第5話 ヴェラとライル、狙撃銃を試し打ちしてみる
【ヴェラ視点】
『アヴァロン帝国歴182年 4月3日 帝都ハーグ 夜 晴れ』
アタイたちは、恐れ多くも、先帝であるライル様のお屋敷に泊めてもらうことになった。
案内されて驚いたのは、皇宮ではなく、郊外にある大きなお屋敷だったことだ。そして何より、やけに畑が広いのが印象的だった。
何人か人を雇って管理しているらしく、実際に、住み込みで働くメイドさんの姿もあった。
ライル様の奥様であるヴァレリア様は、年齢をまったく感じさせない、気品と色気を併せ持つ美しい人だった。
◇◆◇
『4月4日 朝 晴れ』
翌朝。アタイたちとライル様は、敷地内にある専用の射撃場へとやってきた。
ここで、アシュレイ工廠が開発したという、新作の狙撃銃を試し打ちさせてもらえるらしい。
「僕は、畑と牛さんブタさんの世話が好きなんだけど、銃も好きなんだよね」
ライル様が嬉しそうに真新しい銃を撫でていると、付き添っていたヴァレリア様がため息をついた。
「はあ……ほどほどにしてくださいよ。アナタ、銃を撃ちまくって興奮すると、今でも夜は元気なんですから」
「あはは……」
際どい夫婦の会話に、アタイとニア王女は顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。
そこへ、もう一人、スラッとした美しい男性がやってきた。
「これが母さんのアシュレイ工廠が作った新作銃だ! 俺はこのスコープの部分を担当したんだ。もっと倍率を上げたいんだが、今の技術だとせいぜい三倍が限度だな」
レオ様。確か、現皇帝フェリクス様の兄君で、発明家としても有名な人だ。『レオ自動車』の偉い人だということは、田舎者のアタイでも知っている。
「じゃあ、僕とヴェラさんで、試し打ちしてみればいいんじゃないかな?」
「えっ、いいんですか? こんなに立派な銃を……」
アタイは恐縮したが、ライル様は「気にしないで」と笑って銃を渡してくれた。
◇◆◇
射撃のルールは簡単だ。最初は百メートルの的から始め、当てたら五十メートルずつ後ろへ的をずらしていく。
ズドーン!
ズドーン!
百メートル、百五十メートル、二百メートル。
アタイもライル様も、難なく的のど真ん中を撃ち抜いていく。
新作の銃は、アタイの相棒よりも反動が少なく、恐ろしいほど真っ直ぐに弾が飛んだ。レオ様の作った三倍スコープも、視界がクリアで素晴らしい。
距離はどんどん伸び、ついに八百メートルに達した。
ここまで来ると、風の影響や弾の落ち具合を計算しなければ当たらない。だが、二人とも見事に命中させた。
そして、九百五十メートル。
ズドーン!
ライル様の放った弾は、的のわずか数センチ横をかすめて土煙を上げた。
「ああっ! 外したー! 悔しいっ!」
ライル様が頭を抱えて地団駄を踏む。先帝陛下とは思えない無邪気な姿だ。
(アタイの番か……)
アタイは深呼吸をし、精神を集中させる。
風を読み、距離を感じ取る。引き金を静かに絞った。
ズドーン!
千メートル先に設置された的のど真ん中が、小気味よい音を立てて弾け飛んだ。
「ストーップ!!」
そこで、レオ様から大きな声でストップがかかった。
「悪い、これ以上は無理だ! この射撃場を拡張しなきゃならない!」
「だよねぇ。確かこの射撃場、千メートルまでしか作ってないもんねぇ」
ライル様が苦笑いしながら肩をすくめた。
どうやら、アタイは先帝陛下に勝ってしまったらしい。
「ふははは! よくやったぞ、ヴェラ! 帰りに最高のアイスを買ってやろう!」
ニア王女が、自分のことのように自慢げに胸を張った。
◇◆◇
射撃を終え、ライル邸に戻ってきた時のことだ。
「ヴァレリア〜! 銃を撃ったら、なんだか燃えてきちゃったよ〜!」
「もう、アナタったら……昼間からですの? 若い時から変わらないわね」
ライル様は、出迎えたヴァレリア様にギュッと抱きつくと、そのまま奥の部屋へと消えてしまった。
(……聞くだけ野暮なんだろうな)
アタイは遠い目をして、見なかったことにした。
客間でお茶にすることになり、アタイとニア王女は、名物の『ハーグ豚』を使った生姜焼きサンドを頬張っていた。甘辛いタレと柔らかいお肉が絶品だ。
ふと、部屋に置かれたラジオから、ニュースの音声が流れてきた。
『――次のニュースです。本日昼、貴族院議会が「外人部隊」の設立を可決。その後、市民議会が予算を承認しました。これにより、正式に外人部隊が設立されることとなります。解説のセシリアさん、いかがですか?』
『そうですね。世界では、もう国同士の大規模な戦いはありません。しかし、警察では手に負えない凶悪な事件や、国境付近での小規模な紛争は起こると見られています。また、仕事を失った傭兵たちの、新たな受け入れ先としても大いに期待できるでしょう』
(外人部隊……傭兵の受け入れ先か)
アタイにはあまり関係のない話だと思いながら、最後の一口を飲み込んだ。
◇◆◇
その日の夜。
美味しい食事をいただき、お風呂にも入って、さあ寝ようとベッドに入った時のことだ。
「ああっ……アナタ……っ、ダメっ!」
静まり返った廊下から、ヴァレリア様の甘い嬌声が、はっきりと響いてきた。
(うわぁ……嘘でしょ……あの、お二人とも聞こえているんですけど……)
アタイは顔を真っ赤にして、布団を頭からすっぽりとかぶった。
しかし、響いてくる声はなかなか止まず、結局、明け方近くまで一睡もできなかったのだった。
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