第8話 グスタフ、分からせられる
【元荒くれの傭兵グスタフ視点】
『アヴァロン帝国歴182年 5月1日 帝都ハーグ郊外外人部隊駐屯地 昼 晴れ』
雲一つない青空の下、砂埃の舞う練兵場に、むさ苦しい男たちの熱気が充満していた。
急造された木箱の壇上では、ルシオン・ゼルガノスとかいう、ひょろりとした青年貴族が声を張り上げている。
「俺たち、外人部隊には新しい装備と、高い給与が与えられる! お前たち、元傭兵の誇りはなんだ?」
ルシオンの問いかけに、列の真ん中あたりにいたモンドという男が、下品な笑いを浮かべて叫んだ。
「そりゃあ、金と女よ!」
「あっはっはっは!」
「ちげえねぇ!」
傭兵たちの野卑な笑い声が、ドッと爆発するように響き渡った。
「その通りだぜ!」
俺、グスタフも大声で同調し、ニヤリと笑った。
(あのルシオンって若造、伝説の傭兵ゼルガノスの息子らしいな)
俺は腕を組みながら、壇上の男を値踏みするように見つめた。
なんでも、ライル先帝陛下に従って生き延び、見事に貴族へと成り上がったヤツの身内だという。親父の威光で威張っているだけの坊ちゃんかもしれないが、まあ、金払いがいいなら話くらいは聞いてやるか。
しかし、俺の気を散らしているモノが、さっきから目の前にあった。
周りのむさ苦しい男たちに混じって、なぜか小柄な人影が立っているのだ。
サラサラとした栗色の短い髪の毛。ダボッとした服を着ているが、その背中から腰にかけてのボディラインは、どう見ても若い女性のそれだ。さっき横顔をチラッと見たが、整った鼻筋と大きな瞳で、顔もなかなか良かった。
(へへっ、ちょっとぐらい、いいだろ?)
俺の股ぐらの奥で、下劣な熱がジワリと湧き上がる。
血の気の多い男ばかりの駐屯地に、こんな美味そうな獲物が迷い込んでいるんだ。挨拶代わりのスキンシップくらい、文句は言われねぇだろう。
俺はニヤつきながらそっと手を伸ばし、目の前にある無防備な尻を、下から撫で上げるようにちょろっと触った。
(ウホッ! いい感触!)
布越しに伝わってくる、驚くほどの柔らかさ。そして、張り詰めたようなプルンとした極上の弾力。
(こいつは上モノだぜ……)
俺が舌なめずりをして、さらに深くまさぐろうとした、その瞬間だった。
シュバッ!
目の前の女が、ありえない速度で反転した。
何が起きたのか理解する前に、俺の右腕がガシッと掴まれる。そして、女の細い両足が俺の腕に蛇のように絡みつき、そのまま強引に地面へと引き倒された。
ドサァッ!
背中を地面に打ち付け、空が見えた時には、俺の右腕は限界まで逆方向に反らされていた。
「いでっ、いででででてっ! おっ、折れるぅ~っ!」
関節がミシミシと悲鳴を上げ、俺は情けない絶叫を上げた。少しでも動けば、骨がへし折れる激痛だ。冷や汗がドッと噴き出す。
「あー、きみ。腕ひしぎを外してやってくれ。分からせるのはそのくらいでいいだろう」
壇上から、ルシオンの呆れたような声が降ってきた。
女はフンと鼻を鳴らすと、一言も発せずにスッと技を解いた。
「紹介しよう。彼女が、君たちの射撃の指導官を務めるヴェラ嬢だ。格闘も強いから、オマエたち、下手に手を出さないほうがいいぞ」
痛む腕を押さえながら這いつくばる俺を尻目に、女――ヴェラは、プイッと顔をそらして列に戻っていった。俺のことなど、路傍の石っころとしか思っていないような、冷たい目だった。
(くそっ……このアマァ、痛えじゃねえか……!)
俺は砂を噛みながら、その小さな背中を睨みつけた。
みんなの前で大恥をかかされた屈辱。折れそうなほど痛めつけられた怒り。しかし同時に、あの極上の感触と、自分をねじ伏せた女に対する歪んだ興奮が、俺の中でドロドロと混ざり合っていた。
(絶対に分からせてやる! 泣いて俺にすがるまで、たっぷりと可愛がってやるからな……!)
俺の中で、劣情と復讐心、そして指導官を組み伏せてやろうという功名心の三者が、ガッチリと手を結んだ瞬間だった。
◇◆◇
今日は、顔合わせと軽い説明だけで解散となった。
ズキズキと痛む腕をさすりながら駐屯地の出口へ向かうと、驚くべき光景が目に入った。
あの生意気なヴェラとかいう小娘が、迎えに来ていたピカピカの黒塗りの高級車に乗り込み、さっそうと帰っていくところだった。
(あんな高そうな車……ただの指導官じゃねえのか?)
遠ざかる車の砂煙を見つめながら、俺はニヤリと、獲物を狙う獣のような笑みを浮かべた。
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