは既に勝ち誇った表情で皇帝の前に進み出た。何を企んでこんな事をしているのか、全く読めない。
「こんにちは。私はゼダよ。よろしくお願いしますね」
「にゃあ(は? 気安く話しかけんじゃないよ)」
「ふふ、仲良くしてくれるのね。ありがとう」
「なーん(こいつ話通じてないじゃない)」
他の者たちには、ウォルフとゼダの会話が噛み合っているのかどうか判断ができなかったがミリィには分かっていた。噛み合っていない。つまり、ゼダは動物と話ができない。
二人の会話を吹き込んだ魔道具が光り出して、天井に向けて光の文字を浮かび上がらせた。誰がどうみても、噛み合っていなかった。皆は「そりゃそうだろうなあ」という感想だったが金切り声をあげた者が一人。
「嘘よ、こんなの! そうだ、その魔道具が壊れてしまっているに違いありませんわ!」
「これは普段から神殿のしかるべき場所に保管しております。かの魔法使いさまは、これが壊れないように入れ物自体に強固な魔法が掛けられています。壊れてはおりませんし、もし壊れていたらこれはそもそも文字などは出せませんから」
神殿長の正論にぐうの音も出ないゼダは、唇を噛んだ。
「そんなはずはありません、あの方が言っていたんだもの……」
ゼダが小さくそう言うと、突然眩い光が建物内を照らした。一同が目を開けられずにいると光の中から男女の声がする。
『おい、だから言ったろ? 皆、眩しくて目も開けられていないじゃないか。今すぐやめろ』
『ええ……。こういうのは演出が大事でしょー?』
仕方ないなあ、という女性の声がすると光はなくなった。どうやら女性が登場するために演出として光を出したようだ。
黒髪で濃い紫色の瞳で美しい漆黒のドレスを着た女性と、黒髪に濃い赤い瞳の男性が立っている。ミリィには、二人に見覚えがあった。
「あの……。もしかして、私が幼い頃にラナを譲ってくださった方ではありませんか?」
『ふふ、そうよ。お久しぶりね。ね、アラン。私のあの子は私達を覚えていてくれたわよ』
『さすがだな。ラナを子守り役として渡しておいて本当に良かった』
二人の会話についていけない中、神殿長だけは目を輝かせた。
「もしや、貴方さまはオリビア・ラピスさまではありませんか!?」
『ええ、そうよ。オリビア・ラピスで合っているわ。もっとも、今ではオリビア・ベリル。アランの妻で魔界の王妃ね』
名乗りながら、オリビアはアランの腕に愛おしそうな顔をして抱きついた。
アラン・ベリルの名前を知らない人間などいない。彼こそが昔、オリビアが謁見したとされる魔界の王なのだから。
『皇帝、なぜ私が魔界からここまで来たか分かる?』
「貴方の子孫である、ミリィが関係している?」
『大正解! ミリィのことはラナを通じてずっと魔界から見守ってきたのよ。大切な家族ですからね。それなのに、私の生まれ変わりだと言って私の子を陥れようとする馬鹿が出てきた。これは乗り込まないといけないわよね?』
オリビアがゼダに向かって歩き始めると、ラナはオリビアの肩へ乗った。ミリィが友人を取られたような悲しい気持ちになっていると、いつの間に傍に来ていたのかアランがミリィの頭を優しく撫でた。
『すまないな、オリビアはすぐに乗り込もうとしたのを私が止めてしまって助けに入るのが遅くなってしまった。ラナは私が遣わしたんだ。君をいつでも守れるように』
「アラン様、ありがとうございます。いつも守ってくださって」
『君はオリビアの子。私の子でもある』
微笑むアランを見てノアや皇帝たちは、驚いていた。魔王と言われた男はなんて家族思いの素敵なヒトなのだろうと。種族も違うのに、伴侶の子孫をここまでして守ろうとする。皇帝は彼を手本にしようと決めた。
『あなた、その宝石をどこで手に入れたの』
「こ、これは女神さまがくださったわ。……神殿に行った時にオリビアの生まれ変わりだと言われて」
『その女神、金髪で髪がクルクルで長くて瞳の色が桃色かしら?』
「そ、そうです」
ゼダの肯定を聞いて、オリビアの周囲が氷点下まで下がり床が凍った。何かその女神と因縁でもあるのだろうか。
『皇帝。この子は神殿に入れなさい。フィリナ神以外の神と接触できないようにしなさい』
「は、はい……」
いつもは威厳のある頼もしい賢帝が今だけ親に怒られているように小さくなってしまっている。
『この後処理は私が引き取る。あなたたちじゃ敵わない相手が黒幕だわ。皇帝、後処理が終わったら皇城に報告に来る。それでいいわね?』
「わかりました」
『おい、オリビア。皇帝を虐めるな』
『アランは誰の味方なの? そしてこれは貴方のせいでもあるわよ』
女神と因縁があるのはアラン様か、と主に男性陣が生暖かい視線をアランに送った。
『お、おい。俺のせいじゃないぞ、俺は本当にずっとオリビア一筋だったんだから!』
アランの叫び声と共に、二人はまた光の中に消えていってしまった。
数日後、皇城にはアランとオリビアが居た。ミリィも当事者として呼ばれれていた。
オリビアが皇帝たちの前に手足を茨でできた縄で縛られた金髪の女性を出した。ゼダとオリビアが言っていた女神なのだろうか。
「オリビアさま、その方は……?」
『今回の黒幕よ。天界から連れてきた。もちろん天帝に事情を話して了承を貰っているから気にしなくていいわよ』
