第3話 列車の旅とハーグ散策
【ヴェラ視点】
『アヴァロン帝国歴182年 4月3日 帝都ハーグ 晴れ』
ガタンゴトンと、一定のリズムが心地よく響く。
アタイとニア王女を乗せた特別列車は、緑豊かなノヴァラの森を抜け、平原を猛スピードで駆け抜けていた。
(鉄の箱がこんなに速く動くなんて、本当に信じられない……)
窓枠にへばりつくようにして外の景色を眺めながら、アタイは感嘆の息を漏らした。
座席はフワフワの布で覆われていて、お尻が全然痛くならない。馬車のようなひどい揺れもないから、出された温かい紅茶を一滴もこぼさずに飲むことができるのだ。
森で野宿ばかりしていたアタイにとって、この列車の旅は魔法のように快適だった。
「ふふん。どうじゃ、ヴェラ。列車の旅は快適であろう?」
向かいの席で、ニア王女が誇らしげに胸を張っている。
「ああ、すごいよ。これなら、何日乗っていても疲れないね」
アタイが素直に感心すると、王女は満足そうにコクコクと頷いた。
◇◆◇
やがて列車は、巨大な鉄とガラスで覆われた駅のホームに滑り込んだ。
ここが、世界の中心。アヴァロン帝国の首都、『ハーグ』だ。
駅から一歩外に出た瞬間、アタイは驚いて立ち尽くしてしまった。
見渡す限りのレンガ造りや石造りの高い建物。きれいに舗装された広い道路には、馬車だけでなく、煙を吐いて走る自動車が行き交っている。
すれ違う人々は、アタイが見たこともないような、おしゃれで立派な服を着ていた。
「さあ、ヴェラ! 皇宮に向かう前に、少し街を案内してやろう!」
ニア王女に手を引かれ、アタイはハーグの街を歩き出した。
見るものすべてが新しくて、キョロキョロと首を動かすのが止まらない。
まず向かったのは、大通りにあるおしゃれな喫茶店だった。
そこで出てきたのは、昨日王女が熱く語っていた『アイスクリーム』だ。
ピカピカの銀色の器に、バニラ、イチゴ、チョコレートの三つの味が丸く盛られている。
アタイはスプーンですくい、恐る恐る口に運んだ。
(……なんだこれ、おいしいっ!)
冷たい舌触りの後、濃厚な甘さがフワッと溶けて消える。イチゴの甘酸っぱさも、チョコレートの少し大人な苦味も、どれも最高だった。
アタイは無我夢中でスプーンを動かし、あっという間に平らげてしまった。
「ふふふ、言った通りじゃろう?」
「うん! 毎日でも食べたいくらいだよ」
アタイが満面の笑みで答えると、ニア王女も嬉しそうに笑った。
その後も、街の観光は続いた。
大通りを歩いていると、遠くに巨大な建物が見えた。たくさんの足場が組まれ、職人たちが働いているが、どう見ても完成しているようには見えない。
「あれはなんだい? お城でも作っているのか?」
「ああ、あれか。あれは先帝ライル様が建築を命じた『新宮殿』じゃよ。もう何十年も前から作っておるのに、いまだに完成しないことで有名な、ハーグの名物じゃな」
(何十年も作っているのに完成しないなんて、不思議な建物もあるもんだ)
アタイは首を傾げながら、その終わらない工事現場を眺めた。
◇◆◇
たっぷりとハーグの街を満喫した後、アタイたちはついに目的地へと到着した。
現皇帝フェリクス様が住む、本物の『ハーグ皇宮』だ。
見上げるほど高い鉄格子の門の前に、屈強な近衛兵たちが立っている。
彼らが手にしているのは、槍や剣ではない。アタイの相棒と同じ、しかしもっと綺麗に手入れされた最新式のライフルだった。
(やっぱり、すごい場所に来ちまったんだな……)
急に緊張してきて、アタイは背中のライフルをギュッと握り直した。
田舎の狩人であるアタイが、こんな立派な場所に入っていいのだろうか。
「堂々とするのじゃ、ヴェラ。そなたは妾の命の恩人であり、大切なお客様なのじゃからな」
ニア王女の力強い言葉に背中を押され、アタイは大きく深呼吸をした。
そして、固く閉ざされた皇宮の門が、重々しい音を立ててゆっくりと開き始めた。
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