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【連載完結】真実の愛はあるわ。あなたが信じないだけで。  作者: 逆立ちハムスター


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2/6

愛の形

「……あんたは魔法で魅了されているだけだ。他の者たちと同様にな。」


傭兵の声には、もう憐れみすら混じっていなかった。ただ、事務的に「処理」すべき対象を見るような、乾いた響き。


「俺が解放してやる。そのまやかしの夢からな」


カタ、と。

傭兵が背中の大剣に手をかけた。鞘と鍔が擦れる、不吉な音が森に響く。

その瞬間、彼の顔色が真っ青に変わった。


「何をするんだ! よせ! 剣を下ろしてくれ!」


彼は、私を隠すように両手を広げ、傭兵の前に立ちはだかる。その目は血走っており、涙さえ浮かんでいた。


「彼女を傷つけるな!!!! 殺すなら俺を殺せ! 彼女を奪うことは、俺の魂を殺すことと同じだ!」


何という献身。何という純愛。

私は彼の背中越しに、傭兵をじっと見つめた。私の瞳の奥で、紫色の魔力が静かに渦を巻く。


「さぁ、どうするの? 傭兵さん。あなたは自分の判断が本当に正しいと思うの? この人を、こんなに愛し合っている私たちを引き裂いて、それが『救い』だと信じているのかしら?」


私は挑発するように微笑んだ。

私の指先は、こっそりと彼の背中に爪を立て、そこからさらに深い「愛」の毒を流し込む。彼はうめき声を漏らし、さらに強く私を求めて体を強張らせた。


「この人を無理やり連れ帰って、愛してもいない女の横に座らせることが、あなたの言う正義? ふふ、笑わせないで」


傭兵は、何も答えなかった。

ただ、深く、深く息を吸い込み、重心を落とした。

男の瞳の中に、迷いは微塵もなかった。それは、人間の情を超越した、冷酷なまでの「義務」の光だった。


「……………当然だ」


短く、重い言葉。

次の瞬間、私の視界から色が消えた。


銀色の閃光が、夜の闇を一閃する。

それはあまりにも速く、あまりにも正確だった。


グシャ…………


嫌な音がした。

硬い骨が砕け、柔らかい肉が裂け、温かい液体が噴き出す音。

私の胸のあたりに、熱い飛沫が飛んだ。それは、さっきまで私の腰を抱いていた彼の、愛の熱そのものだった。


「あぁぁぁああああぁぁぁーーーーー!!!!!!!!」


世界が反転する。

彼は地面に膝をつき、血にまみれた土を掴みながら叫んでいた。その絶叫は、もはや人間の言葉を成していない。ただ、魂そのものが擦り切れるような、悲痛な慟哭。


「なんて事をーーーーーー!!!! リリアーーーーー!!!! リリアーーーーー!!!」


私はゆっくりと、崩れ落ちていく。

視界が赤く染まり、月の色がさらに濃くなったように感じられた。

胸から腹にかけて、冷たい風が通り抜けていく。ああ、これが死。これが、彼が私に与えてくれた最後の「愛」の形。


「良かったな。これであんたはもう自由だ。」


傭兵が、血を拭いながら、力なく座り込む彼に近づく。


「さあ、もう帰れるぞ。化け物は死んだ。魔法は、もうすぐ解けるはずだ」


「うっ……ううっ……うう……」


彼は、私の抜け殻になった体に縋り付き、声を上げて泣きじゃくった。その手は私の返り血で真っ赤に染まり、私のドレスを汚していく。


「俺の……俺のリリアが………俺のリリアが………っ!!」


彼の涙が、私の頬に落ちる。

ああ、なんて温かくて、美味しい涙。

私は消えゆく意識の中で、彼の中に残した「私」の種が、さらに深く、暗く根を張っていくのを感じていた。


傭兵が、ふと足を止める。

傭兵の男の表情が、初めて困惑に歪んだ。


「……おい、どうした。しっかりしろ。魔物は死んだんだぞ」


彼の泣き声は止まらない。それどころか、その瞳には依然として、私に対する狂気じみた情熱が宿ったままだ。

魔法が解ければ、彼は我に返り、故郷の婚約者を思い出し、安堵するはずだった。


「…………サキュバスを殺したのに。魔法が解けないだと……?」


傭兵の声が震えていた。

背後の兵士たちが、怯えたように後ずさりする。


私は、音の出ない唇で、最期の言葉を紡いだ。


――ねえ、言ったでしょう?

――真実の愛はあるわ。

――あなたが信じないだけで。


私の心臓は止まった。

けれど、彼の心の中で、私は永遠に生き続ける。

誰にも解けない、死よりも重い呪いとなって。

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