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ノヴァラの狙撃手『投げたら刺さった~ラッキーヒットで領主になった僕の成り上がり英雄譚』【ヴェラ編】  作者: 塩野さち


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第16話 ルーヴェン・ダリウス家の反乱~出撃前夜~

【ハーグ外人部隊総司令ルシオン・ゼルガノス視点】


『アヴァロン帝国歴182年 6月15日 帝都ハーグ皇宮 夜 曇り』


 分厚い雲が、帝都ハーグの夜空をすっぽりと覆い隠していた。

 私、ルシオン・ゼルガノスは、急な呼び出しを受けて皇宮の奥深くにある重厚な会議室へと足を運んでいた。


 部屋に入ると、そこにはすでに二人の人物が待っていた。

 一人は、アヴァロン帝国現皇帝、フェリクス・フォン・ハーグ陛下。

 もう一人は、帝国宰相を務めるグレン・フォン・オルデンブルク公爵閣下である。


「ルシオン殿、夜分にすまない。反乱がおこった。……グレン公」


 フェリクス陛下が、重々しい口調で切り出した。

 促されたグレン公が、手元の書類に目を落としながら口を開く。


「はい。ダリウス市にて、反乱が発生しました。首謀者はルーヴェン・ダリウスです」


(ルーヴェン・ダリウス……)


 私は顎に手を当て、記憶をたぐり寄せた。

 ダリウス公爵家の分家の中でも、最も古い血筋を誇る名家だ。本家よりも自分たちが正統であると自負している、鼻持ちならない保守派の連中である。


「と、申しますと、ダリウス家の傍流でしたかな? いったい何が不満で?」


「『先帝ライル陛下の退位後、帝国の威信は地に落ちた。古き良きダリウスの統治を今こそ取り戻す』……という、ただの懐古主義的な不満爆発ですな」


 グレン公が、やれやれといった様子で肩をすくめた。

 フェリクス陛下が、静かに言葉を継ぐ。


「そうだ。今は貴族院議員をやっている本家のアルブレヒト公爵から、早急に鎮圧してほしいとの要望が来ている。敵の数は、およそ五百名ほどだ」


「五百名……と、なりますと、ハーグ正規軍の一個歩兵師団一万名をわざわざ動かすのは、少しおおげさですな」


 たかが五百の民兵相手に正規軍を動かせば、それこそ帝国の威信に関わるし、何より税金の無駄遣いである。


「そうだ。だからと言って、重火器を持った武装民兵相手では、警察の手に負える規模ではない。……そこでだ」


 フェリクス陛下の鋭い視線が、私を射抜いた。

 なるほど、そういうことか。


「わかりました。ここは、我が外人部隊の出番というわけですな。ただちに、一個連隊千名を動員しましょう」


「勝てるか? もしそちが負けるようであれば、この私自身が出陣することになるが?」


 フェリクス陛下が、少しだけ挑発するように口角を上げた。


「ははは。倍の兵力で負けたら、さすがにできたばかりの外人部隊の存続に関わります。全力で対処し、必ずや鎮圧してみせましょう。……そこで、動員にあたり、私の『ボス』に許可をとりたいのですが」


「……ボスか。うむ、いいだろう」


 フェリクス陛下は苦笑しながら頷いた。

 私は優雅に一礼すると、きな臭くなってきた会議室をあとにした。


◇◆◇


 私は愛車の白い自動車を走らせ、郊外にある「ボスの家」――そう、先帝ライル陛下の私邸へとやってきた。


 コンコン。


 静かに玄関のドアをノックする。


「『幸運の使いで参った』」


 合言葉を告げると、屋敷の衛兵が黙って重いドアを開けてくれた。


 静まり返った屋敷の廊下を歩いていると、奥の部屋から、かすかな嬌声が漏れ聞こえてきた。

 どうやら、先帝ライル陛下と、最近お相手を務めているという外人部隊のヴェラ教官が、夜の「訓練」に励んでおられるらしい。


「何をしに参った? 先帝はいま、大事な任務中だ」


 不意に、凛とした声が響いた。

 暗がりから姿を現したのは、年齢を感じさせない美しさと、凄みのある威厳を放つ女性――元陸軍元帥であり、外人部隊の真のトップ。ヴァレリア様だった。


「夜分遅くに『幸運の使い』で参りました、ボス」


 私は居住まいを正し、先ほどの皇宮での会議の内容、そしてルーヴェン・ダリウスの反乱について、簡潔に事情を説明した。

 ヴァレリア様は、腕を組んで黙って話を聞いていたが、やがて静かに頷いた。


「わかった。外人部隊、出撃を許可する。出発は明朝とする」


「ははっ」


 私は深く頭を下げた。

 元帥の許可が出たとなれば、いよいよ軍は実力行使へと動く。

 これは、どうやらひどく忙しくなりそうだ。


(さて、実戦部隊の指揮は誰に頼もうか……)


 屋敷を出て、再び白い車に乗り込みながら思考を巡らせる。

 荒くれ者の元傭兵たちをまとめ上げ、確実に反乱を鎮圧できる人物。


(そうだ、ジューコフ将軍がいい)


 ルースキア帝国から流れてきた、あの歴戦の猛将。

 あのお方もまた、この国では「外人」なのだから、外人部隊の指揮官としてはこれ以上ない適任だろう。


「運転手、次はジューコフ将軍の宿舎へ向かってくれ」


 私は後部座席で葉巻に火をつけた。

 今夜はあちこちへの根回しで、ずいぶんと長い夜になりそうであった。


 空は曇っており、月明りはなく、闇夜に光るのは、車のヘッドライトだけであった。


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