気にする。大いに気にする。助けを求めるように皇帝はアランを見たがアランは目をつぶったままで助けてくれそうにはなかった。
『さて、今回の件について報告するわよ』
女神はクユリという。クユリは天帝の末の娘であり、女神・フィリナ神の妹神に当たる。
時ははるか昔まで遡る。魔王・アランがまだ幼かったときにクユリは彼に一目惚れしたのだ。当時すでにアランには従姉妹姫との婚約が済んでいたし、アランは従姉妹姫を愛していた。そのことを知ったクユリは激怒した。父である天帝ですら手がつけられなかったのだ。そこは親としてどうなのかと思うところである。
そして、クユリは従姉妹姫を手にかけてしまった。魔界には咲いていない毒花の蜜を吸うといいと言って渡したのだ。
アラン含め、魔界は天帝に激怒。それを見たフィリナ神は、従姉妹姫の魂を人間の器に入れた。クユリの手が及ばないように、分かりずらくして自分がまだ作ったばかりの皇国に落とした。
それが、オリビア・ラピスだった。
オリビアが皇帝に魔法使いとして称号を与えられた時に、フィリナ神はオリビアに言ったのだ。魔界に本当の家族がいて、あなたは魔王の許嫁なのであると。自分が皇帝に神託として伝えるから、クユリに見つかる前に魔界に逃げろ。だからこそ、魔界にはオリビアしか入れずその後の消息が分からなかったのだ。
アランには、従姉妹姫の魂を人間の器に入れていることといずれは魔界に戻ってこられるようにするとフィリナ神は伝えていた。
今までクユリに邪魔されなかったのは、クユリが天界の牢屋に入れられていたからだった。数百年経って、天帝はクユリが反省していると見て世に放ったのだ。
クユリはまず、アランに会いに行こうとしたがそもそも魔界に入れなかったのだ。どうしたものかとフィリナ神殿で考えていると、ゼダがお祈りしているのを見た。
「王子さまと結婚できますように」
まるでいつかの自分と似ているではないか。ゼダの言っている『王子』を見るために皇城に行くと、その王子には婚約者がいるではないか。いつかの様に彼女に手をかけようとすると魔法に弾かれた。
愛しいアランの魔力を感じ取った。子孫を大事に思うオリビアのために、アランがミリィを守るために掛けた魔法だった。
クユリは名案を思いついた。ミリィに危害を加えれば、彼女を守ろうとしてアランがやってくるのではないかと。
『あなたは、オリビアではなくって?』
オリビア・ラピスが誰なのか知らないまま、皇国で有名な彼女の生まれ変わりだとゼダに吹き込んだ。それが今回の騒動の全貌だった。
『アランは私のものよ!』
『うるさい』
オリビアが一指指を軽く振ると、クユリは口が開かなくなった。どうやら喋れないように魔法を掛けられたらしい。
「それで、オリビアさま。それは、我々がどうにはできるのですか?」
ノアのこめかみが震えている。大切な存在に危害が及ぶところだったのだ。相手が神でもどうでもいい。
『ここに連れて来たのは、フィリナ神さまがここでこれに罰を下すからよ。皇太子』
『ええ、そうです。私が二人に頼んだのです』
皇城の天井から、銀髪に緑色の瞳をした女神が降りてくる。皇帝、皇太子と同じ色。皇族の始祖・フィリナ神。
『あの時、天帝が何を言おうとあなたを処分しておくべきでした。オリビアだけではなく、ミリィやゼダにも手を出した。皇国の全ての民は私の子。許せるものではありません』
フィリナ神がクユリに向けて手をかざすと、灰になって消えた。フィリナ神の眷属がどこからか綺麗な壺を持ってきてクユリだった灰を集めて入れた。
『皆よ、バカが申し訳無かったわ。これからはこういうことがないように私が事前に皆を守ります』
フィリナ神と眷属は光の中に消えた。
ミリィとノアは、アラン達を見送るために皇城内の庭にいた。ミリィはラナがオリビア達と魔界に帰ってしまうのではないかと思っていたが杞憂に終わった。ラナは変わらず、ミリィの傍にいてくれると言う。
『そうだ、ミリィ。お願いがあるんだが、いいだろうか?』
「はい、アラン様。なんでしょうか」
『この子はセピ。ラナの兄のようなものだ。この子も君を守りたいと言っているから置いていってもいいだろうか』
「い、いいのですか?」
『セピは私の使い魔なんだけどねえ、ミリィの事が心配で常に鏡を覗いてるの。ラナと同じく力も強いからノアくんも安心するはずよ』
綺麗な黄緑色の瞳をした猫のような使い魔。いつも心配してくれた存在が沢山いたことにミリィは感謝していた。
「セピ、これからよろしくお願いしますね」
「にゃあ(こちらこそ)」
すでに仲良くなった二人を見て安心したように微笑んだオリビア達は『またね! 今度は普通にお茶会しましょうね』と言って光の中に消えていった。
はずだったのだが。
オリビアはあれから毎日のように、ミリィとお茶会をしに皇国まで出向いてくる。当然、愛妻家のアランも一緒だ。
「……オリビアさま、こうも毎日毎日ミリィを独占しないで下さい! セピもラナもいるんですよっ」
『あらあ、ノアくん嫉妬ー? 独占欲強い男は嫌われるわよ〜?』
『すまない、ノア。これでも食べなさい。オススメだ』
「はぐっ……あ、これ美味しいですアランさま。って! 騙されませんよ!」
ミリィ親衛隊は自分とラナだけで良かったのに……。秘められたノアの強い強い独占欲をミリィが知るのはまた別のお話。




